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【コミック5巻制作中】クラスメイトの元アイドルが、とにかく挙動不審なんです。  作者: こりんさん@クラきょどコミック5巻12/9発売!
第八章

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292話「夏のアルバイト」

 今は夏休み。

 学校は休みだろうと、バイトは休みではない。

 というわけで今日も俺は、コンビニバイトに勤しんでいる。


 このバイトも、なんやかんやで一年以上続けており、今では俺もベテラン側の一人。

 レジ打ちから品出しまで、一通りの業務は自分一人で難なくこなすことができる。


 そんなバイトも、残り一時間とちょっと。

 少し疲れてきたけれど、もうすぐ終わりだと気を引き締め直す。


 ――思えば去年は、バイト中にしーちゃんが変装してやってくることが度々あったんだよなぁ。


 お客様のいない店内をぼんやりと眺めながら、当時のことを思い出す。

 変装をして、店内で数々の挙動不審な行動を見せてくれた当時のしーちゃん。

 しかしそれも、付き合うようになってからはすっかりなくなってしまった。


 まぁ当然と言えば当然なのだが、あの頃の挙動不審が見られないのはちょっと寂しくもある。

 まぁしーちゃんの挙動不審は、コンビニに限らず日常でも漏れ出ているのだけれど。


 そんなことをぼんやりと考えていると、お客様がやってくる。


 ピロリロリーン。


 聞きなれたメロディーに反応し、いらっしゃいませ~と声をかけつつお客様の姿を確認する。


 するとそこには、まさかのちょうど今考えていたしーちゃんの姿があった。

 けれどその姿はもう、当時の不審者ではなく普段会うしーちゃんそのまま。

 俺の姿を見るや否や、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「あ、たっくんいたー!」

「来てくれたんだ」

「うんっ! 今日は特にやることもなくって!」

「そうなんだね、来てくれてありがとう」


 この間会ったばかりなのに、こうして会いに来てくれるのが素直に嬉しい。

 バイト中でも、しーちゃんの笑顔が見られるだけで心は満たされるし、やる気も三割増しだ。


「それにしても、あっついねぇ」

「そうだね、外は猛暑日だからね」

「溶けちゃうかと思ったよぉー」


 そう言って、暑そうに胸元をパタパタと手で仰ぐしーちゃん。

 少し胸元の空いたトップスを着ているため、つい視線がそちらへ向いてしまう自分が悔しい。


「ふぅ……見えた?」

「見えませんでした」

「惜しい!」


 ……いや、惜しいってなんだ?

 普通こういう場面では、恥ずかしがったり嫌がったりするのでは……?

 俺の視線に気づいたしーちゃんの方が、何故か悔しがる謎に思わず笑ってしまう。


「他の人には、見せないようにね」

「もちろんでありますっ!」


 ビシッと敬礼するしーちゃん。

 そんなやり取りがおかしくて、二人同時に吹き出す。

 まぁ俺の前以外では、普段から一切の隙を見せないしーちゃんなら大丈夫だろう。


 そんなこんなで、コンビニへ来てくれたしーちゃんは涼みながらスイーツコーナーと睨めっこを始める。

 今日これから食べるスイーツを選ぶのだそうだ。


 どうぞごゆっくり悩んでくださいと仕事に戻ると、しばらくしてしーちゃんがレジへとやってきた。

 果たしてどれを選んだのかなと思うと、手にはヨモギ餅が握られていた。


 また渋いチョイスだなと思わなくもないが、こういうのが時たま食べたくなる気持ちは分かる。

 というか、見ていたら俺もちょっと食べたくなってきた……。


「えーっと、百六十八円になり――」

「これでっ!!」


 俺が言い終えるより先に、財布から千円札を差し出してくるしーちゃん。

 話しながらも財布をスタンバイしていることには気づいていたけれど、相変わらずの速度につい吹き出してしまう。


 以前だったら堪えなければならなかったけれど、今では俺もこうして気を許してしまっており、しーちゃんだけでなく自分も変化していることに気づく。


「たっくん?」

「ああ、ごめん何でもない。じゃあ千円お預かりします」

「はいっ!」


 満面の笑みを浮かべながら、清算を済ませる俺の姿をルンルンと楽しそうに眺めるしーちゃん。

 何も面白いことはないと思うけれど、こうしてしーちゃんが楽しそうにしてくれているだけで俺も楽しくなってしまっているのだからお互い様。


 そしていつものように、お釣りを差し出す俺の手をいつものように両手で大切そうに受け止めたしーちゃんは、ニッと嬉しそうな笑みを向けてくる。

 そんなしーちゃんの笑みに引っ張られるように、俺もまた一緒に笑みがこぼれる。


「ありがとねっ!」

「こちらこそ、お買い上げありがとうございます」

「えへへ、どういたしましてっ!」


 手と手を取り合ったまま微笑み合う。

 今日何度目かは分からないが、ただこうして触れ合えているだけで幸せに満たされていく。


 それはもう、かつてのような不審者姿でもなければ、挙動不審なわけでもない。

 代わりにここには、あるがままのしーちゃんの微笑みがある。


 いざこうして目の前にしてみると、やっぱり以前の挙動不審よりも今の方がずっと良いと思える。

 もう俺の前で挙動不審になることなく、普通にほほ笑んでくれているのだから――。


「あ、ちょ、ちょっと待って!」

「え? う、うん?」


 一人感慨にふけっていると、しーちゃんはそう言ってぎゅっと手を強く握ってくる。

 そのままウーウーと唸りながら、何か念のようなものを込めている……。

 そんな不意の挙動不審に、俺も少し困惑してしまう。


「しーちゃん?」

「もうちょっとだけ! あと少しで、枯渇していたたっくんエナジーが充電完了するから!」

「たっくんエナジー?」


 なんだそれは……?

 何を言っているのかは良く分からないが、どうやら俺との握手で得られるものがあるらしい。

 まぁ今は他にお客様もいないし、少しぐらいならいいか……。


「よしっ! 充電完了しましたっ!!」

「もういいの?」

「うんっ! これで半日はもちます!」

「半日しかもたないんだね」

「うん! だからまた、充電させてねっ!」


 やっぱり何だかよく分からないけれど、俺もしーちゃんと半日以上会わないと会いたい気持ちが湧いてくるから同じなのかもしれない。


「それじゃ、バイト頑張ってね!」

「うん、ありがとう。外は暑いし気を付けてね」

「はーい!」


 元気いっぱい去っていくしーちゃんを、俺は手を振って見送る。


 そんな何でもない、夏休みのアルバイト。

 しーちゃんが居てくれるだけで、俺は幸せに満たされるのであった。




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― 新着の感想 ―
とうとう読み終えてしまった。 再開は、ひょっとしたら今年の夏ですか?
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