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第21話 帰郷

 五年ぶりに僕はランパード家の屋敷跡に足を踏み入れた。


 火事で焼け落ちた建物は再建されず、残骸もきれいに片付けられていて石垣一つ見つからない。


 まるで何もなかったかのように。



 何もなかったことにできるものか。


 母さんの命を奪ったあの火災。

 屋敷が焼け落ちるほどの火災だったのに、死んだのは母さんだけ。

 忠臣たる我が家の家人は誰一人助けに行かず、僕はまるで記憶が残っていない。


 不自然すぎるあの事件が誰かの悪意によるものなら、僕は————



『リスタ、リスタ。

 早く宿を取らないと日が暮れちゃうわよ!』


 セシリアが口やかましく喚くから集中力が途切れた。


「静かにしてくれ。気が散る」

『何をしてるの?

 お屋敷があった場所だからセンチメンタルになるのも分かるけど、誰も住んでないし用はないでしょう』

「僕は邪魔しないでくれと言ったんだけど」


 冷たく言い放つとセシリアはぷーっと頬を膨らませて怒り出した。


『なにさ! ちょっと最近冷たくなってない!?

 ザコルがいなくなったから?

 クエルやコナー村の事件を解決して英雄扱いされて天狗になっちゃった?

 まだまだひよっこのくせにえらそーに!』


 なんとでも言ってくれ。

 どうせこの人は復讐に燃える僕の気持ちなんて理解してくれない。

 というより、否定しかしないだろう。

 そんなことより楽しいことしよう、とかなんとか言って僕を復讐から遠ざける。

 他人からすれば復讐なんて危険なだけで無意味なことだからだ。


 だけど僕にとって復讐心は心の支えだ。

 三英傑との厳しく辛い修行も復讐を完遂するという明確な目標があったから耐え抜くことができた。

 赤の他人を守ったり救ったりすることだって、復讐という私的な理由で英雄の力を使ってしまうことに対する弁明の一環。

 僕の力や正義の根底にあるのは復讐心だ。



 セシリアの声を無視して神経を研ぎ澄ませる。

 外の世界を旅して分かったことは、幽霊や怨霊の類は極めて数が少ない。

 クエルの町全体で二体しかいなかったし、それも大人しく弱々しい者だった。


 しかし、ランパード家の屋敷で暮らしていた頃、目撃した幽霊は10や20ではない。

 たった一棟の屋敷に町の十倍の幽霊が住み着いていたのはどう考えてもおかしいし、中には怨霊化しているのもいた。

 屋敷が崩れたと同時にどこかに消えてしまったのかもしれないが、何か残り滓でも見つけたい。


 感覚を研ぎ澄ませ、それを探る。

 すると、怨霊の気配は感じ取れなかったが別の懐かしい気配が近づいているのを感じた。

 隠れることも考えたが、その必要もないと彼が到着するのを待ち構えた。


『あっ……』


 僕と彼が目を合わせた瞬間、僕たちよりも先にセシリアが何故か驚きの声を上げた。


 五年の歳月を経て、少年だった彼は面影を残したまま大人になっていた。

 僕の方は変わってしまっているから分からないだろうし、そもそも生きているとすら思われていないだろうとたかを括っていたけれど――――


「まさか……アリスタルフ?

 リスタなのか!?」


 まるで幽霊を見たかのような顔で彼は僕に問うた。


 最後の記憶は「母殺し」と罵られ斬り殺されそうになったという殺伐としたもの。

 引きこもりで家の恥とされていた僕のことは嫌悪して当然。


 それなのに、長い間会っていなかった血の繋がった家族との再会に僕の胸は熱くなる。


「ご無沙汰しております。

 アレクサンドル……兄さん」


 屋敷も何も残っていない場所に戻ってきても得られなかった懐かしさが彼にあった瞬間、押し寄せてきた。


 この瞬間、僕は帰郷したのだと実感した。

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