レベル10と夢
すみません、更新滞っています。
今回も地の文ばかりで、ちょっと長め。 斜めに読み飛ばしてください。
領主様の家にも行くようになって、もう一つ大きなことがあった。
領主様は忙しいことが多くて、なかなか僕とルーミエと一緒に過ごす時間を長くは取れない。
過ごす時間と言ったのは、話す時間というと何だか嘘がある気がするからだ。
領主様は僕たちと話はもちろんするのだけど、それだけでなく時間があれば、遊んだり戦闘訓練の真似事をしてくれたりするからだ。
ま、戦闘訓練というのは、領主様にしてみれば僕らを揶揄って遊んでる程度のことなのだろうけど、戦い方なんて教わったことなんてあるはずのない僕とルーミエにとっては、とても為になることだった。
何しろお陰で僕は槍術が残ポイントを使わずにレベル 4 に上がったし、弓術は 3 になり、ウォルフやウィリーに馬鹿にされないどころか、エレナとそんなに変わらない腕になった。
ルーミエはもっと凄くて、槍が上手くなるなんてことはなかったのだけど、なんと魔法で見えない盾を作ることができるようになった。
領主様はルーミエの[職業]が聖女ということから、過去の聖女が出来たことならルーミエにもできると考えて、その魔法を教えてくれたのだ。
教えるといっても、領主様自身がその魔法を使えた訳ではない。
その魔法「シールド」は高位のシスターや神官も使えるらしいのだが、聖女はみんな使っていたらしい。
領主様はルーミエが聖女だと知ると、聖女について巷の噂ではなく、過去の事例を調べてくれて、ルーミエにその魔法を覚えることを勧めてくれたのだ。
具体的にはどういうことかというと、魔法書を読んで、その魔法の練習をすることを勧めたのだ。
僕は、もちろんルーミエもだけど、魔法書という物があることさえ知らなかった。
魔法書は高価なのか、魔法書を読んで練習しても使えるようになる者が少ないからか、あまり一般的ではないらしく、学校にもなかったのだが、さすがは領主様で色々な魔法書を領主様は持っていた。
「集めて、自分でも使えるようになろうと読んで努力もしてみたのだが、儂が使えるようになった魔法は大した数ではない。
ルーミエのシールドだけでなく、お前らには許可するから好きに読んで色々な魔法を試してみろ。
あ、魔法書だけでなく、ここにある本は何でも読んで良いからな。
儂が時間が取れない時には、わざわざここまで来てくれたのに無駄足では申し訳ないからな、そのくらいの優遇はしてやろう」
後から考えると、この領主様から許されたことの恩恵はとても大きかった。
そうこうしているうちに、僕は自分がレベル 10 になったことを感じた。
レベル 9 からレベル 10 になるには必要な経験値がとても大きいから、もっとずっと時間がかかると思っていたのだけど、町の方にもスライムの罠を作ることになったから、1日に勝手に入ってくる経験値の数が増えて、何だかあっという間だった。
とは言っても、最初の頃の数日で上がって行くとか、何かしたら1発で上がるなんてことはなくて、さすがに数ヶ月単位の日数が掛かりはしたのだけど。
「今回のレベルupは、最近の時とは違って、もっとちゃんと考えて、しっかりと残ポイントなんかも割り振ろう」
僕はレベルが上がったと感じたその日の晩、寝床に入る時にそう考えていた。
ここ3回ほど、僕は残ポイントを[知力]以外に振り分けることをしないでいたのだ。
それぞれの項目のレベルは現状の数字で困っていなかったからだ。
レベルが上がり出した最初の頃は、必要に迫られて[酸攻撃耐性]や[治癒魔法]なんかに毎回の残ポイントを、知力以外どれに振り分けるのが良いかと悩み考えながら即座に振り分けていたのだけど、今はそこまで必要に迫られていることがない。
そうなると今度は[知力]以外はどこに振り分けようが逆に迷って、振り分けていないのだ。
