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第2話:価値観の変化

「ところで婚活サイトって何登録するんだ?」


 竜二は、メールアドレスとか住所とかそんなものかな?と軽い気持ちで確認した。


「顔写真とか趣味とか…あと法律でスリーサイズも義務付けられてたはずやで」

 

「スリーサイズぅ!?まじかよ」


 顔写真と趣味は百歩譲ってわかる。

 

 だけど、信二が言うスリーサイズは話が別だ。竜二はスリーサイズをなぜ公表しなければいけないのか全く理解できなかった。


 8歳の時に女子になってから日に日に膨らんだきた胸、成長は自分とともにあった。


 最近では超うざい父親はもちろん、母親にだってサイズは教えていない。


 恥じらいは人一倍あった。


「なんでも男子がわたしたちを選ぶ基準にするらしいよー。こう言うときだけ元男の子だからそれぐらいいいよねって思われてるみたいだけど、私もいやだよー」


 対して胸が大きくない明人も心底嫌そうな声を出した。まったく、国ぐるみのセクハラだと抗議したい気持ちだ。




 だけど…こういうことは今に始まったことではない。



 あの恐ろしいT-VIDは世界を変えた。


 現代社会が初めて経験するパンデミック。


 少年少女が性転換してしまったことは世界にとって理解できない衝撃の事実だった。女装男子が急増したことを、生理的に受け付けられない…という身勝手かつ差別的な感情もあり、大人たちの関心事はT-VID流行前の世界秩序を維持することに向けられた。



「T-VIDだかなんだか知らないが最近の若い者は男女の区別もついてない!」


「ファンシーショップに女装男子がいて、マジきもい」


「男が女装なんてありえない」


「見苦しい」


 そんな声が当時の大人たちからあがったのである。




「だけど…娘が可愛そう」


「別にスカートぐらいいいじゃないか」


「ジェンダーフリーを実現するいい機会だ」


 最初のわずかな期間は、親世代や理解者からこのような意見もあった。しかし、実害が大きくなったため、このような大人たちの擁護は…長くは続かなかった。



「女子トイレに男の子が入ってる」


「男子トイレに女の子がいて、目のやり場に困る」


「T-VIDだかなんだか知らないが、トイレは生物学上の性別にあわせた方に入るべき」


「女湯に元女子高生乱入」


「銭湯がカオスになってて目のやり場に困る」


「女性専用車両に高校生ぐらいの男の子が乗っていて何のための女性専用車両かわからない」



「これはもはやジェンダーフリーの問題ではない!」


「子供の健全な発達に関わる重大な問題だ!!」


 そして時を同じくして、無防備な元男子中高校生が性被害を受け始めた。元女子生徒による同意のない性行為も多発したし、集団レイプ事件も発生し、多くの逮捕者を出すことになった。



 さらに、そんな混乱に追い打ちをかけるように世間を大きく騒がせるニュースが日本中を駆け巡った。


「まじかよ!?…青子ちゃんが逮捕されたらしいぞ」


 警察が人気子役である14歳の上原青子を連続強盗強制性交殺人で逮捕していたことがわかったのだ。被害者の多くは元男子の中高生だった。いずれも加害者である上原青子とは面識がなく、報道によれば夜道を一人で歩いていたところを彼女に襲われたのだという。


「はっ?レイプに強盗!?青子ちゃんがそんなことするはずない!ありえない」


 ある20代のファンの男性はそう憤慨し、嘆いたのだという。


 しかし…続報が…人々の認識を変えた。



「おい、写真見たかよ?青子ちゃん…ただのクソガキになってるんだけど…本人には悪いけど…ちょっとこれフォロー難しくね?」


「…もう天使の青子ちゃんは死んだ……」


 性転換後の上原青子の写真が週刊誌に掲載されてからというもの…多くの者が彼女を擁護しなくなった。性別のかわった上原青子の見た目は醜く、そこに過去の可憐な姿は1ミリもなかったからだ。T-VIDは彼女の体格を完全に作り変えてしまっていた。


