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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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斥候役だけど

 「ナリート、お前一体何をしたんだ。

  大きな水玉をぶつけただけじゃないのか?」


 僕が水玉をぶつけると大蟻が盛大に苦しんで隙を見せたのを見て、みんなはとても不思議そうな顔をしている。

 ルーミエだけは何か考えているみたいだ。


 「えーとね、最近また小さい子が体を洗うのを手伝うことが増えたのだけど、その時にドロップウォーターを使って水を出しているんだ」


 「ああ、それは知っている。

  井戸の釣瓶を一々持ち上げるより楽だし、早いもんね。

  ナリートだけじゃなくて、ルーミエもやっているよね。 僕も時々手伝う時にはそうするけど。

  魔法の練習にもなるから丁度良いし」


 「うん、ジャン、そうなんだけど、最近はもう一工夫しているんだ。

  この頃もう少し寒くなってきただろ、だからドロップウォーターで出した水に、プチフレアをかけて温めてあげているんだ。

  土魔法でレンガを作る時って、クレイである程度の形で手のひらの上に出して、フォームで整形して、ハーデンで硬くするじゃん。

  そういうふうに重ねて魔法をかけることが出来るならば、出した水玉にプチフレアもかけて温めることもできるんじゃないかと試したら、思ったとおりに出来たんだよ。

  そうしたら、もう毎回それをせがまれちゃって。

  僕だけじゃないよ、ルーミエも出来る」


 「うん、あたしもやってみたら出来た。

  ナリート、もしかしたら、いつもよりずっと熱くしてぶつけたの?」


 「ルーミエ、大正解」


 「なるほど、それで大蟻は火傷して苦しんだんだな。

  俺は大蟻に逆に酸でもぶつけたのかと思ったよ。

  ま、そんな魔法は知らないけど」


 「ウィリー、僕だってそんな魔法知らないよ」


 みんなでちょっと笑った。


 「それならもしかして、私もその攻撃が出来る?」


 エレナがちょっと期待した口調で聞いてきたのだけど、僕はそれを否定しなければならなかった。


 「たぶん無理。

  いや全然無理という訳じゃないと思うけど、僕もこの攻撃はもうやりたくないかな。

  周りに水がないところで、まずドロップウォーターで水玉を作るのって、今やってみたら凄く疲れるんだ。

  僕でもやりたくないと感じるくらいだから、エレナがやったら一度で疲れ切ってしまうと思うよ」


 一緒にレンガ作りをしたりしているので、その作れる量の違いが自分と僕とでは大きいことは十分に知っているので、エレナはとても残念そうだったが、その攻撃をすることは諦めたみたいだ。

 エレナよりレベルが上、というより今いる中では僕の次にたぶん魔法がたくさん使えるルーミエは、自分で小さな水玉を作ってみたようだ。

 そのルーミエも諦めたみたいだ。

 男3人は、僕ももうやりたくないと言った時点で諦めたようだ。


 「それにしても刺してみて確認できたけど、大蟻って硬いのは本当に上だけなんだね。

  それだけど下から攻撃することは出来ないから、結局ハンマーで叩き潰すのが一番有効なんだね。

  でもさ、僕はやられたけど、大蟻遅くないじゃん」


 「確かにな。 俺はジャンが攻撃を喰らった後だったから、気をつけたから攻撃されずに触覚を切ったけど、重いハンマーを持って、酸の攻撃を避けるのはなかなか大変だと思うぞ」