今回僕がしっかりと残ポイントを割り振ったのは、領主様の家で魔導書を読み、そのお陰で新たにいくつかの魔法を覚えたからでもある。
学校にあった魔法に関する本は、正直に言って僕だけでなく、ルーミエにとっても意味がなかった。
学校の生徒はレベルが1か2の生徒がほとんどだろうから当然だとも思うのだが、学校で幾らかでも教えてくれる魔法は、生活魔法と呼ばれる魔法の最も基本の一つ、具体的にはプチフレア、小さな種火を点ける魔法だけだ。
その魔法でさえ使えるようになる生徒は半分以下だ。
それだから学校にある魔法の本は、プチフレアが使えるようになるための練習の仕方が書かれた本だけという感じで、あとは他の一般的な魔法の紹介という感じで、ヒールなどが触れられている。
僕だけでなく、ルーミエもヒールが使えるようになってすぐにプチフレアも使えるようになっていたので、学校にある本は意味がなかったのだ。
ちなみに、マーガレットもすぐにプチフレアを覚えたのは当然だけど、フランソワちゃんも使えるようになっている。
フランソワちゃんも[全体レベル]は年齢からするとかなり高レベルだと思うのだけど、[魔力]の項目も持っていたことは、僕はちょっと意外だった。
魔法がほとんど使えないと思われている[職業]が村人や農民の人でも、生活魔法のプチフレアは使える人がかなりいるし、冒険者になった人の中にはヒールが使えるようになる人もかなりの割合でいるので、魔法は上達速度は[職業]によって違いがあるけど、魔力自体は誰でもが持てるのだと思ってはいたけど、それでも僕は魔力を持つには条件があるのではないかと思っていた。
その条件というのは、魔法を自分で感じたり、身近に接する機会だ。
僕やルーミエの場合は、レベル2に上がる前にヒールをかけてもらう経験があったのだが、村長の娘というお嬢様育ちのフランソワちゃんではヒールをかけてもらうような怪我をしたことはないだろうし、プチフレアを使っているのを直接見る機会もないだろうから、そんな機会はなかっただろうと思っていたからだ。
でも実際には、フランソワちゃんはレベル2になった時には、[魔力]の項目はあった。
僕はフランソワちゃんは魔法を自分で感じたり、身近に接することはなかったのではと考えていたのだけど、話を聞いてみると本当は逆で僕らよりもより多く感じる機会、接する機会があったらしいのだ。
というのは大事にされていたからこそ、ほんの少しのことでもヒールをかけてもらっていたし、プチフレアは村長さんや奥方さんも使えて普段からフランソワちゃんの前で使っていたのだ。
その見せていた場は、灯りに火を灯すということだ。
孤児院では灯りを灯して何かするなんて神父様が行うくらいしかなくて、僕ら孤児がプチフレアで火を灯すのなんて見る機会はまずないけど、村長さんの家では普通の日常の中にそれを見る機会が多くあるのだ。
言われてみれば、僕の考えていたこととは逆に、かえってフランソワちゃんの方が魔法に親しんでいたのかもしれない。
そんな訳で、フランソワちゃんもすぐにプチフレアは覚えたし、身近でマーガレットがヒール、そしてイクストラクトを覚えようとしていたのに感化されたからなのだろうか、僕らがそれらを使えて自分だけが使えないのは嫌だったのか、ヒールも使えるようになってしまった。
残念だけど、イクストラクトは寄生虫を気持ち悪がる気持ちが強すぎる為か、いやそれ以前の段階の傷口から異物を取り除くことさえ出来ず、覚えられなかった。
おっと話が逸れてしまった。
そんな訳で学校にある魔法に関しての本は役に立たなかったけど、領主様の家にあった魔法書は大いに役に立った。
僕とルーミエは、その領主様の家にあった魔法書のお陰ですぐに幾つかの魔法を覚えたのだ。
