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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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やる時はやる

 「お前ら、少しは物の加減というか。

  まあ、仕方がないな、先に構わないかどうか質問されて、儂ははっきりと『構わない』と答えたからな」


 領主様は驚いたというよりは呆れたという調子で、ウォルフとウィリーに言った。


 「あ、お前、ちょっと待て。

  冒険者証だけは、死骸と一緒にそのままにしといてくれ。

  他の金属類は戦利品だから好きにして構わない。

  おい、お前たちもぼさっとしてないで、手伝ってやれ。 剣などの武器や防具を全て外し終えた死骸は台車に載せろ。 町に持ち帰って、身元をしっかりと洗い出して、仲間や背後を完全に炙り出すぞ」


---------------------------------------------------


 野盗たちは、僕たちを全く警戒する素振りも見せず、良く言えば堂々と道を集団でやって来た。

 見張り台からはかなり前にその姿が確認出来たので、僕たちの配置はすでにその計画の通りに終わっている。


 もちろんその野盗たちが、ここにやって来るだろうことは、もう僕たちは知っていて、今か今かと待ち構えていたのだ。 しっかりと知らせが届いていたからね。


 問題はいつ奴らがやって来るかだったのだが、奴らはきっと僕たちのことを舐めているだろうから、その姿をしっかりと見せるために、昼間にやって来る可能性が高いと考えてはいた。

 しかし、夜間のうちにやって来る可能性は捨てきれなかったので、僕たちは交代でここ2日ほど昼夜を問わず見張り台から周囲を警戒していたのだ。

 まあ、道の近辺はあまりモンスターは出ないけど、それでも夜だと発見が遅れて危ない可能性もあるから、暗い中、人目につかないようにやって来るということは、まずないとは思っていた。

 本当に暗ければ灯りを持たないと夜の移動はできないし、移動できるだけの月明かりなんかがあれば、上から見ていれば、まずは発見できるだろうとは思っていたのだけど、それでも僕らは気になって、僕の場合はかなり広範囲になっている空間認識を人間を意識して来る可能性のある方向を探ったり、ウォルフ、ウィリー、エレナ、ジャンなんかも索敵をちょくちょくしていた。

 2日程度で来てくれて良かった。 そうでないと奴らが来るのを見つけることだけで、疲れ切ってしまいそうだった。


 「橋を下げろ。 そして門を開け。

  こちらの要求に応じないと、それ相当の代価をお前たちに払わせるぞ」


 やって来た野盗は、門の前の堀の所まで来ると、そう言って僕たちを脅してきた。

 さすがに最初から橋が下げてあって、門が開いているというのは、わざとらし過ぎて警戒されるかもしれないと思って、門を閉め、橋は上げてあった。

 堀は水が張ってはいないので、橋が上がっていてもその堀を越えることはそんなに困難ではないのだが、汚れるのが嫌なのか、そこまでする必要を感じていないのか、野盗たちは誰も堀を越えては来なかった。


 「全部で22人だよ!!」


 見張り台の上から、エレナが野盗の人数を報告して来た。

 うん、知らされた人数と変わっていない。 それで全部なのかな。


 野盗たちはエレナの声を聞いて、僕たちがその人数を聞いて恐れたと思いでもしたのだろう。 笑い声が上がった。


 僕たちは予定通り、まず橋を下ろし、それから門を開けた。


 野盗たちは、門が開いてから、ゾロゾロと全員が門内へと入って来た。

 その瞬間、僕は勝った、と思った。


 僕たちが緊急で行った土木工事は、門の内側に門を囲んでしまうように土塁を作る事だった。

 門を入った先はすぐに土塁にぶつかり、右に曲がった先に2番目の門があるのだ。 門の部分に繋がっている土塀も、今はもう塀ではなく厚みのある土塀となっていて、前よりも高さも高くなっていた。

