黒い水
奥戸が、店の方へ戻って行くのをつぐみは見送る。
あまり時間がない。
音の原因に気づいて、戻ってくるのはすぐだろう。
冷蔵庫を見られたくないという発言は、そこに何かがあるということ。
早足で冷蔵庫に近づき、中を覗き込む。
ありふれた食材や飲み物がある中で、一つだけ違和感のあるものがある。
小さなガラスの瓶に入った黒い水を見つけ、小声で呟く。
「冷蔵庫に、ガラスの瓶に入った黒い水があります」
冷蔵庫を閉め、後ろを振り返りまだ彼が戻っていないのを確認する。
もう一つの奥の部屋も出来れば、確認して報告しておきたい。
つぐみはそちらに向かって歩き出す。
「冬野さん。物音の原因、わかりましたよ」
後ろから、それもかなり近くから声がかけられ、つぐみの体が硬直する。
全く足音すらしなかった。
びくりとなって振り返ったすぐ後ろで、奥戸がつぐみのスマホを持ち、にこにこと笑っていた。
「どうやらあなたの電話が鳴って、振動で机から落ちてしまったようです」
「……あぁ、すみません。原因は私だったんですね。驚かせてしまってすみません」
震える手でスマホを受け取り、奥戸の顔を見上げた。
相変わらず笑顔を浮かべたままで、彼はこちらを見つめ続けている。
「奥戸さん?」
「飲み物は、どうされますか? 途中で出て行ってしまったのでね」
気付かれていないのだろうか。
ならばこのまま観察を続けていこうと、話を続けていく。
「では、お茶をいただけますか?」
「はい、では向こうへ移動しましょうか」
奥戸がドーナツの箱と飲み物を持ち、つぐみへと声を掛けながら店の方へと戻っていく。
立ち止まっていては疑われてしまう。
あまり調べることができなかったのは残念だが仕方がない。
黒い水がここにあるとわかっただけでも収穫と考えよう。
今までの会話がシヤに聞こえているように。
そう願いながら、つぐみは奥戸の後を追うのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ここより次話のタイトルもここに載せてみようかと思っております。
読んで頂ける方に「次はこんな話かな」と想像して頂くのも良いのではないかと思ってみた次第です。
次話を読む前にタイトルが明らかにネタバレだーというものでない限りやってみようかと。
という訳で次話タイトルは「情報解析」です。




