閑話 スパイ②
「……これは?」
戦艦大和を見学してから数週間がたったある日、私にある『ビデオ』をパートナーの女は手渡してきた。
私がそのビデオをしげしげと眺めていると女は若干興奮したように私にこう告げてきた。「いいからこれを観ろ」、と。そのビデオ―――古いタイプのディスクには日本語でこう書いてあった。
『日本の核兵器の歴史』と。
☆☆☆☆
『―――1946年9月、わが国は世界で3番目にアメリカの協力のもと核兵器を開発し、運用を始めたのです……。』
わが国でも核兵器はおよそ50年前に初めて実用化され、そして今も運用をしているが日本も大体似たような時期に核兵器を開発しているようだ。……いや、実際のところ日本と我が国の時系列を見ると若干だが我が国の方が遅く開発していた。少し悔しい。
そんなことをふと思っていると解説が進んでいたので私はそれに耳を傾けた。
『この核兵器は皆さんもご存知の通り、世界初の実戦運用の目標はドイツに向けてでありました。使用したのはアメリカで、この時の被害は100万人以上と非常に痛ましい結果となってしまいました。戦後、こうした被害を二度と出さないためにアメリカを含む各国は核兵器の使用を大幅に制限する条約を結び、日本もそれに加盟する運びとなりました。』
『そのため、現在世界でも核兵器を保有しているのは、この条約が締結される前に核兵器を開発した国が保有を認められた状況となっております。それゆえに、現在は日本を含め10ヶ国にも満たない国家がこれを運用しておりこの核兵器を運用できる国家が現在の列強として見られている風潮もあるのです。』
『そして、1960年代にはこうした核兵器同士のにらみ合いが加速し、もはや核戦争一歩手前にまで進んだキューバ危機、わが国と中華人民共和国との対立の結果起こった台湾危機など、様々な危機的状況が発生してきました。また、この時代には各国でも次世代の核兵器こと【水素爆弾】が産み出され、わが国でも遅らせばながら1966年に開発されました。これから流れるのはその水素爆弾の実験映像になります。』
すると、今まで説明していた画面の背景が変わりとある海上に浮かぶ島が画面に映し出され、そこには
『1966年 7月 5日、ブラウン環礁 沖合 北緯11度40分0秒 東経162度11分13秒 20Mt級 核融合兵器』とテロップが打たれていた。
そして、しばらく待つとカウントダウンが現れそれが0になった瞬間、まばゆい閃光が画面を覆い尽くした。閃光が止み、そこに現れたのは巨大なキノコ雲―――衝撃波によって海水がめくれ上がり、それの余波によって転覆する駆逐艦のような船。
私はこの光景に呆然としていた。
―――いや、「呆然」というよりも気持ちの高ぶりを感じていた。それと同時にほんの少しだけ感じた恐怖。そう、私はこの恐ろしい兵器に恐怖すると同時に興奮さえしていたのだ。
「……大丈夫ですか?」
しばらく呆然としている私を心配したのか、パートナーが声をかけてきた。
「あ、ああ、大丈夫だ。……それにしても、これがあの核兵器なのか?」
「ええ、間違いないわ。とはいっても日本がいた世界では一口に核兵器といっても様々な種類があるみたいだけどね。この世界では核兵器は人口密集地帯に実戦使用されたこともあってか、日本を含めほぼすべての国家は核兵器に対して特別な感情を持っているようだけどね。我々にとってはただの戦術兵器にしか過ぎなくても、日本にとっては戦略兵器を使用されたと同義らしいわ。」
「とどのつまり、日本はこうした戦略核兵器を主に保有しているということか?」
「ええ、大正解。我々は戦術的な観点から威力過剰とみてこうした核爆弾はそもそも開発中止によって配備すらされていないけれども、日本は数百発単位で保有していたようね。―――もっとも現在は我々と同じように威力過剰と判断、なおかつ誘導技術が向上した結果かなり威力を抑えたタイプの核を開発し、運用しているようだけれども、依然として戦略核としてかなりの数を保有しているようね。」
「ネットの情報を見る限り、主力兵器は各種弾道弾らしいな。維持コストも莫大だろうに、贅沢なことだ。それに、核に対して我々とはかなり意識に差異があるのだな。」
「ええ、このことに関しては我々にとっても憂慮しなくてはならないと一応上にも報告はしておいたけど、あまり上は関心を示さないみたいで……。かなり嫌な予感がするわ。」
「こちらの世界でむやみに核を使用したら日本がとち狂って核を乱射しかねない、と?」
「可能性は捨てきれないわ。」
「たしか、相互破壊確証とかいう考えか。『一方が核兵器を先制的に使えば、最終的に双方が必ず核兵器により完全に破壊し合うことを互いに確証する』だったか?向こうの人類は随分と狂っているようだな。」
「この世界でもあまりに被害が甚大すぎてたったの一度しか発生しなかった世界大戦が2度も起こっている世界よ?狂っているなんて言葉じゃ到底表しきれないわ。第二次世界大戦に至っては推定死者は5000万人以上だし、よくこんな世界が崩壊しなかったわね……。」
「いかに我々が平和な世界を享受していたか、だな。ただこうした戦争によって技術発展はすさまじかったようだし、比べてみると一長一短でもある。」
「そうはいってもこんな世界で生まれたくはないけどね。」
「はは、違いない。」
一部文章の参照https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E4%BA%92%E7%A2%BA%E8%A8%BC%E7%A0%B4%E5%A3%8A
息抜き(2度目)
ちなみに日本は転移に当たり海外領土をいくつか喪失しています。
感想待ってマース




