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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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何を言っているのかな?

 開かれた門を通って現れたのは、神父様とそれを護衛して来たかの様な男2人。

 まあ神父様1人で、町を経由して来たとしても、スライムや一角兎だけでなく平原狼や大猪なんかも出る可能性がある道を辿っては来ないだろう。


 現実的には、最近は町と僕らの集落の間は、道をかなり整備したこともあって、それなりの行き来がある。

 町との往来が安全に出来ないと、諸々困るし、最初の頃は僕らを除いたメンバーでは、何かが出たら対処できないので、ウォルフとウィリーが中心になって安全確保のために道の周囲のモンスターを徹底的に排除した。 まあ、狼も猪も一度排除されても、そのうちまた彷徨って寄って来るのだけど、それらも見かけ次第排除する様にしている。

 だから道を来る分には、ほぼ安全ではあるのだが。


 でもそんな事は、ここに住む僕たちと、日常的に関わりのある一部の町の人しか知らない訳で、安全の為に神父様が護衛も連れてやって来たことは理解出来る。

 ただ、一緒に来た護衛の見た目が良くない。

 どう見ても、きちんとした冒険者か何かを頼んだのではなく、どこかのゴロツキという雰囲気の男なのだ。

 こんなところで変な倫理観を振りかざしても仕方ない。 僕は神父様たち3人をしっかりと見てみた。


 神父様の[全体レベル]は、以前と変わらずレベル10のままだ。 つまり僕が神父様のことを見ることが出来る様になった時から、神父様は全くレベルが上がっていない。

 ルーミエに脇を突かれて、小声で話しかけられた。


 「ナリート、神父様のこと見た?」


 ルーミエも3人のことを、しっかりと見ている様だ。

 今はシスターがここの唯一の大人として、最初に神父様に挨拶しようとしているところなのだが、3人を目にした瞬間に、ルーミエもしっかりと見ようとしたようだ。


 「うん、3人とも見た」

 「神父様、レベルは前と変わっていないね。

  でも、アルコール中毒ってのになっているよ。 後の2人の1人もだけど。

  後の2人は、感じ悪いけど、レベルは全然だから問題無いね」


 後の2人もレベルは9と8で、もうこの春の新人たちと比べても、レベルが高いとは言えない。 ただ、1人の[職業]が盗賊なのは気になるけど。

 まあ逆に言えば、ここでは普段からレベルが上がる様なことを毎日しているということなのだけど。

 その雰囲気を見て、ウォルフ、ウィリー、ジャンが警戒している様だから、全く問題ないだろう。



 「神父様、シスターを辞めた時に挨拶に伺って以来、しばらくお会いする機会もありませんでしたが、今日はどの様なご用件でこちらに来られたのですか?」


 「シスター・カトリーヌ、いやもうシスターを辞められたので、カトリーヌさんとお呼びするべきですね。

  今日は私も、私の村の孤児院出身者が中心となって作っているという集落を、この目で見てみたいと思って、来てみたのです。

  やはり私も、村の孤児院を卒院した者たちの行末は、気になることの一つですから」


 「えーと、ご一緒に来られた方は?」


 「ああ、この2人は私がここに来るのに、1人では危ないと護衛をかって出てくれた方なのですよ。

  武骨な格好をしていますが、そういったことを職業にしているからなのだと、気にしないでください。

  ところで、かなり立派な畑が広がっているのが見えますし、かなり広く石壁ではなく土壁の様ですが囲ってもいるみたいですね。 開拓は順調に進んで、成功しているのですか?」


 「そうですね、今のところ順調に進んでいると私にも思えます。

  でも私がここに来たのはシスターを辞めてからですし、私が中心になって作った集落じゃないので、その辺りのことは私からは何とも言えないのです。

  ここの集落のことについてはナリートから聞いてください」


 うーん、シスター、僕にわざわざ話を振ってくれなくても良いのだけどな。


 「それじゃあ、ナリート君、教えてくれますか?

  集落作りは順調に進んでいますか?」


 神父様はもちろん僕たちの関係性を良く知っているから、年上のウォルフやウィリーではなく、僕をシスターが説明役に選んだことを不思議がることもなく、僕に質問してきた。


 「はい、神父様。 順調に進んでいると思います。

  ただ、最初にここの開拓をしようと計画した時には、ほんの数人が住む場所を作れたら良いなというだけの計画で、こんなに大人数の人が住む集落を作るつもりはなかったんです。

  大人数になったのは、領主様が開拓の後押しをしてくれるだけでなく、『町や他の村の孤児院卒院者も住めるようにしろ』と注文を付けてきたからで、それで最初の計画よりもずっと大事になってしまいました。

