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チーム分けにまでに出来ること

 

 我が家より上質な寮の自室で、起きたことを振り返ると涙が出てきた。


 はあ。どうしてもクレアに勝って好意を他人に向けないといけないことになった。


 無理にクレアを出させたのはいいが、クレアに勝つことは簡単ではない。正直、入学試験時にも、運でしのいだようなものだから真正面から戦って勝てるわけがない。


 それに俺はクレアの正確な実力も知らない。模擬戦のような状況でクレアは戦えるのか。一体多数ならそれほど強くないのではないか。


 ただ一つ言えるのは、クレア対多数にしなければ正面からの勝ちはないということだ。

 クレアは間違いなく家格的に大将に選ばれるので、本陣において数で勝る状況を作り出さなければいけない。


 ああ。そうすれば、自分の味方とクレアのチームの戦力も知らなければならない。というかそもそも、チーム分けでうまく敵になれるのだろうか……。


 あれ? まてよ。もしかして俺はクレアと同じチームになった方が美味しい?


 クレアと同じチームになって俺がボロボロにやられれば自然と他の男に好意が向くのでは? そもそも俺が直接戦って負ければ良い話なのでは?


 いやだめだ。俺には有能であることを認めさせ続けなければいけない。クレアのためだけに無様に負けるわけにはいかないのだ。


 雨後の筍のごとく現れる疑問に自嘲して笑う。


 まあでも、決まってないことを憂いても仕方ない。とりあえずは、クレアのことをよく知らねばならない。


 同じチームになるにしろ、敵のチームになるにしろ、クレアのことをよく知り見極めなければいけない。

 敵を知り己を知れば百戦危うからずだ。

 

 そう思い、夜寝ることにしたのが昨日の話である。だから今、俺は降って湧いた幸運が本当か確かめるためにもう一度聞き返す。


「な、なあ、クレア? 今なんて?」


 燦々と燃え上がっているであろう太陽を意地悪に隠す校舎裏。そんな暗い中、お日様のようにニコニコしたクレアは口を開いた。


「聞き逃したのか。仕方がないなぁ。クリス、今週の休日、私と街へ出かけないか?」


「ほ、本当に?」


「ああ!」


 俺は今、クレアに校舎裏に呼び出され、デートのお誘いを受けている最中であった。


 だから俺は歓喜しているのである。


 何もクレアにデートを誘われたことが嬉しいわけではない。それどころか、デートなんて絶対に行きたくない。じゃあ何がそんなにも嬉しいのかというと、昨日、クレアのことを知らなければいけないと考えていたばかりだったので、その絶好の機会が訪れたことに歓喜しているのだ。


「あ……れ? も、もしかして……クリス。返事がないということは行きた……くないのか」


 クレアは一転、さっきまでのお日様のような笑顔はどこへ行ったのか、曇天のようにどんよりとした雰囲気を醸し出し始める。


 やばい。クレアのことをストーカー行為をせずとも、合法的に調べられるというあまりにもの幸運に、たち呆けてしまっていたことが誤解を招いた。


 慌てて口をひらく。


「そ、そんなわけないじゃないか! 楽しみすぎて、何をしようか想像しちゃってただけだよ!」


「クリスぅぅ」


 クレアが昨日と同様、ふやけた表情を見せる。


 ちょろい! 本当にちょろい! なんかこの繰り返しで全てがうまくいくような気までしてきた!


 いや、流石にそう甘くない。ここぞという時に使えるように控えめにしておこう。


 俺は自分のクレバーさに脱帽しかけたが、クレアの言葉に現実に引き戻される。


「じゃ、じゃあ、ク,クリスにどこいくか任せてしまってもいいか?」


 クレアは俺に期待するように上目遣いで見つめてきた。


 待って。それは嫌だ。

 クレアの好きなことを知って、それを使って苛立たせたりと考えていたのだが使えなくなった。どころか、クレアの好きそうなものを自分で予想して、プランを組まなければいけなくなった。ってあれ? ガチのデートみたいになってる?


 俺はそんなヤワけた思考を振り切るように頭を振る。


「く、首を振るってことは、だ、ダメなのか?」


「いや! クレアに喜んでもらうためには、ああでもないこうでもないと考えすぎてね!」


「クリスぅぅ」


 再びクレアは熱したチーズのようにとろける。

 本当、使いすぎには注意しなければ。


 ともかく、さっき頭を振った影響か、新たなアイデアが降ってきた。


 これはデートじゃない。ならば、クレアの嫌がりそうなことをプランに組み込んで、その反応を見て弱点を見極めればいいのだ。

 その上、ここで俺に失望してくれれば、俺への好意は失せるだろう。好意は失せたとしても、たかがデートプランがゴミカスってだけで俺の能力がないとは判断しないに決まっている。


 そう考えると、決定権が委ねられたことが、いかに美味しいことかを理解して、勝手に頰が緩んでしまう。


 にやける俺が不思議なのか、心配そうにクレアは尋ねてくる。


「どうしたんだクリス?」


「いや、今からクレアと何しようか考えると、とても楽しくなってきてね」


「クリスぅぅぅ」


 まじで使いすぎないようにしないと……。



 






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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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