暴走
「言ったはずだ、離れるのはもう無理だと」
小さな冷蔵庫は、蜂屋と比べるとより小さく見えた。
余り綺麗ではないですけど、と前置きして初めて蜂谷を入れた唯の部屋の玄関で、蜂屋は靴を履いたまま背中から唯を抱き締める。
肩を蜂屋の腕が包み込んで唯の肩に少し硬めの髪の毛が乗ると、唯は靴を片方脱いだ中途半端な状態で、そのまま立ち竦んだ。
耳に触れる吐息と声はとても切なく苦しくて、何度も何かを伝えようと唯は口を開くものの上手に言えないような気がしてまた閉じる。
その度に蜂屋の腕は強くなって、唯は蜂屋の体に沈み込んでいく。
痛いくらいだ、そう思う。絶対に離さない、とでもいうように蜂谷の腕は唯を捕えている。
話さなくてはいけないと思う。決して蜂屋には見せて来ようとはしなかった、自分の隠れた部分。
蜂屋の前は特に頑強に隠し続けていたそれは、いつからか木坂に曝け出しその弱い唯の心をずっと守って貰っていた。
ただ嫌われたくない一心で、ただ背を向けられたくない一心で、ただいい後輩を保ちずっとそばにいられるように。
そして今は、不安に流されたくなかった。きちんと確か両想いだったはずなのに、簡単に桜坂の存在で揺れてしまう自分の心。
嫉妬して勝手に勘違いをして面倒な女だと、蜂屋に背を向けられるのが怖かった。
木坂なら簡単に相談出来て、欲しい言葉を察してくれる。
何かを伝えなくてはと思う口はやっぱり何も出てくる事は無く、唯は何度目かの口を開いてそしてまた閉じた。
瞬間、唯の真横の靴箱が大きな音を立てて、翻された唯の体はそのまま壁に押し付けられる。
正面触れるか触れないかの場所に蜂屋の顔があって、絡む視線はそのまま唯を射竦めた。
怖い。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。怯えた唯の体はびくつくことも出来なかった。
「春日、俺に全て見せろ」
壮絶に怒っていると、知ったのは蜂屋のその声を聞いた瞬間だ。
低く掠れ切った声はもう囁いているようで、唯は前髪を揺らすその蜂谷の吐息に唾を飲み込む。
唯の耳真横に突き付けられている蜂屋の拳はもう白くなるほどに握り締められていて、それでもなお壁にギリギリと押し付けられていく。
「木坂じゃなく、俺に見せろ」
答えを言おうとする間もなく、そのまま唯の唇に熱い熱が覆い被さる。
唯の口内を搔き混ぜる蜂屋の舌に呼吸もままならず、少し唇をずらすと首の後ろに手の平が入った。
そのまま上に持ち上げられてより口付けは深く濃くなって、唯は呼吸の限界に力の限り蜂屋の胸を押した。
蜂屋の体は全く唯の力では動かなく、唯の唇の唾液を舐め取った蜂屋がやっと唇を離した隙に唯は大きく吐息つく。
荒々しい腕に唯の膝が震えて、壁に押さえ付けた蜂屋の体が無ければ立っていられない。
いつでもまた唇を重ねられる位置で、蜂屋の視線がまた唯を射竦める。
「言ったはずだ、離れるのはもう無理だと」
眩暈がした。
嬉しさなのか、驚きなのか、それとも恐怖なのか。全く判別は付かなくて、体は震えるばかり。
「……でも」
迷惑をかけたくないんです。
その言葉を出す前に、また唇が重なる。
耳後ろから入った蜂屋の指がゆっくりと唯の耳朶を撫でて、唯は合わさった唇の間から微かな声を上げる。
それが引き金になったのか、首後ろの蜂屋の指は髪の毛を辿って首筋から肩に回り仰け反る唯の腰に触れた。
唾液から出る潤った水音が、耳からもどかしさを煽る。
嵐のようなその口付けと少し焦らすような指の動きは、ただ激しかった初めての夜とは全く違っていて唯は強く目を瞑るだけでは耐える事が出来なく蜂屋の背中に回る唯の指は宙を掴んだ。
「お前は俺の物だ」
耳元で吐き捨てられる声は、なんて官能的なんだろう。
「俺だけに見せろ」
唯は蜂屋の背中で宙を掴む手を、そのまま下に落とした。
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まず、謝罪を。
無理でした、R18ですので「書庫の鍵」に移動いたします。
これから書くのでUPは日付け変更ギリギリだと思います。
なお、次話は見なくてもいいように何とか必死に書きます。
本当にコロコロ変わって申し訳ございません。
「書庫の鍵」で会いましょう。




