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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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勝手にやって来た3人

 「お前、もしかしてそれお湯を作る魔法か?」


 「うん、やってみたら出来た。 やってみたというか、思いついた言葉を唱えたら、今までより簡単に出来た、ですけど」


 「俺、結構お湯を作るの大変なんだぞ。

  水を呼び出すのはウォーターで、割と楽に出来るのだけど、それをプチフレアの応用で温めてとやっている時は、なんというかゴリゴリ魔法力を消費させられている感じがするんだが。 だから大アリの巣にもっと熱い湯を入れる時なんて本当に大変なんだ」


 ウィリーが僕が出来たと言った時に即座に反応して返した言葉に、他のみんなもウンウンと同意している。


 「おい、とにかく今はそれだ。

  もう1回、なんて言うのかしっかり俺たちに教えながら、やって見せてくれ」


 ウォルフがみんなの声を押さえて、僕にそう言った。


 「うん、いいよ。 『ホットウォーター』」


 しっかり言葉を確認したみんなは、それぞれに自分で試している。


 「あ、出来た。 難しくない。 『ホットウォーター』を唱えると、今まで分けてやっていた魔法が一息に簡単に出来て、ずっと楽になる」


 ジャンがそう言ったけど、そりゃ、みんな今までも温かいお湯は魔法で作って、風呂に使っているから、使い慣れてもいるよね。 すぐに出来るさ。


 みんなが自分でも出来て、今までより楽になると、確認したり話したりしているのを横目に、僕はもう一つ試してみた。


 「ボイルドウォーター」

 これも簡単に出来た。 こっちは大アリの巣に流し込む時の熱湯だ。

 出来たは良いけど、このお湯を湯船に入れたら、お湯が暑くなり過ぎて、自分たちが火傷をしそうだ。

 僕は洗い場の誰もいない場所に作った熱湯をぶちまけた。 湯気がぼうぼうと立った。


 「何々? ナリート、もしかして、大アリの巣に入れる熱湯の呪文も分かったの?

  何て言うの?」


 ジャンがすぐに僕がしていたことを察して、勢いこんで聞いてきた。 僕がその言葉を教えると、即座にジャンも試した。 当然成功した。


 「あの、それ。 いえ、熱湯の方じゃなくて、ただのお湯の方ですけど、僕らにも使えますか?」


 不意に僕らは声を掛けられた。

 つい僕らは話に夢中になって、周りに注意を払っていなかったのだけど、この風呂場には本来の普段ここを使っている丘の下のメンバーも、もう仕事を終わって入りにやって来ていた。

 僕らが夢中になっていたので、隅の方で小さくなっていたみたいだ。 悪い事をした。


 「うん、もちろん、使えるさ。

  もうみんなお湯は作れて、風呂桶に溜められるのだから、当然出来る。 楽になると思うよ」


 彼らも試してみると、ちゃんと使えた。


 「やった。 確かに楽にお湯が作れる気がするぞ。

  これなら仕事で疲れて、もう魔力がほとんどない時でも、風呂に入れるし、男湯と女湯、両方にお湯を溜められるんじゃないか」


 なんか気になること言っているけど、まあ良いか。


 「何だよ、お前らも使えるのかよ。

  俺、この中で1番の年上だけど、使えないの俺だけかよ」


 キイロさんが、何だか落ち込んだ調子で言った。


 「キイロさんは、お湯を作ることを今までしてなかっただけで、魔法は鍛治でいつも使っていたんですから、ちょっとだけ練習すればすぐに使えると思います」


 ジャンが慌てて、キイロさんを慰めるというか、言葉を掛けている。 でもまあ、ジャンの言うとおりだろう。

 それにしても、この場は何だか今までにない調子で、ジャンが主導しているな。


 メルトの次の鍛治に使う魔法が、メルトダウンという魔法だということは教わったけど、キイロさんが言うには、その魔法を使うのはまだ先の話だという。

 メルトダウンを使うには、それを使う為の炉を作る必要があって、そしてその魔法が使えるからといって、簡単に砂鉄や鉄鉱石が、キイロさんがここに来る時に持ってきたような鉄の地金になる訳ではないらしい。

 魔法で、僕が知っている知識よりも楽にことが運ぶのは確かだけど、やはり何でも魔法で出来るという訳ではなく、魔法で出来ることには限界があるということなのだろうか。

 まだまだ僕には分からないことが一杯ある。


 いや、この魔法がある世界でも、魔法を物凄く利用して何かをしている、という訳ではないか。

 僕たちはかなり魔法を利用して生活しているけど、一般的に多くの人が使う魔法なんてプチフレアくらいなのだから。

 だから古真語も知られていないし、あまり重要視されていないのかも知れない。

 魔法なんて便利なモノがあるのなら、それをどんどん利用した方が良いと思うのだけど。



 さて、僕たちは毎日キイロさんに鍛治を習っているという訳にもいかない。 それぞれにしなければならない仕事はたくさんある。

 キイロさんにしてみれば、どんどん違う炉を作って、鉄を製錬するところからここでの鍛治をやって行きたいようだが、今は僕らの誰かしらが時間が取れる時に、次の炉を作っている。

