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第2章 27話 最終回、そしてまた

「サトウ様なら絶対に大丈夫ですよ。なんてったって、伝説のシャーマン様なんですから」

「何度も言ってきたけど、俺はしがないサラリーマンなんだけど……」

「はい! ですから大丈夫です」

「…………」


 クリスに励まされつつ、俺はど緊張しまくりで、王都のはずれにあるクリスの実家に行ったのだった。


 ◆


「は、はじめまして。クリスさんと真剣に交際させてもらっております、サトウと申します」

「ママ、サトウさんを連れて来たよ」

「ようこそお越しいただきました。何だか懐かしい感じがするわ~。あなた、早くいらして~」


 玄関で俺たちを出迎えてくれたのは、品のいい可愛らしいマダム。

 髪や瞳の色だけでなく、おっとりとした物腰までクリスにそっくりである。

 そして、後ろから顔をのぞかせた男性を見て驚いた。


「はじめまして。クリスの父の鈴木聖次です」


 はにかみながら右手を差し出してきたその姿は、どう見ても日本人そのものだったのだ。


 ◆


 話を聞くと、やはり日本から来たという。しかも外見が俺にそっくり。俺も二十年くらいしたらこんな風になるのだろうか。


 かつては、元大手企業のサラリーマンをされていたということだが、何故かこちらではシャーマンと呼ばれていたらしい。


「詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか」

「もちろん。私も日本の若者に会えてうれしいよ。なんだかワクワクするね」


 ◆


「……私の場合は、ひとり暮らしのアパートの玄関が、港町にある小さなダンジョンに繋がっててね。朝から会議が入っていたのにあのときは焦ったよ……」


「そうなんですか! 僕も似たような感じです」

「ダンジョンで獲れたものを冷蔵庫にしまうとポイントがたまったなあ。テレビ画面に、レベルとかスキルとかが映ってね……」

「おおっ!」


「ところが、何年か前にダンジョンの部屋に行こうとしたら、扉が無くなっていた。そのとき思ったんだよ。きっと私の役目は終わったんだとね……」


 どうやら、それは、俺の部屋がこの世界に繋がった時期のようである。


「これからよろしく頼むよ。新しいシャーマン君。いや義理の息子にこんな言い方をするのも変かな。シャーマンやってると、色々と頼まれ事が多いけど、大抵は何とかなるものだから大丈夫だよ」


 そう言って、差し出された手は、柔らかく温かだった。


「これから、よろしくお願いします」

「こちらこそ。クリスを幸せにしてやってくれ」


 ◆


「なにしろ、私も若いころは母さんが可愛すぎて、まともに顔も見れなかったんだよ」

「まあ。あなたったら……」

「今日も一段と綺麗だよ」

「は、はうう……」


 俺とクリスが居ても全く気にせず、いちゃいちゃべたべたなお二人。絵にかいたようなおしどり夫婦っぷりである。


 クリスの家系は代々女系で、特殊なスキルが母から娘へと伝えられるらしいのだが、それが何かは秘密だそうだ。もちろん義父も知らないという。


「これはね。ウチの女たちだけの秘密。殿方には内緒なの」


 義母は、そう言うと、いたずらっぽく片目をつぶったのだった。



 ◆



「パパ~っ、次のお休みは、王都に連れて行ってね」

「もう、アヤったら。せっかくパパがお料理つくってくれてるのに、邪魔しちゃダメでしょ」

「ゴメンなアヤ。もうちょっと待ってくれ。今ひっくり返すとこだから」

「今日の晩御飯、袋ラーメンじゃないの? ラーメンサラダも食べたい」

「袋ラーメンは月に一度の約束だろ。それより、今日はアヤの大好物だぞ」


 俺はそう言ってジュージュー音を立てるホットプレートに向かい、精神を集中する。

 コテを差し入れて焼き加減を確かめた後は、そのまま一気にひっくり返した。中身が少しこぼれたが、概ね成功である。


「アヤ、広島焼き好き~。おもちも入れてね」

「もちろん切もちを入れるよ」

「やったあ~」



「そうそう、侯爵様の所に卸している袋ラーメン、来月はもっと欲しいって連絡が来たの」

「それが、大量に仕入れすぎて購入制限がついちゃったんだよ。お客さんも多いし、これ以上は厳しいな。元々店で出す余りの分を卸すって約束だったから、俺から話してみるよ」

「ありがとうございます、サトウ様……」

「おいおい、今更サトウ様はないだろ」

「あっ、私ったらゴメンなさい。……あ・な・た……は、はうう……」



 俺たちは子宝にも恵まれ、幸せな新婚生活を送りつつも、相変らず『洞窟亭』で袋ラーメンをつくっている。


 この日も夕食を終えると、仕入れとギルドから買い取った魔石でのレベル上げ。


 本当はここを引き払って、クリスの両親みたいに悠々自適の生活が出来るのだが、クリスが新婚旅行で俺がいた元の世界に行きたいというので、【ハズレ】スキルを集めているのだ。昔クリスと約束したことでもあるし、早く連れていってやりたく思っている。



 だが、パソコンを立ち上げてみると何だが変だ。


「あれ?」


 ノートパソコンのステータス画面を見て首をひねる。何かこれって、前にもあったような気がするのだが……。



 ==============================


【名前】:サトウ

【所属】:人族

【性別】:男

【レベル】:29

【スキル】:【言語理解】【麺料理】【挨拶あいさつ

【間取り】:4LDK

【所持金】:150,000ギル

【その他】:【宅配ボックス】【聖域化】

【ボーナス特典】:【照明】【天然温泉】

【購入金額上限】:4,900円


 ==============================



【レベル】が1に戻ったとき、【スキル】など他のステータスも最初に戻っていたのだ。そして、今まで【間取り】は3LDKだったはず。

 いつの間にか4LDKになっているということは、どこか一部屋増えたようだ。


 もしやと思い俺の部屋を覗いてみると、またもや押し入れの中から光が洩れている。



「キャーッ!」

沙樹さき! また来たのか?!」

「それはこっちのセリフよ! これから就職試験の面接だってのに、何してくれんのよ!バカにい!」


 俺の和室の押し入れだったはずのふすまの向こうには、またまた下着姿の沙樹がいたのだった。



 おわり。

ご愛読ありがとうございました。

続きのSSは、カクヨムにて書いてますので、是非読みに来てくださいね‼

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうもです。 Xより拝見しに来ました。 斬新な設定や、意表を突く展開に何度も驚かされました。 そして、笑いました。 久々にいい作品に出合えました!
[良い点] もうね、すんごくよかった! 一話一話に無駄がなく、全てが面白い! こういうのがハイファンなんだと、目から鱗でした! 勉強になった! (*≧∀≦*)
[良い点] ドレスの下にブルマとは、その発想力に完敗です。 そしてクリスのシャーマンへの憧れはなるほどと思わされました。 最後のステータスを見るに、特別なスキルは言語理解と挨拶で大体乗り切った主人公…
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