 「目を狙っての矢の攻撃も私は弾かれた」


 「確かに体の方向を変えるのは結構速いし、俺の矢は目に刺さったけど、あれはまぐれかもしれないな」


 うん、確かに大蟻はなかなか攻撃が効かない手強い相手だ。


 「でもだよ、僕は大蟻を見つけるだけじゃなくて、狩りたいな」


 何だか、ジャンが妙に大蟻を狩るのに積極的だ。


 「ジャン、何だかいつもより狩りに積極的だけど、どうした?」


 「うん、何だかさっき大蟻に止めを刺したら、レベルが上がった気がするんだ。

  きっと大蟻は経験値がたくさん入るんだと思う。

  それを感じちゃったら、もっと狩りたくなっちゃった」


 「ああ、そういうことか。

  俺たちも領主様と狩りに行って、一角兎より高レベルの獲物を狩ったから、その感覚は分かるぜ。

  何だかレベルがすぐに上がる感じがして、その為に狩りたい気になるだよな」


 「それじゃあ、下から攻撃すれば良いんだから、落とし穴の中に入って、その上に網状の蓋をして、そこに大蟻を誘導してもらうか。

  でもそれだと、大蟻を下から攻撃すると、その体液を浴びちゃうな」


 「それに落とし穴の中に居ると、酸で攻撃されたら避けられないよ」


 ルーミエが穴を掘っての下からの攻撃案の致命的欠陥を指摘したことで、僕たちが自分で大蟻を狩ることはしない方向に決まるかと思った。

 そもそも僕たちが領主様から頼まれたことは、他の冒険者集団などの大蟻に戦いを挑む隊に、戦いを挑むのに丁度良い規模の大蟻の集団を見つけて知らせることだ。

 僕ら自身が大蟻と戦うことを期待されている訳ではない。

 今回戦ったのは、大蟻がどういうものかというかを、聞いた話や本の記述だけでしか僕たちは知らないので、実際にそのとおりかを確かめようとしただけだ。

 それも、大蟻は速くはないから逃げようと思えば逃げられるらしいということが分かっていたからだ。

 だから僕は大蟻をどうやったら狩れるかなんて考えていなかった。

 熱いお湯を大蟻の頭にぶつけたのも、たまたま思い浮かんだだけのことだ。

 僕は危険なことをしようなんて、さらさら考えていない。


 「あ、そうか、何も穴の中に入って下から攻撃しなくても良いんだ」


 ジャンは大蟻を自分たちでも討伐することを諦めていないようだ。


 「落とし穴の蓋じゃなくたって良いんだよ。

  竹で格子状の塀みたいのを作って、それを障害物にしてさ、大蟻がそれを乗り越えようとすれば、腹の方を見せるじゃん。

  その時に攻撃すれば良いんだよ。

  近づいて酸の攻撃を受けるのは嫌だから、弓での攻撃の方がいいな。

  僕も弓の練習をするよ」


 なるほど確かにそれなら僕らにも大蟻を危険なく討伐できそうだ。

 今のジャンの言葉で、ウォルフ、ウィリー、エレナが俄然やる気になったようだ。

 弓は、ウォルフとエレナはもちろん僕と今ではウィリーも射ることが出来る。

 ジャンも弓の練習をすると言っている。


 「あたしも、弓の練習をする」


 モンスター狩りに関しては、ちょっと蚊帳の外になっているルーミエが、自分も置いていかれるのは嫌だという気持ちを滲ませて宣言した。


 うーん、何だか完全に自分たちでも大蟻を狩ることになっちゃったよ。


 僕たちはそれから竹で格子状の、組み合わせると塀になるパーツを作った。

 それを台車に載せて、大蟻の偵察をする時には持って行った。


 最初は1匹だけでいるのを狙って、その時には自分たちで討伐した。

 試しで戦ってみた時みたいに、3人で矢を放ち、大蟻に自分たちの方へ来るように誘導した。

 僕はこちらで設置した塀を大蟻は、迂回して僕らの方に向かってくるかも、と考えたのだけど、大蟻は真っ直ぐに僕らの居る方に向かって来て、その塀を攀じ登って向かって来ようとした。

