冬野つぐみの答え
いつも通りにつぐみは講義を受ける。
沙十美が学校に来なくても、周囲は何も変わらない。
昨日は沙十美が休んだことを話題に出していた人達も、今日は全く話題に出ることはなかった。
皆がいつもを続けている。
昨日に比べ、何か違うものはあるだろうか。
そう感じながら受ける講義はどのようなものかとつぐみは思ったが、やはり何も変わらない。
当然だ。
なぜならつぐみは、今まで変わろうとしたことがなかったのだから。
このままのいつもを続けていけと、品子は言っていた。
彼女に出す答えを、つぐみはまだ見いだせていない。
昼休みの時間に、品子を広場で目にした。
周りには生徒が数人いて、楽しそうに話をしている。
存在に気づいた品子が、ちらりとつぐみに視線を向けてきた。
どうせ後で会うのだ。
あえて今は話すことは無いと思い、会釈をして通り過ぎる。
品子も小さく自分へと手を振ると、再び近くの生徒と話し始めた。
しばらく歩き、品子が見えなくなったところで近くのベンチに腰掛けつぐみは呟く。
「いつもじゃなくなるって何だろう? わかんないや」
ぼんやり思うのは、昨日のような出来事がこれから自分にも起こりうること。
それも命にすらかかわりそうなものだ。
「いやいや。この日本で、いくら何でも大げさな」
物騒な考えを隅に追いやるも、ぐるぐると回る思考。
答えは出ないが、時間は待ってくれない。
「うあー、わかんない!」
ついに思考は回らなくなり、とうとう停滞してしまった。
気を取り直そうとつぐみは、周りをぼんやりと眺める。
昼休みもじき終わる時間ということで、忙しなく移動する人達が多い。
少し前までは自分と沙十美も、あの中の一人だった。
でも今、ここに沙十美はいない。
一人だけで、つぐみはここにいる。
彼女とのことを思い返す。
いつも一緒にいてくれて、一緒に笑って。
……たまに喧嘩して。
でもすぐに仲直りして。
ごめんねってブレスレット貰って。
頭の中で沙十美の笑顔が浮かび上がり、つぐみは空を見上げた。
「あぁ、沙十美に会いたいなぁ」
空は何も答えてくれない。
だが心には、今の一言で結論は出せた。
「……うん。出たじゃない、答え」
ならば、そのいつもを求めて何が悪い。
今「いつも」から切り離されてしまっているかもしれない沙十美を探して、何が悪いというのだ。
自分はそのいつもである、沙十美を取り戻したいだけ。
それに気づいたつぐみは唇をぐっと噛みしめる。
あとはこれを品子に伝えるだけ。
講義も終わり他の皆が帰っていく中、時計を見る。
この時間なら品子は研究室にいるだろう。
鞄を握り締め、つぐみは足早に研究室へと向かうのだった。




