アルフレッドの真意2
「どういう……」
「そのままの意味だ。王も宰相も毒を盛られ、目を覚まさないだろう」
「そんな事できる筈がない!」
信じたくないからか、あまりにも荒唐無稽な話のせいなのか、強く否定した。
アルフレッドの言葉は、王も宰相も暗殺された、という事である。王も宰相も暗殺に対しては敏感な立場だ。早々簡単に暗殺される訳が無い。
「王家内に長く潜らせていた者が殺したのだ。そいつは、宰相にも王にも信用されている」
そう言ったアルフレッドの表情は、さっきと変わらず、真剣なもの。信じたくない。だが、事実だとわかる。脳に血が途絶え、視界が白くなり、崩れ落ちそうになる。そして、詰まる喉から震えた声が出る。
「そ、それじゃあ、アリスは!?」
「王女は無事だ」
アルフレッドの言葉に、頭にかかっていた靄が晴れ、安堵した。だが、依然状況は変わらないままで、嫌なざわめきは止まらない。
なんで、今、暗殺なんだ? しかも、アリスが生きているならば、子に王位が継承されるのが普通。今、その二人を暗殺したところで、混乱しか起きない……いや、違う。それが目的だ!
「暗殺の命を下したのは、オラール公爵かっ!?」
俺の言葉に、アルフレッドが頷く。
「そうだ。俺はその計画を聞かされた」
アルフレッドの反応に、俺の予想が当たっているとわかる。今、国内に残っている王の子孫は、留学や嫁ぎに出て、アリスだけ。宰相派であるが、オラール家が狙うのは王位。そこまで、考えが及ぶと、再び崩れ堕ちそうになる。
「オラール公爵は、この混乱に他の貴族より早く介入し、崩れた両派閥をまとめあげることが目的……」
アルフレッドは再び頷いた。
国外にいる王族が帰って来る前に、王家内を全て抱き込んでしまえば、後に帰ってきたとしても関係ない。既に、王家はオラール家のもの。今でさえ、王族と宰相側に分かれているのだ。モノにするのも難しくないだろう。
そして、今日行う理由。それは、偶然を装うため。一早く介入した事を怪しまれないため。
体が自然、震えだす。
「卒業式に親が出席するのは、オラール公爵が王都にいるのは、何もおかしくない……」
「そうだ。だが、王家の人間もバカではない。すぐには、王と宰相の死を公表しないだろう」
「……王家内に介入するきっかけが欲しい」
「ああ。偶々、出席した卒業式で、王女が殺されたのを見るとする。ならば、うち程の大貴族は、王に悔やみを申し上げに行くのが当然だろう」
「そんなっ!?」
全てを理解して、悲鳴のような声が勝手に出た。
「ああ。だから、王女が殺されてしまえば、父の天下が決まってしまう。仮にもこの国で一二を争う貴族家だ。混乱した王家をまとめることは簡単だろう。だから、お前に課題を出したのだ」
課題の意味がわかる。公爵の手からアリスを逃す道中の食料。つまり、アルフレッドの真意は、王女に、命からがら逃げ出した、と言わせ、主犯をオラール公爵とし、討つ。というもの。俺とアリス、もう、一つある食料は、オラール家に対抗できる大貴族、アルカーラ侯爵長女クレアが人質に取られることを恐れたに違いない。
だったら、
「なんで、今日なんだ! もっと早くなら、暗殺にも手を打てたかもしれないだろ!」
激昂する俺をアルフレッドは一笑に付した。
「言っただろ。欲で、国内を荒らそうとする、宰相と王も許せない。奴らには死んでもらう必要があった」
「だとしても!」
「機会は今しかないのだ! 今、ここで帝国との唯一の縁、オラール家が滅べば、帝国は我が国に手を出せなくなる!」
食い下がる俺に、苛立ったのか、アルフレッドは地鳴りするほどの声で叫んできた。アルフレッドの顔は紫に染まり、鬼のような剣幕、怒りで震える声は空気が裂けそうな響。アルフレッドがどれほどの想いかは解る。
だが、俺の意思は変わらない。そんな事させるわけにはいかない。
「ここでオラール公爵を敵にすれば、帝国を敵にするって事だ!それに、わざわざ公爵を殺さなくとも、アリスさえ逃せればいい!」
帝国を敵にして、勝てる可能性は低い。その上、宰相がいなくなったとしても、オラール公爵家に回る貴族家は多いに違いない。アリスも、逃して、公爵が治めるまで、なんの音沙汰もなければ、無理に追ってこない筈だ。
完全に、無益、無謀な話。業火に焼かれるように熱せられていく。
絶対に、そんな負け戦に領民を巻き込むわけにはいかない!
「公爵の天下になるかもしれないが、それでいいだろ! アルフレッドが王位につけるように俺は死ぬ思いで努力するよ! だから、今ここで、オラール家を敵に回すのを考え直してくれ!」
「ふざけるな! この機会を逃せば、父を殺せない! 帝国は父を通じて支配するつもりなんだぞ!」
「それが、どうしたんだよ! 今、争えば、王と宰相の争いと同じだ! 民を巻き込むことになる!」
「国内が荒れるのは、宰相と王の争いが終わっても予見出来てただろうが! だが、今なら、共通の敵を得て、王族の為に討つという経験が得られる! 国は一つに纏まって行くはずだ!」
「公爵がトップになれば戦も起きず、国は纏まるだろ! 帝国はアルフレッドが王になった時に、手を切ればいい!」
「馬鹿が! 誇りを忘れ、欲に狂うものに、民が付いて来るわけがないだろ! 帝国も、父を通じれば、もっと出来ることが増える! そうなってからは遅い!」
言い争いは平行線を貫く。そして、遂にはアルフレッドが溜息を吐いた。
「もういい。こうなる事は分かっていた。お前は、そういう奴だ」
そう言って、アルフレッドは自らの腰に差した剣を取り出す。
突然のことに動揺し、身構えた。
「一体、何を!?」
「俺はお前がこれまで学園生活で培った経験があれば、完遂できると知っている」
「おい、だから、何をするつもりなんだ!?」
「俺もおまえとの付き合いはそこそこ長くなる。扱い方というのも弁えてきた」
そういってアルフレッドはニヤリと笑い。唐突に剣を振り抜き、刃を自らの腹に突き立てた。
「何してるんだ!?」
「くっはは! この場にお前を呼んでいることを何人かに伝えてある! これでお前は大罪人だ! 早く逃げろ! ただ逃げるわけにはいかないことも、お前ならわかるだろう?」
アルフレッドは鮮血を撒き散らしながら、これでもかと笑った。





