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黒衣

 

 ミストに手を引かれて一番近くの天幕の陰に隠れる。


 すると、すぐに林の奥から黒衣の人間がそろそろと現れた。4人、いや5人だろうか。男達は未だ俺たちの存在に気づいてないのか辺りをキョロキョロと見渡している。


 その中の一人が気をぬいたのか大きく伸びをした。


「なんだこりゃ。鎧が並んでるだけでもぬけの空じゃねえか。こりゃ、今回は失敗かな」


 男達の前には、今朝、天幕の裏に配置した木の棒に吊るしかけた鎧の群れ。どうやら、他の男達もその様子にあっけにとられているのか固まり、立ち尽くしていた。


「おい。静かにせえ。さっきまで、あの天幕の上で旗を掲げてる奴がいた。目的がいないんなら、存在を悟らせるな」


 そう言って、一際大柄な男が軽薄そうな男に剣を突きつけた。


「もう、うるせえな。まあ、そいつも殺しちまえば良い話じゃないですか?」


「黙れと言っている」


 低い声色で怒られた男は肩をすくめた。


 なんだ?こいつら。話を聞いている限り、誰かを狙ってきている。それに、こいつらの言葉はこの辺りでは聞かないイントネーションだ。他国の人間か?


 そんな時、ミストにキュッと服の裾を握られる。


 ミストを見ると、桜色の前髪が額に張り付かせ、真剣な眼差しを黒衣の男達に向けていた。


 そうだ。こいつらの素性を考えている場合じゃない。明らかに危険そうな奴らだ。早く逃げなければ。


 隙を伺う為に男達を見ると、男達は隠れているものがいないか、天幕を漁り始めていた。


 男達の様子に心臓は早鐘を打ち、今にも弾けそうになる。しかし、王城でも経験していたおかげか、未だ心は平静に保たれていた。


 バレるのも時間の問題。なら、早いうちに逃げた方がいい。山を降りてしまえば、衆人の目に触れられる。さっきの男達の様子から、余り人の目には晒されたくは無いだろう。


 今逃げればなんとか逃げ切れそうな距離ではある。だが……。


 俺は視線をミストに向けた。


 ミストの今の服装は軽装の鎧。銀の脛当てをつけているが、それでも細い、スラリとした足。


 山中を駆け下りて逃げるとなると、厳しいものがある。恐らく、逃げきれないだろう。


 どうすれば共に逃げられるのか。いや、いっそのこと此処でミストを置き去りにしてしまえばどうだろうか。


 ミストはピアゾン伯爵家の当主で、能力は化け物クラス。もし、黒衣の男達の手に掛かり、此処でミストが居なくなれば、大きな脅威が一つ消える。それは、ドレスコード家にとって大きなアドバンテージだ。


 ミストを放置して逃げたとして、もし運良くミストが生きていてたとする。だとしても、生死のかかったこの状況ならなんとでも放置したことを誤魔化せる自信がある。正直、ノーリスクと言ってもいい。


 だけど、ミストを見捨てる気持ちには、何故かならないんだよなあ。


 自分の甘さに辟易して、内乱が起こる前には直さないと、とため息を吐く。


「ミスト。俺一人ならなんとかなる。だから、隙をみて逃げてくれ」


 それだけ言い残して、ミストの返事も待たずに天幕の影から出た。


 俺は、模擬剣を鞘から引き抜きながら駆け出し、一番近くにいる男の後頭部に剣を叩きつける。鈍い音が響き、こっちを振り向いた男の姿を捉え、俺は距離を詰める。


 男が腰に下げた剣を抜こうと伸ばした手を上段から叩きつけた。男は叩かれた腕を顔の前まで上げ、もう片方の手で抑えつつ、悲鳴をあげた。俺は追い討ちをかけて、男の空いた鳩尾に突きを放つ。


 そして、どさりと音を立てて男が倒れると、目の前には剣を構えた先程の二人がいた。


「王女を殺しにやってきたら、面白そうなガキがいんじゃねえか」


「よくもやりよったな。ここから生きて帰れると思うなよ」


 チッ。バレる前に後二人くらいやっておきたかったが仕方ない。後少し、ミストが逃げるまでの時間を稼いだらすぐに逃げよう。


「はあ。王女が目的なんだ。残念ながらここには居ないから帰ってもらえませんか?」


「それを知られて、返すとでも思っているのか?」


「いやあ。ちょっと自分も王女には手を焼いていて、貴方達を応援してるんです」


「はははは。ジョークの上手いガキだ。わざわざ、俺たちに歯向かってまで応援してるたあな」


「手を焼いてるのは本当なんで勘弁してもらえませんかね?」


「お前は本当にジョークが上手いな」


「……ははは」


 俺は取り付く島もなく、乾いた笑い声をあげた。


「舐めてんのか? クソガキいくぞオラァァ!」


 俺の笑いに腹を立てたのか大柄な男が切り掛かってくる。男の剣筋は鋭く、銀閃が迫り来る。


 俺はバックステップで何とか躱し、続く横薙ぎも伏せて躱した。そして、男の股の間をくぐり抜け立ち上がり、男の後頭部に向けて、回転する要領で剣を振り抜く。しかし、男が大柄な体を前のめりに倒したせいで、剣は空を切る。


 その時、後ろから気配を感じ、首を回すと、もう一人の男が上段から切り下ろして来るのが見えた。俺はとっさに逃げる海老のように屈んで跳び、斬りおろしてきた男の脇を抜けた。


 そのまま距離をとって、荒れた呼吸を整える。


 やばい。こいつら結構強いんだけど。早く逃げないとやられそうだ。


 どうやって逃げようかと考えつつ男達を見ると、大柄な男が青筋立てている姿が見えた。


「やるじゃねえか、ガキ。だが、こっちは二人だ」


「そうそ。俺も加わるつもりはなかったけど、ちょっと一人じゃキツそうだと思ってね」


 くそ。もっと、弱い演技でもしてればよかったか。


 まあでも、嘆いても仕方ない。今俺がいる場所は、模擬戦の開始点と反対側。何とか入れ替わって、そのまま逃げてやる。


 俺は逃げやすいように挑発する。


「あ〜もう。ごちゃごちゃうるさい。ほら、かかって来いよ」


 俺の言葉に明らかに激昂して二人は前後に並んで駆けてきた。


 よし、このまま、二人を躱してそのまま山を駆け下りてやる。


 俺も剣を構えて走り、軽薄そうな男の間合いに入る寸前に止まって、横薙ぎを交わす。そして、脇を抜け、もう一人の大柄な男に向かって剣を投げつける。


 大柄な男は俺が投げた剣に向かって、自らの剣を振り下ろした。俺は、その隙に隣を抜け、そのまま走って逃げ出す。


「こいつ! 逃げる気か!」


「待ちやがれ!」


 背後から掛けられる声を無視して、天幕の群れを躱していく。


 や〜い、バーカ。誰がお前らと戦うかよ!


 と、内心余裕をこいて最後の天幕を抜けた瞬間、目の前に黒衣の男が現れ、つい足を止めてしまう。


「おいおい、何処へいくつもりだ?」


 目の前の黒衣の男はニヤニヤと笑った。


 やばい。5人だったか。


 俺は焦り逃げ道を探すが、すぐ後ろにはさっきの二人の姿があった。

カバーイラスト活動報告に載せられました( ´ ▽ ` )


素敵なイラストです!

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コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
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