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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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城下村発展でも大問題が発生

 結局僕らの村は、シスターたちの受け入れはともかくとして、馬の繁殖を領主様から命令されたことをきっかけにして、周りがどんどん開発されていくことになった。

 馬の生産に必要な牧場だけでなく、豆のための畑作りの必要はすぐに思いついたが、それによって増える人口のための農地も必要になることは盲点だった。


 塩作りは、そこまでの道のある程度の敷設と、製塩のための最初の施設作りが終わると、直接的には僕らの手を離れた。

 製塩は塩水の濃度を上げても、最後は魔法を使って水分を蒸発させなければならないので、村の仲間がその作業に関わらないようになると、作業効率は極端に悪くなり、出来上がる塩の量は減ることになった。 塩水を汲み上げたり、施設の上部に運び揚げたりする作業のために集められた労働者は、全員火の魔法を教えられて、毎日ギリギリまで使うことが義務付けられているけれど、そう簡単にレベルが上がって魔力が増える訳ではないからだ。

 魔法を日常的に使って生活している僕らの仲間が特別であって、今までそんなことをしてこなかった人たちが、急に始めたのだからそれでも頑張っているのである。


 「まあ産出量は極端に減りましたが、続けていれば徐々に増えることでしょう。

  急に増えずに少しづつ増えるというのは、周りにバレにくくなるとプラスに考えましょう。

  施設も人員も少しづつ拡大させていきましょう」


 文官さんは、最初と違って、少しづつの塩の生産量の増加となることをがっかりするかと思ったら、意外に安心したような顔をしていた。 そして少し悪い顔も。


 「そうそうナリートくん。 ここで作られた塩は全部領主が買い取るということにしますが、その金額の半分はナリートくんたちの取り分としますね。 もちろん税は引いて渡すことになるけど。

  この湧水の発見も、塩作りの方法の考案も、道の敷設と施設の構築もナリートくんたちですから、当然の報酬でしょう。 今は産出量が少ないので金額的にはあまり大したことはないですが、少しづつ増えていきますし、ずっと収入が続くのですから、結構大きな金額になっていくと思いますよ」


 僕は道や施設を作った費用は払ってもらいたいと思っていたのだが、僕が想像していたよりも塩作りは僕らの村に利益をもたらしそうだ。 良かった。 道作りや施設作りをさせられた仲間たちは、僕とルーミエの指示に従って、文句を言うことなくその作業をしてくれた訳だけど、それで村に何も利益がないのでは申し訳ないからね。


 「それからですね、ナリートくん。

  城下村で働くことを考えている女性達とその家族の受け入れを急いでくださいね。 そのためにここの生産効率を犠牲にして、君の村の人員で塩を作ることは諦めたのですから、その分頑張ってください」


 「あれっ、何の話かな」と思ったけど、それをしっかりと文官さんに確認すると、余計に色々と依頼というか言われることが増えそうな気がして、僕はその場は黙っていた。 文官さんは色々と忙しいからか、そんな僕の様子には構わずに、僕に伝えておくべきことは伝え終えたという感じで、すぐに次の仕事にと去って行った。

 文官さんに正式に伝えたいことがあるからと呼ばれた時、結局手が空いていたのは僕とルーミエで、いつもの様に2人で領主館にやって来たのだったが、文官さんも来たのが僕ら2人だったので、余計な説明の手間が省けたという感じで、とてもあっさりと今回の用件を終えたらしい。 結局のところ、塩の利益の半分を城下村のモノにするという事が、伝えたい用件だったのかな。 何だか呆気ない。

 おっと文官さんの最後の言葉の意味をルーミエと確認しなくちゃ。


 「文官さんの言っていた、城下村で働く女性達って、何の話?」


 「アリーが話していたじゃん。 『布を織る人手が足りない』って。

  そのために増やす人だよ」


 「別に織れるだけ織れば、それで良いじゃん。

  前みたいに布が足りない訳じゃないし、糸クモさんの糸の布を商店に売っているから、村としての収入にも今は困ってないんじゃないかな。 それに、前ほど大蟻退治の依頼はないけど、今度から塩の収入も入るという事だから」