 やがて、加害者である上原青子は人気子役であったと同時に、クシャトリア女子学院の生徒であったことも報道される。


 クシャトリア女子学院といえば凶悪犯罪とは無縁の名門お嬢様学校だ。クシャトリア女子学院のブランドは地に落ち、連日マスコミが休校中のクシャトリア女子学院を昼夜を問わず取り囲むなど大変な騒ぎとなっていた。


 いくら芸能人とはいえ、未成年者による犯罪がどうして顔写真付き実名報道されたのかは今でも不明だ。しかし、そこを問題視する声は当時、皆無だった。前代未聞の女性子役による性犯罪事件は公共性が十分すぎたのである。





 こんな混乱下、とある国が性別適応教育を実施したことで、性犯罪の件数や子どもたちの自殺者数を減らすことができたという報道が世界中を駆けめぐった。前代未聞の異常事態に人々は藁にもすがる思いで、早急な性別適応教育の実施を唱え始めていた。


「元女子はもはや女ではなく、生物学上の男である」


 自称専門家たちは突然、性転換したことで強い性欲に対する抑制が効かず犯罪行為に走りやすい野獣のような存在であることを強調した。そして、加害者となりえる元女子に対して早期の性別適応教育の実施を訴えたのだった。


「思春期外来大混乱『性教育の実施』早急に必要か!?」


 異変により世間の意見や価値観は完全に変化していた。本来であれば、国が直接教育に参入する性別適応教育の実施は極めて困難という結論になったはずだ。野党の反対は確実のはずだったし、そもそも違憲として裁判が始まる可能性もあった。


 けれども、こうなると極端すぎるほど極端になのがわが国である。女装姿の男子は全員性犯罪予備軍であるという極論が出るようになり、連日デモ隊が永田町を行進した。


「公共の場での元女子の女装や女言葉を禁止せよ」


「性別適応教育を実施せよ!」


「元女子を野放しにするな!」


「子どもたちは新たな性に適応せよ!!」


 現実は本当に残酷だ。


 元女子に対する風当たりは彼女たちが被害者だというのに、日に日に強くなっていった。被害者がおおむね15歳未満の者に限られており、大人たちから見たら被害者ではないかと誤認してしまうような現役女子高校生からも性別適応教育の実施が訴えられたことも理由の一つだ。


 上原青子を含む多くの元女子の見た目が多くの大人たちにとって「ただのキモい女装男」に見えてしまったのも大きい。


 人は内面の評価を外見でしてしまう傾向がある。美少年と化したほんのわずかな元女子を除いて、元女子の多くは、『T-VIDに感染し美貌を奪われた悲劇のヒロイン』とはなり得なかったのだ。


 諸外国では性別適応教育の実施を表明する国が増え続けており、さまざまな理由で各国政府から性別適応教育の正当性が訴えられていることが報道されたことも、国内で性別適応教育賛成派が急増した理由の一つだった。 


「諸外国ではすでに性別適応教育が行われています。日本も海外を見習い性別適応教育を実施すべきです!」


 こうして、一部の専門家からあがっていた「性別適応特別講習は違憲の疑いがある」という意見は、ほとんど報道されることなく、封殺された。それどころから異論を述べ続けた者は一般人、専門家を問わず性犯罪を容認するのかと犯罪者予備群扱いされる事態に陥り、性別適応教育反対の話題はある意味タブーとなってしまっていた。


 そんなわけで政府内でも慎重な議論がされることなく、わが国としては驚異的速さで、当時の少年少女に対し、「性別適応特別講習」という名の矯正教育が超法規的措置として実施されたのだった。

なんかいろいろ恐ろしいですね。自分でも書いていて怖くなります。

人々の無理解からこんな怖い世界にならないで欲しいと作者は感じています。


この話はフィクションです。

現実世界のお話ではありませんので、そこのところ、よろしくお願いします。



[2022年8月22日]

説明ばかりで読みにくいため、会話文を少し増やすなど一部、加筆修正しました。事件の被害者を元男子の「高校生」から「中高生」へ表現を変えていますが、このほかの内容は変わっていません。


[2022年9月5日]

一部セリフ追加や誤字脱字を修正しています。

本編の内容に変更はありません。

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