 つまり野盗たちは、土塀でほぼ四方を囲まれた長方形の広場の中に入ったのだ。


 僕の一番の心配は、前に神父様と一緒に来た2人が今回もその野盗の中にいて、門から入ろうとした時に、前の時と様子が違うことを警戒して、その事を野盗たちに警告して、門を入って来ない事だった。

 どうやら、その2人は今回は居ないのか、そこまでの警戒心を持たなかったようだ。


 「おい、なんだ、また門があるのか。 早くこの門も開けろ」


 頭目なのだろうか、さっき門を開けろと要求した男が、また同じように要求してきた。


 「あの、今回ここに来られた方は、これで全員なんですか?」


 2番目の門の横の土塁の上に姿を見せたウィリーが、その男に恐る恐るという調子で聞いた。

 その男は何を勘違いしたのか、上機嫌な声で答えた。


 「ああ、これで全員だ。

  俺たちのために、宴会の準備でもしてくれるのか」


 その返答を聞いた瞬間、ウィリーが右手を上げた。

 その合図で最初の門が閉まり出す。


 「お前ら、何をしやが・・」


 門が閉まり始めた瞬間、異変を感じたらしい野盗の頭目は声を出したが言い終わることは出来なかった。

 門が閉まり始めるのと同時に、土塁の上で姿を見せないようにしていたみんなは、それぞれに土塁の上から野盗たちに攻撃を加えたからだ。


 僕とウォルフは、上のエレナからの指示で、それぞれに弓を持っている野盗を狙い撃ちした。

 僕たちが考えていたよりも弓持ちの野盗の人数は多くて、僕とウォルフとエレナの3人では一度では倒せない4人だった。

 僕も最初の担当の1人を倒したら次を狙おうと考えたけど、きっと最も弓が上手いウォルフが仕留めることになるだろうと思った。

 実際はウォルフが仕留めるまでもなかった。 その前に他の者にやられてしまっていたからだ。


 僕たち弓の3人が次の矢を番えて放つより、他の者の攻撃の方が余程速いのだ。

 他の者たちがどんな攻撃をしたかというと、石を投石器を使って投げて攻撃したのだ。

 兎狩りで鍛えた腕が役に立った。 人間という的は兎よりも余程大きく当てやすい。

 

 そもそも攻撃する人数が、野盗の3倍以上で、投石器の使用によって威力の増した石は当たると1発で野盗たちを行動不能にした。

 野盗たちは身を隠す場所もなく、四方から石を投げられ、なす術もなく打ち倒されていった。

 石を投石器に乗せて投げるという動作は、弓を射るよりもずっと速いので、野盗たちは自分たちが攻撃され始めて驚きを脱する前に、反撃を考える間もなく、絶え間なく石で打たれ、倒れていった。

