タイミング逃した
行商人から手に入れた10冊の本に書かれている文字が、今は読める人もいない、神代文字、日文、阿比留文字だった事が分かった。
ロートとネロが本を覗いて教えてくれたのだが、全ての本に神代文字、日文、阿比留文字が入り交じり、どうしてこの文章を作り出したのか不明だ。
「統一性を持たして書いてくれよ!」と口には出さないが内心そう思っているジルだった。
「どうだ?ジル。解読出来そうか?」
「無理~」
手元のペンとノートをテーブルの上に投げたジルは、降参の様に両手を上げた。
「大体、3000年前に滅んだ文字を使うな!解読出来ないだろう?そもそも解読出来ないように作ったのかね~?ロート・・・?」
「解読出来ないように作ったんだよ。あのお方は。普段から神代文字を使って話をしていたな。買い物の時は今の我らが使っている言葉だが、家に帰ると神代文字を使い従者や小姓に徹底していた。」
ロートは懐かしい光景を思い出しながら遠くを見て思いにふける。
「小姓って平時の時は雑用係で戦時の時は親衛隊にもなったって言うけど有ってる?」
「当たってる。でも、あのお方の小姓は料理も作っていたぞ。あのお方があまりにも飯マズだからな?有名な話だぞ。フフフ懐かしいな。」
「食べたいのか?」
「全く!!」
青い顔をして首を横に振るロート。
あのお方の料理の腕は龍族やドラゴン族、長寿の一族には恐怖の対象になっている。
食べたら最後、嘔吐が止まらなくなり一週間も熱と寒気が続く。
創作料理と言って作った煮魚は何やら危なげな食材に変わり、ただ焼くだけの魚や肉は真っ黒焦げでカチカチだが箸で掴むとドロドロになり崩れるだからスプーンが必要なのだ。
あの方の料理は・・・。
カレーライスに至ってはもう何なのか分からない程だ。ルーが何故か緑色に変わりゴボッゴボッと何かが生まれそうな感じの気泡が出て来る。食べた者が皆吐血して、鍋の取っ手まで溶けている程だ。
食べていい料理ではない。
「ジルは何処で料理を覚えたんだ?」
「ここに来てからだ。始めはまともに作れなかったが、やってる内にだんだん上手になったのだ。ホムラもそうだぞ!。そうだロートも料理を作って行けば上手くなるかも?」
「そればかりは、ならんな。100年かけて毎日料理を作ったが一向に上手くなる兆しもない。作るたびに毎日色が変わる料理に同じ龍族の間から料理禁止が出てな長老から「我ら一族を滅ぼす気か?お主は料理禁止だ!食べる専門になっておれ!」って言われてな。ジルに出会い料理をもう一度作ったのだが、相変わらずの腕前だった。」
ちょっと遠い目をして昔を思い出すロートに顔をひきつるジル、ホムラ、ネロだった。
神代文字、日文、阿比留文字で分かる範囲内でロートに教えてもらいジルはメモを取りながら解読を始める。
「難しい。この文字達。」
「何だ?何だ?ジルは神代文字をマスターしたいのか?」
「そうだな。神代文字と日文と阿比留文字を完璧に扱いたいな」
「何で?」
「未知の言葉はカッコいい。それに分からない言葉だと人は話して来なくなる」
「冒険者ギルド対策ですね!」
「うむ。その通り」
「だから分かる範囲内で教えてくれ。ロート、ネロ」
「僕も入りますか?」
「「「当然」」」
ジル、ロート、ネロが「何当たり前の事言ってんだ?」と顔をしてホムラを見る。
(やっぱりか~!!)
3000年前に滅んだ語源だからロートもネロも良く分からない。
分かるのは「おはよう」位だ。
それでも凄い。
紅茶を飲み、梨の木からもぎ取った果実を氷水に着けて良く冷えた頃合いに梨の皮をナイフで剥く。
「今日は梨か~♪」
「林檎は昨日食べたしな」
「冷たくて美味しそうです」
5つの梨の皮を剥いて紅茶のお供にテーブルの上に置いた。
シャリシャリと音を立てて食べる冷えた梨は美味しい。
「王都の梨より甘味が有る」
「実も大きいし」
「食べごたえが有る」
「うん。良く冷えてる」
梨はあっという間に無くなった。
それからジル、ロート、ホムラ、ネロは神代文字、日文、阿比留文字を調べる為に話し合った。
(神代文字、日文、阿比留文字の事もっと聞いとけば良かった。
こんなに苦労するなんて、思いもよらない。
それに何かとてつもない大砲を造ったっての言っていたな?何か有名な船の名前えーと何だったけ?三式弾は覚えてるが何だっけ?)
ロートは覚えれるタイミングを逃した事を悔いてる。
◇
「おばちゃん、右舷の窓ガラスが割れた。」
「何だって?!」
「にーにー達、取っ組み合いの喧嘩して手当たり次第に投げた石がおばちゃんの家の窓ガラスに当たった!」
海で使われる用語を陸地で使う一族。海の生活をしていた訳でもなが、喧嘩っぱやい種族で、あのお方と戦をして直ぐに居場所がばれ64cm砲に手足も出せず降伏してから敵に居場所が分からないする為、あのお方に相談して1000年前から使い初めていた。
戦が無い今の時代でもその名残を受け継いでいる。
「おばちゃん・・・」
悪ガキ共の頭には、たん瘤が出来ている。
「右舷の窓ガラスは修理してもらうからね!」
日が暮れて街の門が閉まる時間になってきた。
「錨を下ろせ~!!」
「よーそろー」
頭上から下りて来る鉄の門が大きな音を立てて閉まる。
「明日の7時に抜錨な」
「よーそろー」
彼らの使用している海の用語は全て神代文字。
だけど、一度失い、また500年かけて復活させたのは、右舷、左舷、抜錨、取り舵、面舵、錨を下ろせ、よーそろーの7つの言葉だけだった。




