56話 暗殺ギルドハーメルン支部拠点制圧作戦9 不死者と死神の血
『20秒後に外に叩きだす』
レイドパーティーチャットからミスティの声。
周囲から緊張が伝わってくる。
投げナイフを取り出し奇襲に備える。
アリスとロータスもそれぞれ銃とクロスボウを入口に向けて構える。
後10秒
微かに建物の中かから戦闘音が響いてくる。
金属同士がぶつかり合うような音に続けて連続した破砕音。
次第に音が近づいてくる。
後5秒
「ハハハハ!!何度やっても無駄だよ!!動力が切れるまで続ける気かい?」
建物の中からマグスの声が聞こえる。
後1秒
「黙りなさい!!」
ミスティの叫び声が聞こえた直後入り口のドアと人影が吹き飛ぶ。
その影に向かって大量の弾丸と矢が複数方向から同時に放たれる。
放たれた弾丸の雨は一緒に吹き飛んできたドアを吹き飛ばしマグスの体に風穴を開けていく、遅れて飛んで来た矢がさらにその穴だらけの体を突き刺す。
ヤマアラシの様な有様のマグスの体が吹き飛んできた勢いを弾丸と矢に相殺され地面に転がった。
「やっ…ムゴォ」
アリスが何かフラグを立てようとしている気がしたので取り敢えず口を押えておいた。
このタイミングでそういうこと言うとダメって偉い人が言ってた、古事記にもそう書いてある。
それよりミスティがさっきの一斉射撃にまき込まれていないか心配だ。
直前に入口の陰に引っ込むのは見えたがあの数の弾丸だ、何発か壁を貫通していてもおかしくはない。
なんて考えていたら体中から蒸気を噴き上げながらミスティが入口の陰から出てきた。
力が入らないのか右腕がだらりと下がっているのが気になるが無事で何よりだ。
ミスティは白み始めた空を一瞥してすっきりした顔で一言
「やったか」
「あ……」
あーあ、やっちゃったよこいつ。
なんて言ってお約束の展開になる訳ないよな。
いくらマグスの種族が吸血鬼だって言ってもHPが全損すれば死だろう、多分、じゃなきゃちょっと不公平な気がする。
「残念だけ……ぶふぉっ!!」
死体があるはずの方向から声が聞こえたと思ったら直ぐにやんだ。
視線を向けると顔面に投げナイフが刺さっている。
誰だ死体撃ちなんてひどい事したやつは……。
と自分の右手を見ると手に持っていたはずの投げナイフがなくなっている。
うん、そういうこともあるよね。
「ひどいことする、おっと…同じ手はくわないよ」
今度こそマグスは起き上がりロータスがノータイムで放ったクロスボウの矢を首の動きだけで避ける。
「おいおいまじかよ……」
ヤタガラスのメンバーの一人がぽつりと漏らす。
気持ちはわかる、立ち上がったマグスの傷が急速に塞がっていくのだ。
吸血鬼にしたって早すぎる速度でだ。
「いやぁ、本当にひどいことをする、僕じゃなきゃ死んでるよ?これ、って殺す気でやってるのか」
ムカつくテンプレート!!
「驚くことじゃないだろう?これは元々君たちが持っていた物の力だ、死神の血、それも世界中に散らばっている擬製血液じゃなくたった30本しかない純血液のうちの1本焔の蒼の力」
周囲のヤタガラスメンバーは明らかに困惑している、こいつ何言ってんだ?みたいな。
「おいおい、まさか自分たちが何を守っていたのかも知らないのか?少なくとも君はわかっていると思っていたんだがその様子だと知らずにここまで来たのか?いや誰って顔をするな君だよ吸血鬼」
誰か何の話か知っている奴がいるのかと思って辺りを見回していたらマグスがこっちを見て呆れたような顔をしていた。
「は?」
周囲の視線が一気にこちらに集まる。
「いや、知らないけど」
「白を切る……つもりじゃなさそうだね、だがまぁいいさ、君は間違いなく時の蒼の血液の力を持っている、それに時の翠と緋の血液を持っているだろう?」
自動迎撃とスキルを取得した時の注射器の事か?
「なにか思い出したって顔だね、まぁ思い出してもらったところで意味はないんだが……もう知っているかもしれないが1つの血液を使うと他の色の血液は使えないんだ、君が他の色の血液を使っていたなら交渉の余地はあっただろうが、残念だが使ってしまったなら君の血から奪わせてもらうしかないね」
「奪うっていわれてはいそうですかって渡すと思うか?」
「勿論思っていないさ、だが君は僕と戦うだろう?僕も蒼の血液を持っているんだよ?勝てば逆に僕の力を奪えるんだよ?」
なるほど、ユニークスキルを掛けた勝負か……この先はNPCだけじゃなく他のプレイヤーとこうなることもあり得そうだな。
かなり大きな賭けだが見返りも大きいそれに今回はヤタガラスのメンバーとの共闘だ、焔の蒼というのがどういう仕掛けでマグスを復活させたのかはわからないが勝算はあるだろう。
レイピアを鞘ごと外してアリスに投げ渡し腰のダマスカスナイフを抜く。
そういえば今回の一件で初めて抜いた気がする。
周囲の困惑していたギルドメンバーも戦闘の予感に緊張を取り戻す。
思い切り地面を蹴り距離を詰める。
ボス戦と行こう。