 「そんな訳にはいかないよ。

  織っているのは、糸クモさんの糸だけじゃなくて、前からの麻や葛の糸もあるし、綿も本格化してきた。 フランソワちゃんが主に綿だけど、その栽培を奨励して、それで色んな所で作られた糸を買い取ってもいるし。

  糸巻きは簡単に作れるから、それぞれの村でも自分たちで作って、糸作りは出来ている。 それで少しは昔ながらの方法での布作りで、自分で作った糸から布も作っているけど、城下村で織り機で作るのに比べたら、質も悪いし、量も作れない。

  それで私たちの村でそれらの糸を買い取って、その糸を布にして売るということになっているのよ。 何しろ織り機はジャンとロベルトの2人しか作れないから、それはもう仕方ない。

  他の村の人たちにしてみても、布にするのは私たちのところに任せた方が、出来た物の質の違いや、掛かる手間を考えたら楽だし得なのよ」


 「布にするのは、僕らの村でした方が効率が良いということかな」


 「そう。 私もフランソワちゃんが綿の栽培を奨励するようになってから気がついたのだけど、綿花って少しスライムを減らすと、囲いを作らなくても結構出来るみたいなのよね。

  考えてみれば、前から野原にもあって利用していたのだから、それも当然なんだけど。 スライムの罠は、もう良く知られる様になったから、そこら中で作られている。 だから、植えてダメにされる分があっても、囲いを作らないでも採れて、私たちが買い取るから現金収入にもなるということで、多くの人が作り始めたのよ」


 「僕たちの村で買い取るって」


 「最初は王都なんかの町にも、あれを出荷する様になったから、単純に原材料として足りなかったのが前提としてあって、それをフランソワちゃんが栽培を普及させるためのニンジンとして、ウチの村で買い取るからと宣伝したら、もう一気に」


 あれというのはシスターとルーミエが売り出した女性のためのあれのことだろう。 それの内側は綿を詰めたモノだから、それの普及のために数多く最初は作っていたからね。 その流れのままに、その後は原材料としてのそのままの形ではなく、糸にした一次加工品の形でも買い取る形になったのだろう。

 ふーん、そんなことになっていたのか。 布とかは織り機を最初にジャンたちと一緒に作った後は、僕は興味が薄れてもうお任せだったので、そういった経過をあまり聞いてなかった。 まあ、アリーが喜んで頑張っていたのでジャンが、それからロベルトが織り機作りに張り切ったからというのもある。

 僕はそうなんだと軽く流して聞いていたが、あることに気がついてしまった。


 「あのさ、ルーミエ。

  僕らの村で買い取っているというけど、そのお金ってどうなっているの?

  えーと、僕らの村が得たお金って、いったいどうなっているんだっけ?」


 基本的に僕らの城下村ではお金を必要としない。

 元々がほとんど何も個人的な物を持っていない孤児院出身者の集まりだからもあって、ほとんどのことが自給自足と何とかしようとしている。

 もちろん城を作り始めた時には、前提として必要になる資金はある訳で、その資金はウォルフ、ウィリー、エレナが、僕とルーミエとジャンが孤児院の卒院になるまで領主館で働かせてもらっていた時の給金とか、僕らが冒険者として稼いだお金とか、とにかく色々頑張って工面した。 どうしても当座の食料とか、栽培する野菜の種とか、農機具とかの機材とか買い集めなければならない絶対に必要な物はあったからね。

 そう、城を作り始めるまでや、作り始めて少しの期間は、そういった物を手に入れる必要から、僕も常に資金をどうするかを考えていたし、その時その時の現状を把握していた。

でも城下村という形が大体出来て、何とか暮らしていけるようになると、僕はそこには関心が向かず、ルーミエたち女性陣に任せる形になった。 僕だけでなく、ウォルフ、ウィリー、ジャンもそんな感じだったからもある。


 僕らがそんな感じになってしまうのは、やっぱり孤児院育ちだからというのが大きいと思う。 孤児院ではみんなが共有して、力を合わせないと生きていけなかったし、全て平等に分けられることになっていたからだ。

 それに孤児院で育っていると、自分のお金を持ったり、使ったりする機会もない。 それだからか、孤児院の延長線の様な形で存在している城下村では、今までは外部との特別場合でしかお金のことを考える必要がなかった。

