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この世界には築城士という職業は無かった  作者: 並矢 美樹


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城作りに戻らないと

 3人の先輩方は、僕らが全く冒険者を必要としていないことを理解すると、早々に町へと戻って行った。


 「冒険者としてではなく、同じように働いてくれるなら、ここに居てくれても良いと言ったのだけど、残る気はなかったみたいだな」


 何だかちょっと安心したという感じでウォルフが言った。


 「あの3人は孤児院に居た時、孤児の中で中心的な存在だったんだよ。

  ここでもし暮らすとしたら、冒険者として敵わなければ、他のことでここのみんなに敵う訳がないから、年長者としていたたまれない気分になったんじゃないかな」


 キイロさんがそんな風に、3人の心中を推し量った。

 うん、確かにそんなところかもしれない。 ここでの開拓というか、普段の作業は魔法の利用を前提とした、ここ独自のやり方だから、彼らがここで暮らすとなると1番の新人扱いにどうしてもなってしまう。 それは仕方ない。


 「キイロさんみたいに、何かしら誇れる技能を持っている人が来てくれるのは歓迎するけど、単なる冒険者はいらないものね。

  悪いけど、もしここで暮らすことになったら、変に気を使わなくてはいけなくなるかと思って、そうならずに済んで良かったわ」


 マイアが明け透けに言ったが、僕らの本音だと思う。


 「でもよう、冒険者は必要ないけど、キイロさんだけでなく、もう少し色々な技能を持っている人が来てくれると良いとは思うな。

  これだけ人数が増えてくると、色々と専門の人がいた方が生活が豊かになると思うんだ。

  最初の計画と違って、だんだん部落というか、小さな村という人数になってきたし、これからも増えるのだから」


 ウィリーもそんなことを言い出した。

 

 こんな話題が出てくるのは、今現在ここではある程度食料の自給の目処が立ってきたことが第一にある。

 主食の麦・米は、税として納める分を引いても、人数分を十分賄えるし、今後についても水路を引いたことと、魔法を使った開拓に慣れたことによって、耕作地を広げることに不安が無くなったからだ。


 「糸クモさんも、去年よりずっとたくさん飼える様になっているから、糸クモさんの方もずっと沢山糸を採れるよ。

  他も合わせると、布を織る人手が足りてないと思う。

  糸で売るのも有りだとは思うけど、出来たら布にした方が良いと思う」


 アリーがちょっと積極的に言ってきた。

 糸クモさんの飼育はアリーがいなければ出来なかったことだけど、それに関連する形でアリーは糸や布に関しての責任者の様になっている。 他の者とは違い、他との関わりがなかったから、それで僕たち以外とも関わって慣れていければ良いなと考えたからでもあるけど。

 その責任感からか、ちょっとだけ変わったアリーのことをジャンが微笑んでいる。


 「そうね、ナリートたちは自分たちが食べれるだけの畑を作って、そして冒険者として狩りをして生きるのに必要な金銭を得て、それで暮らして行ければ良いとだけしか考えずに始めたことなのかも知れないけど、ここまで大きく多人数になると、集落として色々考えないといけなくなったのかなと思うよ。

  その辺は、次から次へと卒院者を連れて来る道筋を作ってしまった私は、責任を感じるところなのだけど。

  ま、それを置いといて、現状の自分の希望を言えば、やはりもっと人手が欲しいわ。 ルーミエと進めている製薬も、薬草をただ集めるだけじゃなくて、自分たちで栽培したいし、製薬作業も2人だけでは高が知れているから、もっと出来る人を増やしたいし。

  そうすれば薬を売っての現金収入も増えるしね」


 シスターもそんなことを言い出したのだが、シスターの話はもう少し先があるようだ。


 「ただまあ、人数がこれだけ増えて、そしてどうやら開拓地として成功した様だと知られるようになると、キイロ君の一家のように、こちらから声を掛けなくても、あの3人のように自分からこちらに来ようとする者は増えると思うよ。

