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パワーストラグル//降下作戦

……………………


 ──パワーストラグル//降下作戦



『現在、トーキョーヘイブンはクーデターを起こした同盟派閥の民間軍事会社(PMSC)部隊によって封鎖されている。地上からの接近は不可能だ』


 そういうのは私たちに同行する大井統合安全保障部隊の指揮官で、彼と私たちはパワード・リフト機でTMC上空を飛行していた。


「それで空から?」


『そうだ。トーキョーヘイブンの屋上に降下する。そのために準備したこの機体だ』


 そう、このパワード・リフト機は特別なのです。


『第7世代の熱光学迷彩に高度なレーダーステルス性能、強力な電子戦装備。これなら気づかれずに屋上に降下することができるだろう』


 そうなのです。


 このパワード・リフト機は外部から全く探知できないというレベルのステルス性能があって、私たちはそのステルス性能に頼って同盟派閥に占領されているトーキョーヘイブンの屋上に降下する予定なのです。


「リーパー。準備はいいですか?」


「できてる。当たり前だろ。しかし、こういうのは燃えるよな。戦いに向けて突撃していっているみたいでな」


「全然共感できないことを言わないでください」


 リーパーはこの無謀な作戦に誰よりも乗り気のようです。


到着予定時刻(ETA)2330(ニイサンサンマル)!』


 私たちはARデバイスで時計を見る。


 現時刻は23時20分。あと10分でトーキョーヘイブン上空だ。


「立て籠もっているクーデター部隊は、まさか自分たちごと戦術核を起爆したりしませんよね……?」


「さあな? やるときはやるかもしれないぞ」


「うへえ。そうなったときはどうするんです?」


「そうならないようにするんだよ。起爆される前に押さえる。それだけだ」


「相変わらず簡単に言うものです」


 それができたら苦労はしないのですよ。


到着予定時刻(ETA)まで3分!』


 大井統合安全保障の指揮官がそう言い、パワード・リフト機の兵員室にいる私や他のコントラクターの間に緊張が走る。


『現在、レーダー照射などは受けていない。敵の地対空ミサイル(SAM)対空火器(AAA)の脅威はなしだ』


 パイロットからもそう報告があり、パワード・リフト機はトーキョーヘイブンの屋上へと降下を始める。


 いきなり地上から攻撃されるようなこともなく、私たちを乗せたパワード・リフト機は屋上に着陸したのだった。


「タッチダウンだ。作戦開始と行こうぜ」


 リーパーは誰よりも真っ先にパワード・リフト機から降りて、トーキョーヘイブンの屋上に展開した。


「ふん? 敵はおらず、か」


 敵のお出迎えはなく、私たちはあっさりとトーキョーヘイブンに侵入できた。


 しかしながら、作戦はこれからだ。


「核爆弾の位置は分かりますか?」


「不明だ。トーキョーヘイブンの無人警備システムは現在スタンドアローンで運用されていて、外部から中の様子は全く分からない」


「そうですか……」


 大井統合安全保障の指揮官の答えに私は少し焦りを感じた。


 急がなければ敵は戦術核で敵味方もろとも吹き飛ぶ道を選ぶかもしれないのだ。


「戦術核による殺傷範囲を可能な限り広くするならば、炸裂させる場所は高所だ」


 不意にリーパーがそういう。


「地上で爆発させれば放射性降下物(フォールアウト)は大量に発生するが、放射線除去技術が進んだ今の時代にその手の攻撃はあまり効果がない。やはり核爆発そのもので、殺す必要がある」


「なら、戦術核はこのトーキョーヘイブンの上層に?」


「恐らくは、な」


 リーパーは断言はしなかったが、かなり確信を持っている様子だった。


「どちらにせよ我々は上層からトーキョーヘイブンを制圧する必要がある。突入(ブリーチ)するぞ。続け!」


 大井統合安全保障の部隊は屋上からトーキョーヘイブンの建物内に突入していく。彼らも熱光学迷彩を装備しており、その姿は人の目に映らない。


「行きましょう」


「ああ。楽しくなりそうだ」


 私とリーパーも彼らに続く。


 大井統合安全保障の部隊は素早くクリアリングして無駄なく動き、まずは屋上に続いている空調設備などがある階層を制圧。


「あれ? 敵がいませんね……? 敵は空から奪還部隊が来ると想定していなかったのでしょうか…………?」


「それはないだろう。誘い込まれているのかもしれんな」


「不味いですよね、それ」


「だが、その地雷を踏むのは俺たちじゃない」


 リーパーが余裕の態度でそう言ったとき、前方から爆発音が響きました!


