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吸血姫百合物語  作者: doLOrich
第1章 鹿島領
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第13話「容疑者は吸血姫⁉︎」

お久しぶりです。

少しずつですが連載再開していこうと思います。

「吸血鬼事件? 妾がユアンに悪戯したことか?」

「ちがーう! 最近街で血が全て抜き取られて殺された人たちがいるの」

「へぇ〜。 ………………ちょっとまってユアン、妾を疑っているのか⁉︎」

「だって吸血鬼ってだけで珍しいし、事件が始まったのもミラと出会った頃からだし……。ミラ……違うよね?」


 疑惑と不安の入り混じった声でユアンがそう問いかけた。

 

 そんなユアンの心情を察したのかカルミラは優しい声で応える。


「妾ではないよ。そもそも妾はお主と出会ってから今日までの1ヶ月はお主からしか吸血しておらん。ユアンがいるのに浮気なんてするわけなかろ」

「ほんとぉ?」


 ユアンがジト目で訝しむように見つめる。

 恋人や夫婦という関係ではないので浮気とは少し違うのじゃないかな? ……とユアンは少し思わなくもないが今は頭の中で留めた。


「ホントだよお。ユアンの血の味を知ったらそう簡単に他の人の血なんて吸えないもん。それに他の人の血吸ってたら昨日我慢できなくてユアンを襲ったりしないでしょ?」

「まぁ……うん。あっ、襲ったことはちゃんと反省してよね」

「それは重々承知。…………やっぱり吸血禁止は5日くらいに」

「だぁめぇ」


 胸の前でバッテンをユアンは作る。

 「うぐぅ」と声を漏らして下を向くカルミラだった。

 カルミラの話を聞く限り吸血鬼事件にカルミラはまったく関係しておらず、ユアンの不安は杞憂に終わった。

 となるとユアンとしてはもう吸血鬼事件は甚だどうでもいいことになるはずであったのだが、カルミラがその事件について食いついてきた。


「しかし吸血鬼事件とはねぇ……」

「ん、ミラ? 何か気になることあるのー?」

「ユアンが先ほど言っていた通り吸血鬼というのは希少なのよ。その中でも人に危害を及ぼす吸血鬼というのはほんのごく僅か。ほとんどの吸血鬼は、吸血する時相手に害が出ぬほどの量しか吸わないの」

「ミラがわたしの血を吸う時みたいに?」

「そうだね。しかし世の中には吸血する時に人を殺めてしまう吸血鬼もいる。そんな吸血鬼は大抵が人の手によって化け物扱いで討伐される」


 カルミラは苦々しい笑みで首チョンパのジェスチャーをする。何か思うところがあるのだろう。


「アルカードとか?」

「あー、あれはちょいと違うが化け物の吸血鬼としては一番の有名どころだね。『病魔の理(びょうまのことわり) アルカード』は吸血することで疫病に感染した眷属を作り、その眷属がまた人を吸血することで鼠算式に眷属を増やして大災害を起こした史上最悪の吸血鬼……。最後はエウロパ国軍によって討伐されたのだったかな」

「うん、本で読んだ」


 カルミラの説明はユアンの好きな英雄譚の1つの内容とほぼそのままであった。怪物を英雄が倒す話はユアンの大好物である。嫌いな歴史の話でもこういうのは好きなのだ。

 

「人を殺める吸血鬼というのは、被害が大きくなるからほぼその全てが有名なんだよね。そして妾の知る限り大東亜連邦にいた人殺し吸血鬼は過去に一人……、しかもそ奴はすでに討伐されておるのだ」

「つまり今回のは新しい吸血鬼?」

「むぅ、そうなのかなぁ。でも吸血鬼は基本的に魔力が高いから近くにいるなら妾が気づけないことはないはず…………と思う」


 「う〜ん」と頭を捻り、カルミラは考える。カルミラが探知できないほどの魔力しか持たない吸血鬼などいるのだろうか。しかし吸血鬼でないとするなら今回の事件の犯人は一体……。

 思考の海の中1つの解答が浮かぶ。


「眷属……」

「眷属?」


 カルミラがポツリとつぶやいたことに、ユアンが反応し疑問形で返した。


「吸血鬼によって人が吸血された時に魔力を注がれると人はその吸血鬼の眷属となってしまうの。眷属はほぼ吸血鬼の性質を持っているが魔力自体は元のままなのだ」

「なるほどぉ、つまり今回の犯人は吸血鬼の眷属なんだね。……って、あれ?」


 ユアンは疑問に思うことができたのか、首をコトッと横に倒して、


「じゃあその眷属を吸血鬼にした人って? ………………まさかミラ⁉︎」

「ち、違う違う‼︎ 妾は今まで一度も人の眷属作ったことないよ⁉︎」

「…………」

「そんな眼で見ないで、ユアン。違うから……本当に違うからぁ」


 捨てられた猫のようにユアンを見て、嘆願するカルミラ。

 その様子を見てユアンはクスクスと笑う。

 ユアンとしては先ほどの時点でカルミラのことは信用しているので、犯人とは思っていなかった。ちょっといじめたかっただけだ。


「じゃあ今回の犯人は一体?」

「多分眷属が一人でこの街にやってきたのではないかな。この街に吸血鬼がいるならば妾が気づくだろうし。眷属にしてからここに送り込んできた……とか」


 正確な答えは出せないがそんなところだろうとカルミラは思っていた。眷属は吸血鬼にら逆らえない。吸血鬼に命令されてこの領までやってきたのではないかと考えてはいる。しかし目的自体はわからない。

 そもそも吸血する時に、相手の血を全て吸う行為は相手の魂を吸い込むことで自分の魔力を増やす意味があるのだ。それを眷属にやらせたところでなんの意味もない。

 眷属の成長を狙った?