  それこそウィリーの言うように、色々な技能を持つ人も、それを売りにしてここに移住して来ようとする人が色々来るのではないかな。

  そういう人をどうするかを、そろそろ決めておいた方が良いかも知れない」


 確かにここの評判を、町に行くと結構聞くらしい。 僕も聞いた。

 そうなると移住しようと考える人が出てきてもおかしくない。

 今まだそういう人が来ることが抑えられているのは、ここが元孤児によって開拓されていて、それを領主様が後援しているのが知られているからだ。

 だからまだ、広く多くの人が移住を考えられる場にはなっていないからだ。


 なんとなくみんなの話を聞き流していると、ルーミエが僕の方を見ているのに気がついた。

 僕はちょっと他のことを考えていたので、みんなの話を聞いているだけになっていたのだけど、ルーミエも話に加わらずに聞くだけになっていた。


 「ナリート、ルーミエ、あなたたち2人が静かだと、何だか気になるわ。 どうしたの?」


 そんな僕たち2人に気がついたエレナが声を掛けてきた。


 「私は、何だかナリートが考え込んでいるみたいだから、何を考えているのかなと思って、観察していただけよ」


 おい、僕の観察を優先して静かだったのか。

 えーと、まあ、何か言わないといけない感じだな。


 「いや、僕は、ちょっとだけ気になったことがあって、そっちをちょっと考えていただけなんだ。

  もちろん、ちゃんとみんなの話も聞いていたよ。 ここのこれからに、全体的に関わる話なんだから、当然僕も聞いているよ。 心配しなくても」


 後半が言い訳調なのはマイアが、僕は考え事に夢中で、みんなの話を聞いていなかったのか、と視線を飛ばしてきたからだ。 マイア、怖いんだよね、年上だしさ。


 僕の声音がちょっとだけ怯えた感じだったからか、ジャンが助け舟を出してくれた。


 「で、ナリートは何が気になったんだよ?」


 「うん、あの先輩たち3人が来た時、予定になかったことだからさ、笛が吹かれたじゃん。

  それで僕も道のところの門に行ったのだけど、僕が行った時にはもう先輩3人は門の中に居た」


 「そりゃ、先輩を門の外で待たす訳にはいかないからな」


 「でもキイロさん、あの3人を僕らの先輩だと知っていたのはキイロさんだけで、他は誰も知らなかった。

  さっきシスターが、『勝手にここに来る人が増えるかも知れない』と言ったけど、今回は孤児院の先輩3人だったから良かったけど、全く知らない人ということも考えられるんじゃないかと、その言葉を聞いて思ったんだ」


 「何だ、つまりナリートは、ここに俺たちに敵対するような者が来る可能性を考えてしまったということか?」


 僕の考えていたことを先読みして、ウォルフがそう聞いてきた。


 「うん、それを考えていた。

  もし、悪意を持つ者が来たとしたら、簡単に門の中に入れてしまうのは、問題じゃないかなって。

  正直に言って、早くにここに来た丘の上の家で暮らす者たちは、レベルが上がっていて、多くの大人とやり合ってもほとんど負けないレベルだと思う。

  でも、下で暮らす者たちはそこまでのレベルじゃないし、僕たちとあと何人かを除けば冒険者でもない。

  対人の戦闘訓練はウォルフとウィリーを除くと、僕とルーミエとフランソワちゃんが学校でいくらか護身術を習ったくらいしかいない」


 「私も対人の戦闘訓練したことあるよ、領主様の館で」


 「あ、そうなの」


 エレナが自分も対人戦闘の訓練をしたことがあるとアピールしてきた。

 エレナも領主様の館で1年過ごしているから、女性衛士としての訓練を受けたのかな。


 「どちらにしろ、もし悪意を持った人が来たら、中に入れてしまうと対処が難しくなると思うんだ」


 「確かにそうね。 ちょっと油断していたかも知れない。

  普通は、町や村には冒険者組合があって、冒険者がいることが前提になっている。 それだから無法者はそう簡単には町や村を襲わない。

  町にはウォルフやウィリーのように衛士や領兵もいるし、村を襲っても冒険者が対応して時間稼ぎが出来れば、領主様を先頭にそういう人が駆けつけてくれる。

  そういう前提があるから、町や村はある程度人の出入りが自由になる。

  でも小さな集落は、そういう前提がないから、人の出入りは凄く厳しいのが普通だわ」


 シスターもそう言って僕の問題意識を肯定してくれた。


 「はい、僕もそれが普通だと思います。

  その上で、ここは悪意がある者からすれば、とても魅力的な場所に見えると思うのです。 何しろここにはシスターを除けば、大人さえいないのですから」


 「そうね、言われてみればその通りだわ。

  私はあなたたちのレベルが普通の大人と比べたら、それよりずっと高いのを知っているし、大アリさえ簡単に倒してしまう銀級冒険者であることを知っているから、こういう面では、あなたたちがまだ成人にも達していないことを忘れてしまう。