魔法は魔法書があるからといって、簡単にどんどん覚えられるというものでは無いようだ。
僕は当然だがルーミエも、年齢からしたらとても高レベルであって、[魔力]の項目のレベルも高くなってはいる。
とはいっても魔法を使う経験は、僕の場合はヒール、ルーミエの場合はヒールとイクストラクト以外の経験はほとんどない。
それ以外の魔法なんて生活魔法と呼ばれるプチフレアしか知らなかったし、それを使うこともそんなに多かった訳ではないし、ヒールは2人とも内緒で練習していたくらいで、それもそんなに常に使って、数多くの使用経験があるという程でもきっとないだろう。
僕らはルーミエがシスターを手伝ってイクストラクトをたくさん使った以外は、それまでに使えるようになっていた魔法もそんなに使用経験があるとは言えない状況だったようだ。
つまりは魔導書はあっても、覚えられたというか、書いてある魔法で使えた魔法は数少ない。
それはとても普通のことで、領主の館で働いていた魔術師と呼ばれる人にも、それが普通と言うか、僕らの年齢で魔法を使えることの方が珍しく、使用経験が増えていけば使える魔法も増えていくのだと教えられた。
そんな訳で、僕たちが覚えられた魔法は、そのほとんどが生活魔法と言われているちょっとした魔法だけだ。
生活魔法はプチフレアが有名で、生活魔法とは僕はプチフレアを指すのかと思っていたのだが、他にもいくつかあることを領主の館に有った生活魔法について書かれた魔導書を見つけて初めて知った。
生活魔法とはいっても、それくらい魔法は知られていないか、使える人が少ないのだろう。
火を点けるのに使うプチフレアの必要性が大きいのは解るのだけど、他の魔法もとても必要性が高いと言うか、便利なものだと思うのだけど、どうして使える人が少ないのだろうか。
僕とルーミエは、生活魔法について書かれた魔導書に書かれていた魔法は、少し練習したら全て使えるようになった。
使えるようになった魔法は、ソフトブリーズ、ドロップウォーター、スモールクレイ、そしてムーブとクリーンいう魔法だった。
ただし、どの魔法もプチフレアとは違い実用性があるかというと、ちょっと疑問に感じてしまう魔法ではある。
ドロップウォーターは手のひらの上に小さな水の玉が出せるだけの魔法だし、スモールクレイはそれが粘土の玉に置き換わるだけ。
ムーブという魔法は、単独では最初は意味がないのかと思ったのだが、名前の通り動かす魔法で、これは僕たち2人は初めから使えた。
それは何故かというと、イクストラクトはこの魔法を含んでいたからだ。
ソフトブリーズは、最初発動しなかったが、イクストラクトにムーブが含まれていたように、ムーブも意識したら本当にわずかな風が吹くようになって、1度それが出来たら2度目からはムーブを意識しないでも吹くようになった。
ドロップウォーターとスモールクレイにも同様にムーブを意識したら、手のひらの上の玉が跳ねるように少しだけ飛んだ。
ま、どれも何かの役に立つとは言えない程度のことで、プチフレアだけが生活魔法として知られている理由がなんとなく解ってしまった。
中でも最も疑問だったのがクリーンで、僕は汚れを落とす魔法だと思って、凄く期待したのだけど、使ってみて発動しているのはなんとなく魔法を使っている感じがするので判るのだけど、何も起こらなかった。
具体的な変化が何も起こらないので、訳が分からないと思ったのだけど、それは本を記した人も同様だったらしいが、その本の中の記述にヒントが隠されていた。
昔から料理人が調理場に入った時におまじないのように唱える魔法だという記述だ。
僕はこの魔法はもしかすると、汚れを除去する魔法ではなく、殺菌・滅菌の魔法なのかもしれないと思った。
僕はちょっとだけ残したパンを、竹で作った容器2つに分けて入れ放置し、片方にだけ1日1回クリーンをかけてみて実験してみて、やはりその効果があることを確かめた。