 僕らの誰もが仕事が詰まっていてキイロさんのところに行けない時には、草臥れた鍬や鎌を打ち直したり、持って来た地金で簡単なナイフなんかを作ったりしているみたいだ。

 キイロさんが持って来た地金はあまり量がないから、その程度しか出来ることがないのだ。

 この世界は、魔法を利用出来るとはいえまだまだ金属類は高価だから当然のことだ。


 ある日、急に合図の笛が鳴った。

 僕たちは、丘の下の開発も始めて、人数も増えて、それぞれの行動の範囲が広がってからは、何かしらの緊急事態というか予定外のことが起きた時に、すぐに広く知らせられるように、全員首に細い竹で作った笛をぶら下げている。

 その笛が吹き鳴らされたのだ。

 とはいっても、何種類か決めてある吹き方の、最も軽い吹き方なので、危険が迫っているという訳でもないのだろう。


 音の発生した場所は、たぶん町へと向かう道のところの門付近だろう。 予定していない者が近づいて来るのを誰かが気がついたんじゃないかと思う。

 何か強力なモンスターが向かって来たとかなら、もっと緊迫度の高い吹き方がされるだろうからだ。


 それでも僕らは笛が吹かれた時には、可能な限りその場の仕事を中断して、笛が吹かれた場に集まることに決めていた。 何があるか分からないからね。

 僕もすぐに、やっていた事を中断して現場に向かった。


 僕が到着した時には、もう僕の知らない人が3人、門から土壁で区切られている僕たちの開拓地に入って来るところだった。

 僕も誰かが来る予定はなかったし、最近は問題になるモンスターを見かけることもないので油断していたのだが、みんな外部を注意していなくて、発見が本当に間際だったのだろう。


 「おおっ、ぞろぞろと集まって来たな。

  たぶん俺たちを見つけて吹いたのだろうが、笛の音が聞こえたから集まって来るとは思っていたけどな、全員集まっているのか」


 僕は全く知らない人がそんな事を言っているのだが、誰かの知り合いかと思って、もうかなり集まったみんなの顔をみると、みんなもそれぞれに顔を見回しているから、どうも知らない人のようだ。

 やって来た人も誰かを知っているという雰囲気はあまり感じられないのだけど、ちょっと誰かを探している風ではある。


 「お、やっと来たな。 おい、お前、キイロだよな」


 少し遅れてやって来たキイロさんが、来た途端に呼びかけられて驚いている。


 「はい、そうですけど。

  あれっ、もしかして、ロンさん、フロドさん、トレドさんですか?」


 「大当たりだ。 もう忘れているかと思っていたぜ。

  お前のことは聞いたぜ。 鍛冶屋になったんだってな」


 「はい。 8年ぶりですか。 卒院されて以来ですよね。

  当たっていて良かったです。 実はあまり自信がなかったんで」


 「何だ、そうなのかよ。 喜んで損したな」


 キイロさんと3人はそれなりに話しているのだが、僕らは全く分からない。


 「すいません、キイロさん、紹介していただけると」


 「ああ、そうだな。 この3人は俺にとってもお前らにとっても先輩だよ。

  村の孤児院で、俺の2つ上だったんだ。

  ナリートは覚えている訳はないな。 ウォルフとウィリーなら覚えているかも知れないな」


 「キイロさん、俺たちでも無理ですよ、4つ上になるとほとんど接点がないですから、普通は」


 ということで、キイロさんが僕たちに、やって来た3人を改めて紹介してくれたのだけど、途中でやって来たシスターもその3人のことを知らなかった。 ほぼシスターと入れ替わりの形だったようだ。