  でも、それを知らない人から見たら、ここは私以外は子供に過ぎない元孤児たちが、領主様の援助で何とか開拓を成功させただけの場所に見える。

  確かに悪意を持つ者からしたら、簡単に襲える場所だと思うでしょうね」


 シスターが急に深刻な顔をして、僕の言葉に同意して考え込んだ。


 「そういうことか。

  まあ、そうだな。 外にいて距離があればともかく、中に入られてしまって、接近戦となってしまうと、俺とウォルフ、それにナリートとジャンくらいだな戦えるのは」


 ウィリーが戦力をそう分析した。


 「私も戦えるよ。 槍、使えるもの」 ルーミエがそう言うと、「私も」「私も」とエレナとフランソワちゃんが言った。


 いや、確かにスライム、一角兎、それに大アリとはいくらか槍で戦ったことがあるけど、それで戦えるということではないからね。

 特にフランソワちゃん、護身術を習ったとは言ったって、盾に押さえつけられた一角兎を槍で刺したことがあるだけじゃない。

 その3人を牽制するようにシスターが言った。


 「私は人と戦うとなると自信がないな」


 えっ、シスターが、とルーミエがその言葉に驚いたような顔を見せた。 エレナが目でルーミエに聞いて、ルーミエが答えた。


 「シスターは、向かって来る一角兎を盾なんて使わずに杖で簡単に迎撃出来るの。 きっと私やエレナよりずっと強い。

  それなのに、自信がないって言うから」


 「今ではもう、ルーミエ、エレナ、あなたたちは[全体レベル]は私より上だけど、それだけではないから。

  ウォルフ、ウィリー、ジャンはそれぞれの[職業]が影響しているから」


 シスターの説明に、それなら僕は、というエレナの視線を感じた。 まあ、僕も猟師系の[職業]で、エレナはそのものズバリの猟師だ。


 「僕の場合は、まだスライムの罠や一角兎用の盾とかが無かった時に、スライムや一角兎に槍だけで戦う為に、槍はとても訓練してそのおかげで[槍術]のレベルは高いんだ。 さすがにもう[職業]槍士のジャンには敵わないけど。

  同じように、弓士のウォルフも、衛士の時に弓だけでなく接近戦の為の剣や槍も鍛えられているんだよ、領主様直々のハードモードで」


 「ま、何であれ、中に入り込まれると、ちょっとどうしようもないな、確かに」


 ウォルフが領主様との特訓を思い出したくないという感じで、ちょっと焦るように言った。


 「でも、距離があれば、そして塀の中と外なら、ここのみんななら、よっぽど大人数で来られない限りは絶対に勝てるということか」


 「えっ、どういうこと?」


 ジャンがそう言うと、モンスターとの戦闘経験もほとんどないフランソワちゃんが、ジャンの言葉が理解できなくて聞き返した。


 「うん、ここのみんななら、遊びのように使っている投石器で、塀の外の敵に石を投げつければ、ほとんど確実に勝てると思うんだ。

  弓を持っている敵がいると、ちょっと面倒だけど、塀の中と外だからね。 それこそウォルフかエレナが弓で相手の弓使いを潰してしまえば良いだけだし、弓を引くより石を投げる方が早いと思うから、そうでなくても最初に弓を潰せば要は済むと思うな」


 「ま、確かにそうだろうな。

  それでもここのところ油断していたのは確かだ。 人間に限らない。 平原狼や大猪なんかだって、いつ何時中に入って来ようとしないとも限らない。

  開拓というか開発だけじゃなく、もっと防御も考えよう。

  そもそもそれだから俺たちは丘の上に城作りを始めたんじゃ無かったっけ。

  人がどんどん増えたんで俺も忘れていたぜ」


 何となくウィリーが、その場の話をまとめてしまった。


 それから予定外の訪問者、特に知らない人は簡単に門から中には入れないことを徹底した。

 それと予定外の事態には、なるべく個々では対処しないで、笛を吹いてみんなで対処することも確認した。


 それとは別に、防御力をもう少し上げる為に、今現在一番外郭となっている土塀は高さを増すことになった。 それに伴い、外郭の周りの空堀は深さも深く、幅も広げられた。

 それに道のところの門の前は、跳ね橋にした。

 僕が作りたいと思っている日本の城にはない設備だけど、カッコ良いからね。

 ただまあ、さほど大きくないと言うより、ごく小さな橋だから、そんなことが出来ただけのことではある。


 それと今までには無かった施設として、物見櫓を作った。

 実際には丘の上から見張れば、それで用は足りるのだけど、物見櫓を作って、その方が外を見張るという役目が明確化すると考えたからだ。

 今回、僕らが到着する前に、先輩3人が中に入っていたのは、発見するのが遅れて、笛の音を聞いてから集まるのに間に合わなかったからだ。

 その反省から、外を見張るという役目を作ることにしたのだ。


 うん、何だか忙しくて忘れてしまっていた最初の僕の目標、城を作るということに、ちょっとだけ戻ってきた感じがする。


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[気になる点] 江戸城の北桔橋門など、跳ね橋が「日本の城にはない設備」という事は無いように感じますが、どうでしょうか。 あまり多くないというか、徳川家が「防御力が高すぎる城は (徳川家的に) 良くな…
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