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第18話 海戦①

 ローサル島からかなり離れた海、それも深さ600mの場所、誰も生身では到達することができないそんな場所に幾つかの鋼鉄の塊――――ニシル国海軍の最新鋭潜水艦【β-201型】が潜んでいた。


 彼らがなぜ、こんな場所にいるのか。それは『日本海軍の空母を撃沈する』任務を本部から受け取っていたことに他ならないからだ。

 日本海軍の空母はかなり警護が厚く、航空部隊や通常の艦艇程度が束になっても恐らくは防空艦の防御すら抜けないであろう、いざというときはこの潜水艦隊による同時雷撃によってしか防御は抜くことはできない、そう司令部は考えていた。


 実際、それは正しかった。日本海軍による【防空】とはE-2DやF-10B、またはU-1と呼ばれるF-10Bによって制御される無人機群の航空機による哨戒と、【足柄型】【六甲型】を筆頭としたエリアディフェンス艦やその他【秋月型】、【松型】など駆逐艦による各種水上艦艇たちが『多層防御』の概念によってHVU――――高価値目標、すなわち航空母艦と揚陸艦を何重にも防御しているのだ。

 恐らく、これらをぶち破るためには数千発単位の対艦ミサイルを撃ち込んで飽和を狙うか、今回のように潜水艦たちによる奇襲を行わなければ到底勝ち目が見えない。

 だからこそ潜水艦隊がこんな場所にいるのだ。


 そしてそんな潜水艦の中では日本艦隊を見つけたのか、にわかに騒がしくなっていた。


 「……日本海軍の艦隊を方位0-6-0、距離60にて発見しました。数は不明ですが、音紋も【翔鶴型】と恐らく一致しているため、彼らが主力艦隊でしょう。」


 「わかった。総員、戦闘は位置につけ。本艦はこれより日本艦隊に距離35まで近づいたのち、魚雷を全門斉射、命中が確認されたのちすぐさま撤退する。」


 「了解。」


 「これより無音航行を実施、奴らに気取られるな。」


 ――――距離55……50……47

 艦長にとって、この乗務員からのしばらく間をおいた、そうした報告がとても長く感じられた。日本海軍は練度も高く精強だ、それに装備の差もかなりついていると聞く。自分たちがこの任務に失敗したら、恐らくは彼らの航空機たちが祖国を焼き払うだろう……そうした気持ちが彼を焦らせていた。

 そして、ついにその時がやってきた。


 「距離34、行けます。」


 「魚雷発射!」


 艦長から発せられたその声、それを今かと待っていた乗務員たちの指先は一寸の狂いなく、魚雷の発射ボタンに伸びた。

 独特の空気が抜ける音とともに、【β-201型】3隻から放たれた18本もの魚雷、それらは一切の故障をすることなく70ノットものスピードで日本艦隊を食いちぎるべく向かっていったのであった。



☆☆☆☆☆



 『統合打撃艦隊』その中でも対潜任務を担当していた松型沿岸用駆逐艦【杉】の艦内にある小型の戦闘指揮所――――CICでは乗務員たちによる対潜警戒が行われていた。『統合戦闘指揮システム』の実用化によって彼らの負担は大幅に減少し、今では人力とAIによる同時監視によって対潜任務は成り立っていた。


 「異常は見られないか?」


 「はい、現在は哨戒の範囲内には不審な艦影は見られません……しかし、彼らは本当にこの艦隊に対して潜水艦で攻撃してくるのですか?」


 「ああ、可能性はかなり高いそうだ。といっても『ノーヴェンバー』にはこの艦隊を完全に葬れるだけの物量の対艦ミサイルは一会戦分があるかないかぐらいだそうだ。可能性としては潜水艦の攻撃の方が大きい、というだけだがね。」


 「それでもかなり脅威ですがね……。」


 『――――探知音を確認!方位2-6-7、距離10で魚雷が確認されました。数は12、すぐに回避行動をとってください!』


 突如鳴り響いた電子音、それは潜水艦からの魚雷攻撃からの警報であった。


 「な……近すぎる!くそ、すぐに防御システムを作動しろ!迎撃魚雷の発射も急げ、総員何かにつかまれ!」


 艦内に鳴り響く不気味な警報音であったが、【杉】の乗務員たちの行動は速かった。もともと完全に隠れた潜水艦から魚雷攻撃されたら直前までは探知できないものとして彼らはギリギリな状況を常に想定した訓練を積んできたからだ。

 そしてこの間にも彼らはその訓練の成果を完璧に発揮、その能力を遺憾なく発揮していた。

 また、かねてより開発が進められてきた迎撃用魚雷はこの実戦によって能力を発揮、ニシル海軍渾身の魚雷は18本のうち実に6本が日本海軍の艦に届かずに沈んだ。


 だが、その残りの12本の魚雷のうち1本の魚雷は不幸にも【杉】に命中してしまった――――。命中した

魚雷はその狙いを外すことなく【杉】の艦底部で爆発。その衝撃で3500トンほどの艦は真っ二つになってしまったのだ。そして乗務員は艦長はじめ全乗務員が逃げられないまま、急速にその船体を海の底へと引きずりこんでいく……この戦争の海戦でついに初の被害であった。

 一応は残りの魚雷は彼らが事前に気付いてくれた為になんとしてでも守らなければならない空母に届くことなく、また【杉】以外には当たることなく無事すべて防御出来た、それでも彼らとしては油断はしていなかったとはいえ、こうして簡単に被害を被ったことにショックを覚えたのであった。


 だが、こうした被害は日本だけではなかった。なぜならこの攻撃をしてすぐにニシル海軍の潜水艦は位置を暴露され、【杉】が沈没してわずか30分後には彼らは漁礁として同じ運命をたどったのであったからだ。


 日本とニシル国とのついに始まった直接戦闘、これは痛み分けから始まった。




(海戦で)初被害です。

いくら技術的に優位でも沈むときは沈みます。


感想待ってマース

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