 作戦通りだ。 今回は僕らは簡単に大蟻を討伐することが出来た。

 大蟻は格子状の塀を登る時に、完全に腹側を僕らに見せるので、そこを射るのは僕でも出来る簡単な作業だった。


 大蟻を討伐したら、その触覚を切り落として持ち帰る。

 そうすれば大蟻を討伐した証明になって、報奨金が出る。

 大蟻を討伐した報奨金は、大蟻は一角兎などのように食べられないので、その体は売り物にはならないけど、割と金額が良い。

 それはそうだろう、ウォルフとウィリーによれば、平原狼なんかよりも討ちとるのが大変なモンスターらしいから。

 それに安かったら、いくら領主直々の依頼ではあっても、冒険者が集まる訳がない。


 僕らは最初の数匹を討伐した報奨金で、ジャンとルーミエの弓を買った。

 ジャンとルーミエは今まで弓を使ってなかったから、弓を持ってなかったからだ。

 2人の後で、エレナ、そして僕も弓を買った。

 僕とエレナの弓は、自作の弓だったので、やはり売られている弓の方が性能が良い。

 尤も今の僕は、もっと高性能の弓を作ろうと思えば作れる知識があるような気はするのだけどね。


 みんなが弓を持つようになって、大蟻を自分たちで狩ることは本格化して、だんだん1匹だけではなくて、複数の時にも狙うようになった。

 それは一つには、ウォルフとエレナが大蟻を弓で射ることに慣れてきて、大蟻の目を確実に射抜けるようになってきたからでもある。

 5.6匹なら、そのうちの2匹はこちらに向かって来る前に2人が両目を射抜けるので、目を射抜いただけではまだ死なないけど、確実に攻撃力をほとんど削れる。

 後の多くても4匹なら、塀のところで腹側を射ることが出来る。

 残念ながら、僕とウィリーの腕では大蟻の目を確実に射抜くことは出来なくて、たまに射抜ける程度だ。

 ジャンとルーミエはまだまだだから、それは無理だ。


 それでも結構な数の大蟻を僕たちは討伐することになったのだが、ジャンの言うとおり、大蟻討伐の経験値は大きかった。

 僕らの中で[全体レベル]が低かったジャンとエレナはその効果が大きくて、次々とレベルが上がり、ルーミエ、ウォルフ、ウィリーのレベル9に追いついた。

 そしてそのルーミエ、ウォルフ、ウィリーはもうすぐ僕のレベル10に追いつく。

 僕ももう少しでレベル11になるかなと思うけど、3人に追いつかれる方がずっと早いだろう。

 もしかすると全員がレベル10で揃ってしまうかもしれない。


 大蟻は、その巣を中心にしてその周りに広く分布する。

 つまりは町の方向だけではなくて、色々な場所に大蟻がいる訳だけど、まずは町に近づく大蟻の駆逐が先決問題だから、そっち方向で僕たちは討伐を主にする冒険者集団に知らせるのに都合の良い大蟻の集団を探していた。


 「たまには違う方向に行ってみようよ。 例えば川の方とかさ」


 エレナがそんなことを言い出して、僕たちは探索の方向を変えた。


 町もそんなに離れていない場所を川が通っている。

 僕たちの村と違うのは、町の近くの川は荒地に近いような場所を流れていることだ。

 川の周りに植物がない訳ではないけど、村の近くは林の中を流れているのだから、周りの風景は全く違う。

 そのせいなのか、村の近くはスライムが集まっているが、町の近くでは川にスライムはいない。 町の近くでスライムがいるのは、町の孤児院のみんなと罠を仕掛けた、泉のある小さな林くらいだ。

 まあ見通しは町に近い方向と変わらないから、大蟻を見つけるのに問題はないだろう。

 それに僕はもう大蟻は完全に認識できるので、不意打ちを食うことはない。 みんなももう確実に索敵できるようになってもいるので、僕がいなくても大丈夫じゃないかなと思う。


 川の方から大蟻を探ってみると、大蟻は川には近付かないみたいだ。

 スライムは水には入らないが川には近付くけど、大蟻は川に入らない所か近付かない。

 一角兎もそれほど頻繁ではないけど、水を飲みに川に近付く時があるし、平原狼はもっと度々川で水を飲むらしい。

 川の方には大蟻はいないのかなと僕は思ったのだけど、エレナは責任を感じているのか凄くがっかりしていた。

 何だか可哀想な気がして、少しは見つけてやりたいと思っていたら、はぐれ物なのか、偵察に出ている個体なのか1匹の大蟻に僕は気がついた。


 「やっと1匹見つけたぞ」


 僕が声を出す前にウィリーが声を出した。 単純に目視で見つけたようだ。


 「ジャン、私が牽制するから、あなたが止めを刺して」


 エレナがその大蟻に近い川辺に走って行った。

 声を掛けられたジャンも訳が分かっていなかったが、槍を持って走っていく。

 エレナは川のすぐ横まで行くと、ドロップウォーターを使った。


 エレナのドロップウォーターでは、大きさが小さいので、1発では完全な牽制にはならないのではないかと思ったのだが、それはエレナ自身も自覚していたようで、エレナは次々と3発も放った。

 ジャンはしっかりと止めを刺した。


 「やったー。 私だとナリートと違って3発もかかったけど、ちゃんと魔法で大蟻を牽制することが出来たわ。

  ナリートがやった時に、私も同じようにしてみたいと思ったのだけど、ナリートに止められちゃったけど、水が近くにある所なら私でもできるんじゃないかと思ったのよ。

  でも、確かに1匹に使うだけで凄く疲れるね、これ」


 何のことはない、エレナは水玉を熱くして大蟻にぶつけるのを自分でもやってみたかっただけのようだ。

 この後、ルーミエも自分もやりたいと言い出して、もう1匹の大蟻を見つけるのが大変だった。

 ウォルフ、ウィリー、ジャンも興味がありそうだったのだけど、都合の良い大蟻を見つけるが、というより川の近くに大蟻をなかなか見つけられないので、面倒だと思ったらしくて自分たちもとは言い出さなかった。



 「おい、お前たち、お前たちの役目は討伐するのに都合の良い大蟻の集団を見つけることだということを忘れてはいないよな。

  なんで斥候役のお前たちの方が、討伐役の冒険者たちより1人あたりの討伐数が多いんだよ」


 何故か1人あたりの討伐数では、僕らが一番多いらしい。

 ちゃんと本当の役目の斥候役の仕事もしていて、そっちでも僕らは一二を争って見つけて報告しているはずなのだけどなぁ。

 領主様からちょっとだけ小言をもらってしまった。


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