 女性陣がお金の管理をするようになったのは、キイロさんの奥さんのタイラさんがいたこともある。

 キイロさん夫婦は僕らよりも年上で町での生活も長いから、当然だけどお金を使っての生活に慣れていた。 でもそこで財布の紐を握っていたのは、ま、分かると思うけど、キイロさんではなくてタイラさんの方だ。 そういうのを女性陣はタイラさんに教えられて、金銭的な管理は自分たちがしなければいけないと思ったのではないだろうか。

 ちなみにシスターはこの件に関してはあてにならない。 シスターは最低限の私有物しか持てないことになっていて、シスターを辞めた時には私服をどうするかに困ったくらいで、自分でお金を使う生活に慣れてないからだ。


 「お金に関してはね、マイアが全部一括して管理しているよ。

  最初は私と、お金を使うことに慣れているフランソワちゃんで管理していたのだけど、私たちは王都に行っていたりしたじゃない。 それだからマイアが管理することになった。

  マイアも私と同じだから、タイラさんに相談したり、文官の人や、お店の人なんかにも話を聞いて、買取の価格を決めたり、売る時の値段なんかを決めたりしているみたい。

  糸を売ってくれた人には、普通に売るのとは別で安く売ることにしているみたいだよ」


 そうなんだ。 じゃ、もうそこは何も言わないことにしよう。 変に首を突っ込むと色々と仕事が増えそうな気がする。 いや面倒が増えそうな気がする。

 うん、マイアに任せておけば良いよね。


 「あ、でも、マイアがナリートに話があるって言ってたよ。

  ほら、ナリートは一応城下村の代官ということになっているから、領主館への報告とか税とか、色々ナリートが確認しなければいけない事が溜まっている、とか言ってたよ」


 えー、それじゃあ代官もマイアがしてくれないかな。


 「あとさ、女の人を増やすって、これはどうなるの?」


 「糸にはなっているけど、織る人も、染める人も足りてないからよ。

  領内の布の需要を満たすだけじゃなくて、お店でも糸クモさんの布だけじゃなく、綿や麻の布も買い取りたいって言ってきている。 布が均一に織られているし、色が綺麗に染まっているから、それも高く売れるという事らしいよ。

  前にも言ったけど、織り手を増やすには、まずは織り機を作らないといけないのだけど、それでジャンとロベルトは大忙しだし、キイロさんも材料の一部を作っていて、素材の鉄や木材は、お店が他から運び込んで安く卸してくれているらしいよ。

  で、村にやって来てくれた女の人は、まずは織り機の使い方とか、染色の仕方とかを城の工房で覚えてもらって、出来る様になったら依頼する形かなって。 織り機は最初は貸し出す形にするしかないって、マイアとアリーが相談していたよ」


 なんだか既に随分と具体的なところまで話が進んでいるようだ。 きっと僕も話を聞いていたのだろうけど、適当に聞き流してしまっていたのだろう。


 「それで何人くらいの女の人がやって来るのかな?」


 「何人じゃなくて、何十人という単位だと思うよ。 一度にじゃないだろうけど。

  そうでないと間に合いそうにないし、今のところ織り機も染色も私たちの城下村でしか出来ないから、集まってくるしかないから」


 「でもそうしたら、その女の人だけじゃなくて、一緒に来る人もいるよね。

  その人たちの住む場所が必要になるし、食べる物とかも穀物は他から持ってきてもらっても、葉物野菜とかは必要だろうし」


 「うん、そういうこともあって、文官さんに呼ばれたんじゃないかな。

  もっと城下村を広げて人の受け入れをするように、と。 その為に塩作りの人員に城下村の者たちは使わないことにしましたよ、ってことかな」


 ええっ、なんかそれ、とっても面倒なことを押し付けられた気がする。

 堀の外に作った移住者の区画って、もうみんな埋まったんじゃなかったかな。 そんな区画をもっとどんどん作れっていうことなのか。

 どうしよう、これ。 城に戻って、みんなと相談しなければダメだな。

 ジャンとロベルトは機織り機作りで忙しいし、たぶんウィリーとウォルフはキイロさんに鍛治の手伝いをさせられているよな。 だとしたら、誰に担当して貰えば良いのかな。


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