  それで元の計画にどんどん付け足していくことになってしまって、気付いたら今みたいになっていて、そんなですから順調に進んでいるかどうか、本当のことを言うと良く判りません。

  それでも、この集落の収穫で大体食べていける様になってきたので、順調だと言えるのではないかと思います」


 神父様とシスター、そして僕がそんな話をしていると、神父様と共にやって来た護衛の2人は退屈そうな顔をして神父様の後ろに立っていた。

 その2人をいくらか気にする素振りを見せながら、ウォルフが声を掛けてきた。


 「神父様、神父様の出迎えにみんな集まってしまったのですが、俺たちを除いて、普段の仕事に戻しても良いですか?」


 「ああ、それはすまなかったね。

  みんな、出迎えてくれて、ありがとう。 仕事に戻ってくださいね」


 笛の音で集まったみんなは、神父様に一礼すると、それぞれに今日の元の仕事に戻って行く。 やっぱり少し残って、丁寧に挨拶してから戻るのは、僕らの村から来ている者たちだ。

 ウォルフが、「俺たちを除いて」と言った範囲が分かりづらくて、丘の上のメンバーがどうしようかと迷っているみたいだ。


 「ナリートとルーミエとジャン、それに俺たちとエレナ、フランソワちゃんも残ってもらうか。

  マイアが迷うところだけど、マイアとロベルトで丘の上を綺麗にしておいてくれ」


 ウィリーがそう言って、神父様と共に残す人数を決めた。 もちろんシスターは一緒だ。

 ウィリーもウォルフと一緒で、なんとなく神父様と一緒に来た2人を警戒しているような感じで、もしかするとみんなを遠ざけようとしているのかも知れない。

 この流れに乗れずに戸惑っていたのがキイロさんとその奥さんの2人だったのだけど、その2人にはウォルフが「後で鍛冶場に行って、見てもらうことになると思うから」と、その準備を勧めてた。

 キイロさんたちも神父様に軽く挨拶すると戻って行った。 キイロさんたちも神父様とは面識があるみたいだ。


 「それじゃあ神父様には、丘の下から見てもらえば良いよな」


 ウォルフのその言葉で、僕たちは神父様に見てもらうために、丘の下の畑、田んぼと水路、糸クモさんのための植林地、そしてキイロさんの鍛冶場などを一緒に回った。

 一通り丘の下の近場を案内し終わって、次に丘の上を案内しようかとした時、神父様は一緒に来た2人を少し気にする感じで、僕たちに言った。


 「丘の上も見てみたいのですが、あまり時間がないのですよ」


 神父様と一緒に来た2人は、僕たちが案内しているのに一緒について来ていたのだが、段々にイライラした雰囲気を醸し出していた。

 僕は神父様の護衛として共に来たのなら、神父様の都合に合わせるべきで、態度が悪い2人だなと思っていたのだが、ウォルフとウィリー、そしてジャンまでなんとなくその2人を警戒している感じが強くなり、一緒に歩いている女性陣と3人とを遮って守る様な位置をさりげなく取っている。

 僕でも、そのことに気がついたので、2人はそれにもイラついている様な気がする。


 「やはりあまり長く村から離れられないですからね。 今日中に町まで戻ろうと思っているのですよ。

  丘の上は、また次の機会に見せてください」


 随分と駆け足の訪問だな、今日はここで一泊して行くのかと思っていたよ。

 なんとなく良かったという雰囲気が僕らの間で漂った。


 「それで、私がここに来た目的なのですが」


 何だ、気になるから見に来てみたというだけじゃないのか。 頑張れと激励してくれるのかと思ったら、どうやら違うようだ。

 神父様が何を言い出すのか、僕たちは全く見当がつかなかったので、続く言葉を待った。


 「開拓がこれだけ成功したなら、村の教会に寄付をしていただく余裕はありませんか?」


 孤児院を出てまだ数年の、僕らに寄付を求めるなんて、あまりに意外すぎる言葉だったので、僕たちは一瞬呆気に取られていた。 こんなの予想出来るはずがない。

 シスターは一瞬の空白の後、僕たちにまで寄付を求めなければならない何かしらのアクシデントが村の孤児院に起こったのかと思ったようだ。


 「神父様、一体何が起こったのですか?」


 シスターの真剣な緊迫した声に、神父様は狼狽えて答えた。


 「いえ、何か大きな問題が起こったという訳ではありません。

  でも何も問題がないかというと、やはりそんな事はなく、皆さんも知ってのとおり、ここ2年は卒院者の寮が全く使われていません。

  そうなると、卒院者が寮の使用料として払うお金が2年間全く入らなくなり、その補填を考えていただけないかと考えたのです」


 「えーと、神父様。

  そもそも寮に滞在する卒院者から金銭を受け取るのは、その食事を用意する代金の意味が大きくて、それ以上に受け取るのは、なるべく早く寮から独立することを促すためであって、孤児院や村の教会が、そのお金をあてにしている物ではないと思います。

