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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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人出品子は歌う

「では今、思っていることをどうぞ。冬野君」


 混乱から立ち直れないままのつぐみに、品子が笑いながら問うてくる。


「おっと、そんな中途半端なところで立たせているのも悪いな。こっちのリビングにおいで」


 品子はつぐみを台所からリビングに連れてくると、ソファーに座らせる。

 ふわふわとした座り心地に対して、つぐみの緊張感は一向に落ち着かない。

 深呼吸をして心を落ち着け、つぐみは口を開く。


「まずは、この保冷バッグの中身をどうして知っているのか疑問に思いました。ですが、私が眠っている間にこれは確認することが可能です」

「そうだね。ではこれを考えてみてくれるかな? ヒイラギ」


 台所の椅子に座ってリビングを眺めていたヒイラギに、品子はつぐみの膝に置いた保冷バッグを指差した。


「それ、取って」


 言葉の意味を理解する前に、つぐみの膝の上が軽くなる。

 慌てて下を向くが、先ほどまであったはずの保冷バッグがない。

 足元を見るが、落とした訳では無いようだ。

 まさかと思いヒイラギのいる台所を見る。

 彼は相変わらず台所の椅子に座っていた。

 ――手につぐみの保冷バッグを持って。


「そんな……」

「はいっ、ここで問題です。ヒイラギはどうやって君の膝の上から、保冷バッグを取ったのでしょうか?」

「……わかりません。まるで人知を超えたというか」

「はい、正解。おめでとうございま~す。というわけで冬野君には、人知を超えた力を見てもらいました~」


 パチパチと拍手をしながら、品子はつぐみへと笑顔を向けた。


「あの、先生。何を言っているんですか?」

「何をって。おおっと、ごめんごめん。欲しがり屋さんの冬野君にはまだまだ足りなかったね。おっけいおっけい。第二問といこう」


 たたみかけるように品子は話し続けてくる。


「では第二問。今から歌う歌は何という曲でしょうか?」


 にやりと笑うと、品子は歌いだす。


「ふんふふ~ん、ごまあぶら~。豚肉ぅ~。バラ肉のバラって何さ~」

「はんはは~ん。大根~。昔「オオネ」と呼んだのは私だけの秘密~」

「そっ、それは……!」


 言葉が続かない。

 昨日の夜に即興で作った歌を、なぜ品子が知っているのだ。

 混乱した頭を整理しようとつぐみは思考を始める。


 まずはこのセンス皆無(かいむ)の歌を、臆面(おくめん)もなく歌える先生は一体。

 ……いや違う、恥ずかしいからって変な思考へいってはだめだ。


「おっ、落ち着け! 私! そもそもの考えが、おかしくなっているから!」


 出すつもりのなかった言葉がこぼれ、皆が一斉につぐみの顔を見た。

 恥ずかしさで顔を赤く染めながらも、ようやくひねり出した答えを品子へと伝える。


「と、盗聴器ですか?」

「ブッブー、違います。まぁ、それも準備できるけどね」


 さらっと恐ろしいことを言いのけてから、品子は立ち上がる。


「というわけで、いろいろと見たり知ったりしてもらった訳なのだけど」


 品子が自分の隣に座ると、片手をソファに預け足を組む。

 余裕をたたえた表情で、彼女はつぐみへと言い放った。


「私達は普通の人間ではない。これは事実。そして君は今それを知った。さぁ、どうする?」



◇◇◇◇◇



 どうすると言われたが、目前で起こった出来事につぐみの頭は全く働いてくれない。

 手品やトリックといったことも考えたが、ヒイラギの手元に移った保冷バッグはそれでは説明がつかないのだから。

 信じがたい話だが、品子の言っていることは事実だとつぐみは結論付ける。


「私なりに理解はしました。先生方には何か不思議な力があると」

「相変わらず理解が早くて助かるね」

「ではこちらからも質問を。どうして私にこのことを教えたのですか? 私が他言する可能性もあるのに」


 つぐみの問いに品子は「ふむ」と小さく呟いた。


「理由は二つ。君が私達に協力するとしよう。これから見せる資料やら話やらで、どうしてこれが手に入っているかと君に聞かれるだろう。そうしたら結局、力の存在を言わなきゃいけない。それにごまかしたところで、いずれ君はその観察力で私達の力に気づくと思う。その間に君の行動で、それこそ他の人に気づかれる可能性もあるからね」


 ふぅと息をつき、品子は続ける。


「もう一つの理由。これを見て君が自分の常識を超えたものに対し恐怖などを覚え、自分は関わらない方がいいと判断するかもしれないから。あと他言するかって件においては、今までの君を見てて考えにくい。本人に言うのもなんだけど、お人好し過ぎるからねぇ、君は」


 品子はソファーから離れ、自分の鞄からいくつかのファイルを取り出し始めた。

 それらをつぐみにかざしながら、品子はゆっくりとした口調で尋ねてくる。


「改めて聞くよ。君はどうしたい? このまま話を続けるか、それとも今日を無かったことにして家に帰るか」


 品子を見つめ、つぐみはぐっとこぶしを握り締める。

 混乱は時間が経つにつれ、収まるどころか増していく一方だ。

 それでも分かっていることが一つだけある。

 だからつぐみはその思いに従い、答えを出すことにした。


「……私の、答えは」

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが気になって仕方がない、だが断る! (岸辺露伴風に) 敢えてここでストップ。そして深呼吸しました。 遂に現実離れしてきましたね、コレが一話目にどう繋がっていくんでしょうか。ヒイラギくん…
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