長々と覚えることが出来た生活魔法のことを書いたのは、この役に立たないと思われていた生活魔法をいくつも覚えたから、[項目]に生活魔法という項目が出来るかと思ったら、生活魔法という[項目]が出来なかったからだ。
その代わりにちゃんと出来た[項目]があった。
それは、水魔法、土魔法、動魔法、風魔法、そして聖魔法だった。
それを見た僕は、考えてみればもし生活魔法という[項目]が出来るのなら、プチフレアを覚えた時に出来ていても良かった訳で、その時に生活魔法ではなく火魔法が出来ていたことに今更ながら気がついた。
もしかすると、生活魔法と呼ばれるプチフレア以外はほぼ使われることのない簡単な魔法は、色々な魔法の基礎となる魔法なのかも知れないと僕は考えた。
それもあって僕は今回のレベルupでは様々な[項目]を今までにとっておいた残ポイントも使って、そのレベルを上げた。
特に色々な魔法の項目は、大元だと思う[魔力]の項目から始まって、全部の項目を上げておくことにした。
少しだけ残念なのは、ライトバグという小さな光の玉を出す魔法は、まだこの時点では覚えていなくて、光魔法の項目のレベルは上げられなかったことだ。
ライトバグの魔法は、僕らが特例で年齢制限を無視して冒険者登録が出来たことを知った後で、御者さんに教わった魔法だ。
「ナリートくんは、冒険者登録を特別にしてもらえたらしいね。
そのお祝いに、一つ魔法を教えてあげるよ。
ヒールが使えるナリートくんなら、きっと覚えられると思うよ」
そう言って教えてくれたのが、ライトバグの魔法だったのだけど、教わったのがちょっとだけ遅かったのだ。
その時に、御者さんもヒールを使えることを僕は初めて知ったのだけど、もしかすると御者さんは昔はかなり高位の冒険者だったのかも知れないと思った。
今回の機会に僕は自分の[称号]も良く見てみたのだけど、治癒魔法使い・火魔法使いという称号はあったけど、他の魔法についてはなかった。
やはりただ魔法が発動したというだけでは、称号になるという訳ではないみたいだ。
僕は、周りにはほとんど無視されているけれど、プチフレア以外の生活魔法と呼ばれる魔法もしっかり練習しようと決意した。
そうして残ポイントの振り分けも決定すると、僕はいつものように眠りに落ちたのだけど、いつもとは違ったことがあった。
僕は夢を見たのだ。
夢の中で声が聞こえた。
こんなことはレベルが 2 に上がったとき以来だと、何故か夢の中で思った。
「成人になる頃には、普通の人より早くレベル10になるかと思っていたけど、予想以上の速さでレベル10になったね。
レベル10になったことで、君はほぼ前世の中学生くらいまでの知識を手に入れたことになる。
手に入れたのは知識であって、君の希望通り記憶ではない。
一部、この世界で暮らして行くために有用な知識があったので、中学生以降に前世で手に入れた知識も思い出させてあげたけどね、サービスだよ。
これからもレベルが上がる毎に、もっと前世の知識は思い出すから、それを活用していけば良いさ。
それらは今のこの世界の人からしてみれば、とても高度な知識だからとても有用だけど、技術がかけ離れ過ぎているから、なかなかそのまますぐには役には立たないかもね。
それにこの世界は、君が前に暮らしていた世界とは違っていて、魔法なんて物もある。
前世の知識を活用しつつも、それを踏まえてどうしたら良いかをじっくり考えてみると良いよ。
でもまあ、そんなに難しく考えることじゃなくて、君が望んだ城作りはどうやったら出来るか考えたら良いんじゃないかな」
次の朝起きた時に、僕は夢の中で、そんなことを言われたことを明確に覚えていた。
それからあらためて、僕の頭の中には色々な知識があることに気がついた。