「何が……!?」


 私が前方を見つめると負傷したコントラクターが運びだされてきた。そのコントラクターは片足を失ってしまっている。


「地雷だ! 注意しろ!」


 それから警告とともに警報が響き始めた。


「じ、地雷? 室内に?」


「今は動体センサーで動く目標を探知して爆発する室内向けの地雷もある。そういうのが仕掛けられているんだろう」


「なるほどって、不味いじゃないですか! 警報まで響いてますよ!」


「ああ。これでもうちんたらはしていられないな」


 私が慌てるのをよそにリーパーは楽しそうにしており、彼は足早に進み始めた。


接敵(コンタクト)接敵(コンタクト)!」


 大井統合安全保障の部隊はクーデター部隊と交戦状態に突入していた。双方が銃声を響かせ、グレネード弾などの爆発物がときおり炸裂する。


 戦場となっているのはアーコロジーに食料を供給する合成食料プラントで、閉鎖空間で栽培されている小麦や大豆、それにオキアミの培養槽などが見える。


 そんな場所は人工的に作られた太陽光類似の光に満ちており、場違いに明るい。


『──……ここを通させるな。ここを突破されたら戦術核を奪取される……──』


『──……了解。何としてもここで敵を阻止する……──』


 相手の思考を読んでいると、こんな会話が盗み聞けた。


「リーパー。戦術核はこの近くです。あなたの考えが当たりましたね」


「言っただろ? じゃあ、暴れてくるとするか」


 リーパーはそのまま前線に飛び出した。


『──……なんだ、あれは? まさかサイバーサムライか……──』


『──……どうでもいい。さっさと射殺しろ……──』


 クーデター部隊の銃弾をリーパーに向けて浴びせるのにリーパーはそれらの銃弾にかすりもせずに弾幕をすり抜け、クーデター部隊に肉薄。


「乱戦は大歓迎だ。盛り上がるからな!」


 “鬼喰らい”の刃が振るわれ、クーデター部隊のコントラクターたちが引き裂かれる。ナノマシン混じりの鮮血が飛び、悲鳴が響く。


「全く……。相変わらずの猪突猛進ぶりですね。援護します!」


 私はリーパーに向けられそうになっている銃火器をテレキネシスで操作して、リーパーから強引に狙いをそらさせる。


『──……トライデント・ゼロ・ファイブ! その射撃は友軍を撃っているぞ! 射撃停止、射撃停止だ……──』


 そして、あわよくば同士撃ちを誘導した。


 敵に混乱が広がり、リーパーが暴れ回る。


「リーパー! 核爆弾の確保が最優先ですよ!」


「ああ。分かっている。すぐに押さえるさ」


 リーパーはクーデター部隊を無力化しながら前進し、私も彼のあとを追う。


『──……どうなっている。友軍は何をしているんだ……──』


『──……分かりません。ですが、次々に連絡が途絶しています……──』


『──……クソ。なんてことだ……──』


 敵も焦ってきているようです。ちょっと不味いですね…………。


 このままだと焦りから戦術核を起爆する可能性が出てきてしまいますよ。


「急ぎましょう、リーパー。戦術核が爆発したら問答無用でゲームオーバーになり、コンテニューはできませんよ」


「分かってるさ。だが、それまでの過程も楽しまないとな」


 私が援護する中でリーパーは敵を斬り伏せ続け、クーデター部隊はついに恐れをなして撤退を始めていた。


「このまま戦術核を奪還してしまいましょう! 急げないと!」


 思考は盗み聞いているが、今のところ戦術核を炸裂させようとする動きはない。しかし、それでも安心はできないものである。


「待て。何かが待ち伏せている」


 そこでリーパーが私を制止した。


「何かが……?」


 私はそこでもう一度テレパシーで周囲の人間の思考を盗み聞く。


「!?」


 すると、何かの強烈な殺意のような感情を探知した。


 凄く嫌な感じがする悪感情だ。ずっと深く、ずっと黒く、淀んだ感情です……!


「……ほう。こいつらは…………」


 そこでリーパーがその不気味な感情の源を、敵を前にした。


 それは灰色のガスマスクと一体化したフルフェイスのヘルメットをかぶり、武骨な強化外骨格(エグゾ)を身に着けたクーデター部隊とは違う戦闘服の兵士たちだ。


 その手には大口径の電磁ライフルを装備した、その兵士たちは素早くリーパーの前面に展開し、銃口を彼に向ける。


 しかし、こいつらは────!


「リーパー! 敵はテレパシーで操作されている兵士です!」


 そう、こいつらからは自分の意志を感じない。



 私が以前やったようにテレパシーで動かされている人間だ……!



……………………

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地雷を踏むって比喩じゃなくて本当の地雷あるんかい
ツムギの完成品?
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