  それに、今ここにいる子たちが主に働いてくれて、孤児院の環境は変わりましたし、孤児院や教会の建物の修繕も終わっています。

  何かお金が新たに必要なことでもあるのですか?」


 「それに孤児院に必要な予算は、領主様が見直して、以前よりもきちんと支援されていると思うのですが」

 僕は領の財政の計算を手伝っていたから、その辺は知っている。


 「食事に使う肉も、他の村や町の孤児院は予算から買うだけだろうけど、僕らの村の孤児院は自分たちで狩もしていますよね。

  今年卒院して、ここに来た者たちは、ちゃんと後継者を育てたと思うのですけど」

 ジャンもそう言った。


 「薬作りも、やめてしまってはないですよね。

  寄生虫対策の薬は、きちんと作り方が今の子たちにも伝わっていると思うのですけど」

 これはルーミエだ。


 「もしかして、また農具が不足したりしているのですか?

  そうだとしたら、私が父に連絡して、農具を都合するように伝えます」

 フランソワちゃんは昔のことがあるので、農具のことを気にしたみたいだ。

 農具がそんなに壊れたりとかで急に不足する事はないだろうに。


 「いえいえ、ですから何か問題が起こっているという訳ではないのです。

  ただ、もしもの時のために蓄えておく資金を全く確保できないという現状がありまして、そこをどうにかしたいという希望があるということで」

 神父様は少し困ったように、言い訳を始めた。


 「でも以前は、寮に卒院者が入れてくれるお金があっても、孤児院の食費も切り詰めなければならない状況だった訳で、それをは現在は完全に脱却しています。

  それにその食費も今はきちんと人数分、領の予算から、以前と違って出ていますよね。

  その上、今ここにいる子たちがしていた時ほどではないでしょうが、狩りもしているし、薬だけでなく柴を売ったりも続けていると思います。

  以前と比べたら、村の孤児院や教会の運営資金はずっと潤沢ではないでしょうか。

  少なくともこの領内の他の村の孤児院より恵まれているのは確実です」

 シスターが神父様の言葉に困惑というより少し怒りを感じる調子で反応した。


「何であれ、すみませんが神父様の期待には僕たちは応えられないです。

 ここには現金がないのですよ。

 領主様が僕たちに大アリ退治の仕事を優先的に回してくれて、それが今ここで一番の現金収入なんですけど、そのお金だけではここで必要とする物の購入に間に合わなくて、一番問題となる農具やナイフその他の鉄製品の購入に問題が出ているのが現状です。

 そのためにキイロさんが、ここに参加してくれたところですから。

 だからまあ、当分は無理ですね」


 僕は神父様の言っていることの是非は考えずに、軽く現状を説明して、話を終わりにしてしまおうとした。


 「ごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇ!!」


 神父様と一緒に来たうちの1人が急に大きな声を出した。


 「これだけの集落なんだ。 金が無いなんてことないだろ。

  黙って出せば良いんだ。

  痛い目を見たい訳じゃないだろう」


 そう言って2人は武器を僕らを脅すために振りかざそうとしたみたいだ。

 だけど、それは出来なかった。

 ウィリーは1人の剣の柄頭を押さえ、抜刀出来ない様にしていた。 ジャンはもう1人の槍を奪い取っていた。

 素早い。


 「俺たちがみんな若いからといって、舐めたことをしないでくれるかな。

  これでも俺たちは領主館で衛士をしていたんだ。

  モンスターを狩るだけじゃなく、領主様と共に犯罪者や乱暴者の鎮圧に当たった経験もあるし、それなりの訓練も受けている。

  お前たち如きを取り押さえるのは簡単なことだ」


 ウォルフが2人に対して、威嚇を込めた低い声で言った。

 そして2人に向けていた視線をゆっくりと神父様の方に移した。

 神父様はその視線に弾かれたように慌てて言った。


 「あなたたちは何をしているのですか?」


 「いや、俺たちは、こいつらが金を出すのを嫌がって隠そうとしているのかと思って」


 「この子たちは、そんな嘘をついたりはしません。

  それに寄付というものは、無理にしてもらうモノではありません。

  したくなければ、しなくても良いのです」


「気がついたらラミアに」続編を開始しました。

R18でも大丈夫な方、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] この神父さん、背景からすればただの善意の人でもないはずなのですが今回の動きは何なんだろう。 意図して盗賊を連れてきたというのではないのか只とぼけているのか。 善意の同行としても盗賊であると…
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