表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/98

奥戸透は思う

 今ならば、神の存在を信じてもいい。

 奥戸はそう感じていた。

 千堂沙十美の薬の納入を終わらせ、明日にはこの場所を去ろうと予定していた時に、突然の来客がやってきたのだから。


 休憩の時間を邪魔されたのは不服ではあった。

 だが、相手のすぐ詫びてきた様子に、悪気はない迷い込んだ客だと知る。

 見たところ、この女性は強い感情を持ち合わせてはなさそうだ。

 どうしてここに来れたのかは分からないが、早々に帰ってもらえばそれでいい。

 穏やかに退店を促すと、彼女は動揺のためか転倒してしまった。

 駆け寄って助け起こした時に、ようやく彼女の来店の意味に気付く。

 左手首で揺れる、沙十美と揃いのブレスレットを持ったこの女性が、冬野つぐみだということに。


 仕掛けておいた自分の分身である蝶が、この子を呼んでくれたのだ。

 それならば特別に少しだけ、営業時間を延長してあげよう。


 ――冬野つぐみと、この店の最期を見守り、おくりとどけてやるのだ。

 口元に溢れる笑みは、営業用のものではない。


 淡い輝きを放つ彼女のブレスレットを見つめ、最上のもてなしをと考える。

 あふれ出る喜びを笑顔に変え、奥戸は思うのだ。


 さぁ、二人で楽しもうではないか。

 ――さいごの、ときを。



◇◇◇◇◇



「さて、まずは自己紹介からですね。私、ここの店長で奥戸と申します」


 奥戸はつぐみへと礼をして、転倒した彼女を立ち上がらせた。

 隅へと片づけていた椅子を二つと机を一つ取り出して並べ直し、座るように彼女に促す。

 机を挟み、向かい合わせで自分も座り彼女の様子を眺めれば、その顔には恐怖がくっきりと表れていた。


 自身の顔を見て、怯えだしたことを奥戸は思い出す。

 つい笑いすぎたのがよくなかった。

 だが、我慢できようはずがない。

 奥戸は今にも叫び出したくなる感情を、必死に抑え込んでいるのだから。


 今までと違う、自己犠牲という新しい感情で作る薬。 

 犠牲にしてきた人間達とは正反対の、『善』の感情で作る薬。

 それが一度は諦めていたのに、こちらに来てくれたのだ。


 冷静にならねばと、奥戸は心を落ち着かせていく。

 薬のためにも、あまり彼女に負の感情を出させない方がいい。

 なるべく穏やかに。

 そう、最期まで穏やかな感情でいてもらわねば。

 そのためには、この今の状況はあまり望ましくない。


「驚かせてしまったこと。それをまずは謝らせてください」


 悲しげな表情を作り、奥戸はつぐみを見つめた。

 沙十美からは、彼女は人を悲しませるのを嫌う性格だと聞いている。


「あ……。と、とんでもないです! 私が勝手に転んだのに、笑うなっていう方が無理な話ですよね。こちらが悪いんです!」


 焦った様子で、彼女は顔を上げると逆に謝ってきた。

 想定通りの行動に、思わずほくそ笑む。


「では、許していただけるのでしょうか?」

「許すも何も! えっと店ちょ、奥戸さんとお呼びしてよろしいでしょうか? 奥戸さんは何も心配することなんてないですよ!」


 彼女からは、すっかり怯えが消えている。

 それを確信した奥戸は、新たな話題へと話を変えていく。


 この子の心が落ち着いたら、始めることにしよう。

 彼女に、私達の新しい糧になってもらうために。

 喜びとその思いを湛え、奥戸はつぐみへと穏やかな視線を向けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] つぐみちゃんが……、つぐみちゃんが蜘蛛の巣に掛かってしまいましたね。遂に最終局面が始まってしまったのでしょうか? もう続きが読みたいとかでは無く、この物語が終わってしまう事が悲しいです(´;…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