 倒れても石が投げられることは止まず、とうとう幾らかでも動く者もいなくなった。


 「攻撃、やめやめ!!」


 ウィリーが攻撃を止める命令を出すまでに、そんなに時間はかからなかったと思うけど、土塁で囲まれた長方形の広場の中は凄惨なことになっていた。

 少し興奮が収まったら、その見える光景に顔を青くした仲間がたくさんいた。 僕もきっと青くなっているだろう。


 「俺とジャンで、まだ攻撃して来そうな奴がいないかどうか確認する。

  ウォルフ、エレナ、ナリート、弓を構えていて、少しでも動くのがいたら、即座に攻撃してくれ」


 「ウィリーくん、私も確認に加わりますよ。

  大人が何もしないのもバツが悪いですからね」


 知らせに来てくれた人が、ウィリーとジャンに加わると言った。

 攻撃して来そうな奴がいないかを確認する、とウィリーは言ったけど、実際には生きてる野盗がいるかどうかの確認だと思う。


 すぐに矢を番えて待っていると、2番目の門が開いて、確認に入って来ると思っていた3人だけでなく、ロベルトたちも槍を構えて出てきた。 それでも警戒のためだろう。

 この確認作業も簡単に済んでしまった。

 思った通り、攻撃を生き残った野盗は1人もいなかったからだ。

 これで僕たちの安全はとりあえず確保出来たと思ったら、何だか力が抜けた。


 えーと、次はそろそろ大急ぎでやって来る領主様たちが来るぞ、出迎えなくっちゃ。

 あの死体の間を歩いて橋の所に行かないといけないのは、ちょっと嫌だな、と僕は思った。


 「よし、この野盗どもの持っている金属なんかを全部回収するぞ。

  剣だけでなく、ナイフなんかも持っているかもしれないからな。 見落とさないように丹念に確かめろ」


 キイロさんの掛け声で、そんな作業が始まった。

 ああ、そういう事も必要だったんだ。 僕はそこまでのことは全く考えていなかった。


 「領主様たちが来たよ」


 上からエレナの声が降ってきた。

 僕は急いで橋のところまで走って行った。

 ちょっとだけ、金属の回収作業を自分はしないで済んだのが嬉しかった。 だって、顔が石で変形した死体とかって、見るのも気持ちが悪い。


---------------------------------------------


 「野盗の死骸は全て積み込みが終わりましたので、我々は先に町に向かいます」


 「儂もすぐ戻るから、冒険者組合の担当などを呼んでおいてくれ。

  かなりの数の野盗が冒険者証を持っていたみたいだからな。 そっちからも何か辿れるかもしれん」


 領主様は少しの側近と、もう少し僕たちと話して行くようだ。


 「野盗との戦いは、ウォルフ、お前が考えていた通り、お前らの圧勝だったようだな。

  こうなると思っていて、殺して構わないかを聞いてきたんだろ」


 「いえ、僕はここまでのことを考えていた訳ではなくて、野盗との戦いとなると、僕には手加減出来る余裕はないので、一応確認しとかないと、と思っただけです」


 「お前らの方は大丈夫なのか。 怪我人は?」


 「はい、僕たちの方は無傷です」


 領主様はウォルフの受け答えを疑ったみたいで、シスター、そして知らせに来た人と、確認の視線を送った。

 シスターはウォルフの答えは本当だと頷いただけだったが、知らせに来た人はそれだけでは領主様が本気にしないかと考えたみたいで、声に出して肯定した。


 「領主様、本当です。 こちら側には何の被害も出ませんでした。

  一方的に野盗を鏖殺しただけです。

  野盗と戦ったというよりは、モンスターを集めて、一度に駆除した感じです」


 「一体どうやって、あの野盗共をやっつけたんだ?

