最上位精霊 ベヒーモス
廃ホテルを出た先にあったのは荒廃した高層ビルが立ち並ぶ大都市だった
空は漆黒の雲に覆われ、夜と見紛う程の風景だ
不思議と闇の中でも視界が透き通るのは、エルフの視力のお陰だろう
道路は不揃いながらも石畳で舗装され、その上を煤が覆い何とも言えない肌触りだ
ラティナから最低限の服は渡されたものの、それは彼女のコートだけ
靴や下着まで求めるのは流石に気が引ける
「足、痛くない?」
「うん、ちょっと変な感じ。指にこびり付く煤が鬱陶しいかな」
「キツかったら言ってね!私の靴脱ぎたての靴で良ければ貸せるんだけど…」
「─大丈夫、これはこれで新鮮だし」
「なら良かった、待っててね。市場に着いたら靴買ってあげるから」
そう彼女は振り向きざま、朗らかに笑った
ホテルから歩いて30分程度になるが、不気味な程に人気がない
吹く風は大地の煤を巻き上げ、世界を薄ら黒く染め上げる
当然一切の植物も見受けられず、陥没した道路からは生臭い汚水が噴き出ていた
「酷い眺めでしょ?中央政府が装飾品を大量生産したツケがこれ。もっとも、最初からある程度汚染されてたらしいけど」
「人はもう住んでないの?」
「人は、ね……噂をすれば出て来たわ。私の後ろにいて」
「え?」
ラティナが自分の前方に立つ
刹那鼻についたのは、ねっとりとこびり付くような血肉の腐敗臭
それと同時に凄まじい爆風が吹き荒れ、大地の煤を巻き上げる
元凶は空だ
見上げた瞬間、雲を裂き異常な程に首の長い何かが飛んでいるのを確認した
それも、凄まじい数の
「レッドドラゴンの大群、か。渋ってられないわね」
ラティナの腕に嵌めた水牛の装飾が鈍く光出す
それと同時にラティナの前方に黒い雷が落ち始めた
─最上級召喚装飾 ベヒーモス─
チャームが地を照らす太陽の如き光を放ち、黒い雷雲が巨大な生命体へ姿を変える
漆黒の体毛には相反するように純白の筋が入っており、まるで闇夜を照らす月光の如き神秘性を醸し出す
貧弱な下半身に反して上半身は異常なほどに盛り上がった筋肉の塊
凶悪なまでに尖った角は天を貫かんとばかりに逆立っており、その真紅の瞳は火山の火口のように燃え滾る
さぁ、殺し尽くせベヒーモス
─ギシャァァァアアア─
暴の化身にして世界最強の精霊
ベヒーモスがこの世界に顕現した