 問題は、その先輩たち3人がどんな用事でここに来たかだ。


 「ここは町からも村からも離れた場所にあるだろう。 それで困っているんじゃないかと思って、俺たちは来たんだ。

  まあ、町でキイロがここに移住したという話を聞いて、本格的に村とまでは行かなくても部落程度のモノを作ろうとしていると分かったからな」


 ええと、つまり開拓が失敗しないで、一応軌道に乗ったことがほぼ確定したと思えたから来たということなのかな。

 僕はつい口を出してしまった。


 「えーと、先輩方は、僕たちが困っているだろうと思って、手伝いに来てくれたという事ですけど、一体何を手伝ってくれるのですか?」


 「ん、お前は誰だ?」


 「ん、何となく見覚えがあるような顔だな。 村の孤児院に居た奴か?」


 キイロさん以外の中で、明らかに一番年上だとは思えない僕が口を挟んだからだろうか、ちょっと意外だし、少し不機嫌そうな感じで、先輩方3人は僕を見た。

 その3人の様子を見て、僕以外の仲間たちは「えっ、何なんだこいつらは」という不審な者を見る目を3人に向けた。


 「こいつがナリートですよ。

  あれっ、もしかして知らないんですか?」


 キイロさんが、僕の名を言って、それに反応を示さない自分たちのことを不思議に思っているのに気がついて、弁明してきた。


 「いや、何となく孤児院にいたチビだとは分かる。

  俺たちは孤児院を卒院してすぐに、この地方を離れて、戻ってきたばかりだから、あまり最近のことは知らないんだ」


 「あのですね、このナリートがここの一番上なんですよ。

  ですからここの全員を代表して、先輩たちに質問したんです」


 「一番上というか、ここの開拓を最初に提案したのが僕なので、僕が代表のような形になっているだけなんですけど。

  話を戻しますが、先輩方はここで何を手伝ってくれるのでしょうか?」


 「一番の年上でもないお前が代表というのは、ちょっと驚いたな。 でもまあ、それは関係ないか。

  ここは町からも村からも離れているから、冒険者組合がある訳もない。

  こういった場所でまず困るのは、モンスターの対処だろ。

  そこで俺たちが来てやった訳さ。 俺たちは3人とも青銅級の冒険者なんだぜ」


 3人は誇らしげに首に下げていた銅のプレートを取り出して、僕らに見せた。

 うん、何ていうか、申し訳ないのだけど、空気が一気に冷えたというか固まった。

 3人は予期したリアクションが無くて戸惑っている。


 うん、きっと先輩方は、青銅級の銅のプレートを見せれば、集まった僕たちが歓声を上げるとでも思っていたのだろうなぁ。

 どうしたものかと思い、悪いけど一応、レベルとを見させてもらうと、3人ともレベル7。 うん、弱い。

 キイロさんの2つ上ということなら、成人したばかりということになる。 それなら普通よりは強いのかも知れないな。

 正直ここではほぼ最弱だけど。


 僕が困った顔をしているのに気づいて、たぶん察したのだろう、ウィリーが言った。


 「先輩方、ここでは冒険者は必要としてないんですよ」


 「必要としてないって、モンスターを壁で防げはしても、肉を食うには狩らなければならないだろ。 冒険者は必要だろ」


 仕方なくウィリーが言った。


 「おい、お前らプレートを先輩方に見せてやれ」


 僕らが後釜として孤児院にいる時に鍛えた数人がゴソゴソとプレートを取り出して見せた。 同じ銅のプレートだ。

 先輩方はとてもびっくりしている。


 「何で、こんな小さい奴らが青銅級のプレートを持っているんだ?」


 「あの、僕たち、この先輩たちに鍛えられて、孤児院にいる時に、特例措置で冒険者組合で青銅級にまではなれたんです。

  そうじゃないと、一角兎の肉を手に入れられなくなっちゃうので。

  この先輩たちは、もうその頃は一角兎は狩ってはいけなかったから」


 「一体全体どういう事なんだよ。

  俺たちは孤児院を出てから、苦労して青銅級にまでなったんだぞ、それもそんなに前の事じゃない。

  それなのに、こんなチビたちが同じ青銅級だなんて信じられるか。

  それに、それじゃあ、お前らはこいつらより上の級という事なのか?」


 「あ、俺たち領主様のところで衛士をしてたりしたこともあったりして、ま、それは冒険者の級にはあまり関係ないのですけど、困ったな。

  すみません、上です」


 「上って、つまりお前は鉄級冒険者なのか?」


 「すみません、俺たちというか、俺も含めたこっちにいる主要メンバーの6人は、あまり大きな声で言いたくないのですけど、銀級なんです。

  それから、ここにいる連中の中では、青銅級のプレートを見せた奴らが特別に強いということは無くて、一角兎程度なら誰でも狩っているので、肉を得ることには困っていないんですよ。

  一時は塩漬けにしておく為の塩に困ったような調子で」


 ウォルフが追い討ちをかけることになった。


 「あ、今、俺、ちょっと思い浮かんだんだけど、もしかして先輩方、竹の盾を使って一角兎を狩る方法を知らないんじゃないですか?」


 「何だよそれ」


 「ああ、やっぱり。 今ではあまりに普通になっちゃって、誰も知らないなんて思わないですからね。 戻ってきたばかりと言っていたから、もしかしたらと。

  このナリートが思いついた狩り方なんですけど、竹で作った盾を使うと、ほとんど危険なく簡単に一角兎は狩ることが出来るんですよ。

  もっともここでは、そんなことしないで、ポコポコ狩ってしまっていますけど」


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