  数体の矢傷以外は、刃物傷ではなく打撃痕のようだったが」


 知らせに来た人は、自分が見たことを領主様に説明した。


 「小石がそこかしこに転がっているから、石を投げたのであろうことは気がついていたが、石を投げただけでそこまで圧勝できるのか?」


 「単純に石を投げたのではなくて、投石器を使って威力を上げていますから。

  僕たちじゃないな、ここに居る僕たち以外は、石を投石器で投げて一角兎を狩ったりしてますし、それが遊びにもなっていたりしたんで、石を投げるのは上手なんです。

  事実としては、野盗は石が1発どこかに当たると、ほぼ戦闘不能でした。

  僕も驚いたのですけど、戦闘が始まったかと思ったら、あっという間に野盗は戦闘不能の状態に全員がなってました」


 僕も説明に加わった。


 「えーとだとすると、お前らは野盗のほとんどの奴らの攻撃手段である剣や槍が届かない土塁の上から、一方的に攻撃して、皆殺しにした訳か。

  弓を持っている奴はいなかったのか?」


 「 弓を持っている奴がいるのは、最初から予想していて気にしていたので、一番最初に僕とエレナとナリートで弓で潰しました。

  実際は4人いて、もう1人も早く潰さねばと思ったのですが、僕たち3人がする必要なく、そいつも何もする間もなく、倒されていました」


 「うん、まあ、何というか、儂らが来る必要は無かったな」


 領主さんたちは、何だか複雑そうな顔をしていたが、早々に町に戻って行った。 きっと、これからやる事がたくさんあるのだろう。

 実際問題としたら、領主様たちが来てくれて、野盗たちの死体を持ち去ってくれなかったら、その処理に頭を悩ますところだった。 助かった。


------------------------------------------------


 領主様たちが戻って行って、今回の騒ぎが終わったと思ったら、本当に気が抜けたのだろうか、急激に体の調子が悪くなった。

 体調が悪くなったのは僕だけではない。

 野盗と戦ったり、その戦いの後の野盗の酷い死体をみたりしたショックもあるし、全員疲れていたのもあるのだろうけど、僕たち全員が調子が悪くなってしまったようだ。


 何とか少なくともモンスターの侵入を許さないため、門を閉め、橋を上げることはした。

 その後はもう気力が続かず、みんな寝床に転がり込むので精一杯だった。


 僕たちは全員、二日間寝込んでしまった。

 全員が寝込んでしまったため、糸クモさんの世話が出来ず、起き上がれるようになった者が、自分も食事が取れていなかったのに、先に糸クモさんの世話をしなければならないことになってしまった。


 とにかく一番酷かったのが僕で、僕は3日目に何とか起きたのだが、その日はフラフラだった。

 その翌日、ルーミエが僕の体調を気遣うことなく、興奮して僕に言った。


 「ナリート、みんなを見てみて。

  みんなレベルが上がっている。 低かった人は2も一度に上がっているよ」


 ここまで興奮した口調で僕に捲し立てていたルーミエは、急に目を見開いて沈黙し、しばらく僕を見つめた後で言った。

 ルーミエのあまりに驚いた顔付きに、僕は何事なのかと思って、ちょっと止まってしまった。


 「嘘。 ナリートも2レベルが上がっている。

  他の人とは違う。 ナリートが今、一度に2も上がるなんてあるの?」


 僕もルーミエの言葉に驚いて、慌てて自分を見てみる。

 本当だ、確かに僕の[全体レベル]が2上がっている。


 結局、今回のことで判ったのは、これは大きな声で言うことはできないのだが、人間を殺してもレベルは上がるみたいなのだ。

 そして今回の土塁で囲って、一方的な戦闘をしたという方法は、どうやら罠とみなされて、僕の[職業]罠師の特別なところの恩恵が有効になったらしいのだ。

 つまり、今回の野盗たちを退治した経験値は、土塁作りを僕たち全員が必死にやったので、全員に分配されたという訳だ。

 そうして、野盗たちの経験値は、野盗たちのレベルによって、今まで退治してきたモンスターとは比較にならない多くの経験値を僕たちにもたらすことになった。


 今まで一番多くの経験値を僕たちにもたらしてくれたのは大蟻退治なのだが、普通の大蟻はレベル4に過ぎない。 そんなに大したことはない。

 大蟻退治がたくさんの経験値になるのは、巣に閉じ込めて一気に多くの大蟻を退治すること、そして女王蟻を退治することによる。

 その女王蟻でさえ、レベルは倍のレベル8だ。


 レベル8というのは、前に神父様と一緒来た2人の低い方と一緒のレベルだ。

 今回来た野盗たちのレベルは、僕がまともに見たのは、気付かれないように盗み見した頭目のようだった奴だけど、僕はちょっと驚いたがレベル14だった。

 他は見た訳ではないけど、たぶんこの前の低い方と同じということはなかったんじゃないかと思う。 頭目より少し下くらいじゃないだろうか。


 だとすると、罠の効果によって、僕には膨大な経験値が入って来る。

 レベルが僕らよりずっと低いとはいえ、一度に2レベル、分配されても入って来る経験値の僕を除いたみんなが受け取る総量と同じだけ僕には入ってくるのだ。

 うん、いくら僕のレベルが高かったとはいえ、レベルが2上がっても少しもおかしくないな。 むしろ、それでも2しか上がらなかったのか、という気分だ。


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