アユ
ホテル雅に戻って来たジルとホムラは、ススムに合いに言って軽く話をしてから部屋に戻って来た。
相変わらずアユの熱は下がらない。ススムも慣れて来たのかちゃんと食事を取るようになった。ススムにもたまには外に出る様に促すが縦に首を振らない。“あんまり口酸っぱく言うのも何だし”と思いジルとホムラはススムにアユの事を任せて部屋でサンドイッチを食べてる。
タマゴサンド、ハムカツサンド、フルーツサンドを食べ、トマトジュースを飲む。
「トマトジュースは癖があると聞いたけど、青臭さはしませんね。意外と飲みやすいです。」
「本当だね。飲みやすい。」
トマトジュースをグビグビ飲んで一息付いたら扉を叩く音にジルとホムラは顔を見合わせ、扉に近付き「誰ですか?」と聞いた。
「ススムです。」
「「!!」」
「今、宜しいでしょうか?」
扉のロックを解除してススムを部屋の中に入れ、ソファーに座らせる。ちなみにジルとホムラは共にベッドに腰を下ろした。
「どーした?」
「アユに何かあったのですか?」
「…ちょっと息抜きに行きたいのですが、」
「いいんじゃない?」
「でも、アユ姉さんの事も心配で…」
「丸1日息抜きしても大丈夫ですよ。多分」
「それかアユを連れて行くかだな。熱は下がってきたのか?」
「計りましたら38.5分でした。」
(意外と具体的な数字ですね)
「明日下がっていたら外の空気を吸いに行きなよ。アユもススムも気分転換が必要だよ。そしたらアユの熱が下がるかも」
「上がるかもしれません。」
「後ろ向きの考えはダメですよ。」
「明日の為に部屋に戻って寝て少しは、王都を楽しみなさい。」
「はい」
ススムは部屋から出て行ってジルとホムラだけ残った。
「明日になれば少しは下がっているよ」
「大丈夫ですよ。明日だけは、下がってます。アユですから」
次の日の朝、アユの体温を計ったら37.2だったのでススムとアユは王都観光に出掛けた。
「言った通りになりましたね」
「下がると思ったよ。」
「僕達も出掛けますか?」
「今日は、部屋にいよう。何処にも行きたくない。」
「それじゃ、明日ヒジカタを探して見ますか?」
「………誰だっけ?」
「薬屋の男性で意外とイケメンだった人で、鍛えれば素晴らしい冒険者になるかもと言っていた人です」
「そんな人いたか?」
「うーん、あっ、治癒魔法で助けた人です」
「あー、いたな。しかしヒジカタと言う名だったか?」
ジルは、人の名前を覚えるのが苦手だ。“どんなに手を尽くして覚えても指の間から砂の様にこぼれ落ちる様に忘れるてしまう”、キーワードが有るならこうやって思い出すが、それすら無い時は、全く思い出さない。
金貸屋もジルを“旦那、旦那”って呼ぶから覚えてるだけで、それが無かったら全く覚えてないだろう。
だが、すぐ忘れるのは異常だ。
前はそんな事無かったのに…
「ジルの記憶力が低いはずが無いのですが何で忘れるのですか?」
「そうだな…砂時計に例えると砂が落ちきってしまうとひっくり返すよな?」
「ええ、ひっくり返しますね」
「ひっくり返したその時に色々忘れてしまうんだ」
「いつからですか?」
「あれ?って思ったのは2回目の青い黄身を食べた後からかな?」
ジルの言葉にホムラが固まる。
「ホムラ?」
「…かなり前じゃないですか!」
「今覚えてるのは誰ですか?」
「覚えてるのは、ホムラ、ロート、ネロ、ススム、アユの5人だよ。ああ、それから元親とヒジカタね」
「ジルにとって、どういう認識ですか?」
「どうとは?」
「飲む前と後では違いが有りますか?」
「飲む前の記憶はちゃんとあるよ。ホムラもロートもネロも覚えてる。飲んだ後の方は、それなりに忘れる事もあるよ。でもホムラがいるから大丈夫」
笑って何でもないかの様に言うジルにホムラは少し照れながら黙っていた。
「明日はカギヤとタガキの処に行きましょう。今回の人の検査結果が分かるかも知れません。」
「餃子の店主だね」
「覚えてるのですね」
「印象強かったからな。ヒジカタを探さなくてもいいのか?」
「同時進行でやりましょう。」
その日はジルと途切れる事もなく話をした。
◇◇◇
次の日、朝早くからススムの訪問があった。どうやら昨日羽目を外しすぎてアユがまた寝込んだのだ。ジルもホムラも“あーまたか”と思いで聞き流していた。
「ススム。僕達は出掛けますが貴方はどうしますか?」
「私は、姉さんを「また姉さんか?」」
呆れるジルにホムラも困り顔だ。
「アユならほっといても大丈夫だよ。それよか、早く元気になってもらう為にお土産話をしてやれば、きっとちょっとづつ元気になるよ。それにシスコンなんて広まったら外に顔向け出来ないよ」
「…」
「今日1日考えてから決めれば?」
そんなにも気にしなくてもいいのにジルとホムラは思う。
アユはほっといても大丈夫だ。熱なんて元から無いのだから




