体温
俺の言葉にミストは頬を引き攣らせた。そして、苦々しげに口を開く。
「まあ、誤魔化せないよね」
考えればその兆候はあった。何故気づかなかったのだろうか。どうしようもない愚か者だ俺は。
卒業式の日から、してばかりの自己嫌悪。只の嘆きには留められず、強い怒りが沸沸と湧き出してくる。
「……いつからなの?」
「地下道を抜けてからだね。疲れていた上に慣れない野宿をしたのが原因かな」
ミストはどこか他人事のように言った。それはどこか諦めているような口調であった。
どうして言ってくれなかったのか。俺に知られたら置いていかれるとでも思ったのだろうか。
何故かか、気が狂いそうな程の怒りと、それ以上の悔しさで歯が軋む。
身が震え、目頭が熱くなる。
「どうしたの?」
ついさっきまで、取っ組みあいの喧嘩をしていたアリスが、重苦しい空気を感じとってたのか、心配そうに声をかけてきた。アリスの傍らにはクレアもおり、訳知り顔でこちらを見ている。そんなクレアの様子から、自分の考えが間違っていたことに気づく。
知られたら置いていかれる。そんな考えで、ミストは隠したんじゃない。もし、そうであれば、クレアは俺に理解させるように、抱き心地といった形で、遠回しなことをしてきたりしない。クレアの性格からして、隠そうとせずに、自分が運ぶから気にしないでくれ、と言うだろう。
誤解だとわかると、さっきの気分が嘘のように晴れていく。
目の前が曇っていた。ミストがどんな理由で隠していたとしても、それは俺には関係ない。ただすべきことは、無事全員揃って逃げることだけだ。
「ごめん。ちょっと驚いて取り乱した」
頭を下げて、再び口を開く。
「ミスト、俺が背負って進むから、もう少しだけ耐えてくれないか?」
俺は顔を上げてミストを見た。
ミストは苦々しそうに乾いた笑い声をあげる。
「あはは……。大丈夫って言っても迷惑かけるだけかな?」
「ミスト、もしかして体調悪いの?」
アリスの質問にクレアが答える。
「ああ。かなりの高熱だ」
「そう、だからクレアはミストを背負ってたのね」
全員の眼差しがミストに向けられると、ミストは笑って言う。
「ごめんね。迷惑かけちゃって」
態度とは裏腹に、目は笑っておらず、痛々しさを感じる。
そんなミストにアリスは笑いかけた。
「ううん、迷惑じゃないっていうか、むしろラッキーだよ。体調が悪くてクリスにアピールできなくても文句言わないでよね」
「あはは。そんな事言わないよ」
「言ったわね、ミスト? 無事逃げ切ってクリスが私を選んだら、真っ先にミストに、熱々のイチャラブのドキドキの胸キュンの姿を見せてやるからね!」
「渋滞しすぎて、どんな姿になるのか逆に楽しみなんだけど」
二人の会話に、どこか重苦しかった空気は消えた。
アリスの気遣いに感謝しつつも、改めて切り出す。
「ミスト、厳しく険しい山道は、背負われたとしても病人には厳しいと思う。それに、薬や暖かい寝床を得るために街に降りようとしても、知らない山中じゃあ、ただ迷うだけになる可能性が高い」
俺の言葉にミストはこくりと頷く。
「このまま進んで行けば最終的に街の側に出る。そこは、ドレスコード領に近いけど警戒されていないと思うからそこで、薬の調達と体調を回復させよう。だから、なんとか、そこまで耐えてくれないか?」
再びミストは頷く。
「ありがとう。耐えてって頼んでおいてなんだけど、ちょっとでも辛くなれば休憩をとるから。すぐに言ってくれ」
最後にそう告げて、視線をクレアとアリスにやって尋ねる。
「これから、進むペースをあげていってもいいか?」
二人は当たり前だと言わんばかりに軽く頷いた。
誤字報告ありがとうございます。活動報告あげました。





