森でのお話し
椅子に座って大人しく待っていたパンネに、クェマが話しかけました。
「やあ、ごめんね。もう大丈夫だよ」
「いえ、……」
涙と鼻水の跡が残るクェマにパンネはなんと応えたら良いのか分かりませんでした。何か悪い事をしたのかもしれませんが、自分のせいとも思えなかったのです。また、トウネのせいだとしても、パンネが謝るような事なのかは全く判断がつきませんでした。
「君の持っていた護符はね、多分少しの幸運と身を守る事を目的に作られた物だと思うんだ」
「丁寧な作りだぜー」
ティコの言葉に色々カピカピの顔でうんうん頷くクェマ。パンネは嬉しいような寂しいような気持ちになって変な顔になりました。
そんなパンネの頭をクェマはポンポンとたたいて、話を続けます。
「でもね、ここの紋様を見てくれるかい?」
複雑な形の模様が彫ってありますが、パンネにはそれが何なのかは分かりません。
「これ、順番と文字が間違ってるんだよね。少しの違いで全然別物になってしまう。これはね、誰かを縛り付ける為の物になってしまっているんだよ」
クェマの話によれば、この紋様は人間の中でも長命の種が、その長い寿命を対価に得た物の一つで、今ではもう殆ど使う人はいないと言う事でした。
「君のお父さんは長命種の血を引いているのかもしれないね」
初めて聞く話でしたが、まあだからといって実際寿命が長い訳でもなく、トウネはもう死んでいます。ですから、パンネが気になるのは別の事でした。
「なぜクェマさんはそれを知ってるの?」
「グエェーケケケ! クェマは長命種なんだぜー! オレよりは短いけどなゲゲゲ!」
「そう。私はこう見えても中々長生きしてるんだ。そして長命種の名前は寿命ほどに長いものなんだ。今はクェマだけどね!!」
クェマは、また少し泣きました。
名前は大事です。パンネの名前もトウネの名前も村の仕来たりを踏襲したものです。名前を聞けばおおよその出身が分かるものなのです。
パンネはここで初めてちょっと悪い事をしたと思いました。
「まあ簡潔にして簡単! いい名前な気がしてきたよ!」
「寿命も短くなってないといいな!!」
尻尾を踏まれたティコは跳ね回りました。
「ごめんなさい。……わたし罰をうけるの?」
クェマはパンネの手を取り、ちょっぴり腫れてきた目を合わせて優しくいいました。
「大丈夫だよ。君のせいじゃない。ティコのせいだから」
オレのせいでもねー! と後ろから声がしましたがクェマは無視しました。
「私の名を呼ぶ人はそう多くはない。問題ないよ。ごめんよ気を遣わせて。突然の事で私も動転していたんだ。許しておくれ」
クェマはやっぱり優しい人でした。
それで最初に戻って、これからパンネがどうするかです。