 そんなことをする吸血鬼をカルミラは知らない。


「ねぇ、ユアン。一緒に犯人探して見ないか?」

「ん、いいけどわたしいる? ミラだけでどうにかなっちゃうんじゃないの?」


 カルミラの魔力の高さと魔法の豊富さはユアンはよく知っている。まだ魔法1つでさえまともに扱えないユアンがいたところで足手まといにしかならないとユアンが思うのは当然だ。


「ユアンに手伝って欲しいことあるの。お願い」

「ん〜、ミラのお願いならしょーがないなー」


 犯人探しするなら必然的にユアンが出かけられる夜になる。

 また外の世界に行けることにユアンは胸が高鳴る。

 殺人鬼と出会うことへの恐怖はユアンは特に抱いていなかった。

 カルミラが一緒にいるならば安心できるのだ。


「あともう1つお願いしていいかな?」

「吸血禁止はやめないよ」

「もうそれは諦めてる反省してるごめんなさい。……えーとね、今日1日ユアンの影の中に潜んでていいかな。朝の日差しの中帰るの正直面倒くさいんだよね」

「あぁ……」


 ユアンはチラリと窓の外の景色を見る。

 昨晩の雨が過ぎ去った空は透き通るような青空が広がっていた。

 もうすぐ女中の誰かがユアンを起こしに来るころだろう。


「吸血鬼ってホントに日差しに弱いんだね」

「ん〜、死んだり魔法が使えなくなったりはしないけど気だるさがすごいことになるの。グデーって、なるの」

「わかった。それでどうやって影に入るの?」

「それはちょちょいのちょーいよ」


 カルミラはそう言うと、部屋あかりに照らされたユアンの影に手を触れる。

 ズズズッとその影の中にカルミラの身体が飲み込まれ、数秒と経たないうちに影の中へ消え去った。


(ユアン、聞こえるー? これが吸血鬼の固有魔法『影隠れ(シャドウズ・ポイント)』だよ)


「直接脳内に……⁉︎」


 空気の振動である音とは明らかに違う。

 耳で理解するのではなく、情報として脳に直接入れられている不思議な感覚をユアンは感じた。


(影の中に入っている状態だと会話できないからねー。今は『念話(テレパス)』でユアンに話しかけてるの)


「これわたしもできるようになる?」


 声を使わずに会話できる『念話』は秘密の暗号みたいでとてもかっこよかった。とても覚えてみたいとユアンは思ったのだが、


(無理……とまでは言わないけど、人種で『念話』を使うのは難しいと思う。魔力適性の高いエルフやヴァンパイアにとっては十八番なんだけどね)


「そっかー、残念」


(でもユアンと妾が会話する分には問題ないよ。心の中で妾に呼びかけてみて)


 ユアンはギュッと眼を瞑り、カルミラに心の中で呼びかける言葉を反芻する。


(ミラミラミラミラミラミラミラ……)


(そんなに妾の名前連呼しなくていいから‼︎ ……とまぁ、妾がユアンの考えを読み取って『念話』で会話することができるの。無条件にユアンの心を全て読み取るわけじゃなくて、ユアンが近くにいて、なおかつユアンが妾に呼びかけようとしている時しか心は読み取れないけどねー)

 

(なるほどー)


 コンコン


「お嬢様、失礼します」


 部屋の外から女中の久嗣純子の声がした。

 どうやらユアンを起こしにきたらしい。


(ユアン、あとは任せたよ。妾は少し寝る)


 影の中のカルミラはそう言うとスヤスヤと寝始めた。

 寝てても影の中に居続けれるなんて便利な魔法だなぁとユアンは思った。


 ガチャ


「……おや、お嬢様今朝は早いですね。いつもならまだスヤスヤ寝ているお時間ですけど」

「なんとなーく」


 適当に答えておく。

 寝苦しさに起きたら金髪の吸血鬼が添い寝してたんだよー、なんて信じてくれるはずもないし言うつもりもない。


「早起きはいいことですよ。お嬢様を朝起こすのは少し……いえ、かなり大変ですから」


 毎朝の光景を思い出し純子は呟いた。

 ユアンは朝が弱い。

 カルミラほど弱いわけではないが、それでもほたっていると二度寝三度寝としてしまうのだ。


「いつもこのくらい早く起きていただけると嬉しいのですがね」

「気が向いたらがんばる」


 ユアンはベッドから下りて身体を伸ばす。

 朝からカルミラとおしゃべりしてご機嫌なユアンだった。

 

 

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