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第17話 邪悪の論理(後編)

 ほろ酔い気分でマイヤはベッドに寝転んだ。

 ウトウトと眠りに入ろうとした時、彼女の頭の中に濁った声が響いた。


『オバアサマ……オバアサマ……

 気持ちよさそうにお眠りですね……』


 ガバッと布団を放り出してマイヤは起き上がった。


「な、なんじゃ!? 盗人か!?」


 ベッドの近くに立てかけていた錫杖を手に取る。

 霊媒師の雰囲気を演出する小道具だが彼女の手元でもっとも武器になりやすい物でもあった。

 家の中を見渡すが姿形はおろか、気配すらマイヤには悟れない。

 空耳か、と気を緩めた時、


『盗人だなんて酷い!

 孫娘の私を忘れるなんて!』

『ババサマ……どうして私を殺したの?』

『モンスターに食べられて痛かったよぉ……』

『聖霊様になれなかったよ!? なんで!?』


 濁った声はとても人が発しているものとは思えない気持ち悪く不気味なもの。

 それが耳を塞いでも頭に響き渡るので、マイヤは取り乱し喚き散らした。


「なんじゃ!? なにかの魔術か!?

 誰か出会え! ワシが! 霊媒師のワシが危険な目にあっているのじゃ————」

『本当に霊媒師ならば、わたしのこともわかるでしょう?』


 声の主がマイヤの目の前に現れた。

 それは黒いローブに身を包み、フードをかぶっている。

 顔の部分には白い頭蓋骨が、足元には黒い霧が漏れ出している。

 エセ霊媒師のマイヤでもハッキリとわかるほどの禍々しさ。

 誰もが思い浮かべる典型的な死神の姿をした何かが彼女の目の前に立っていた。


「ひ、ひえええええええええっ!!」

『わたしがだれかわからない?』

「し、しらん! しらんぞ!

 家から即刻出ていけ!

 さもなくば我が退魔の術にて————」

『無理よぉ! あなたが手をかけられるのは生者だけでしょう!

 このペテン師!!』


 マイヤの錫杖が突然粉々に砕けた。

 武器を失ったマイヤは腰を抜かしてへたりこむ。


『ねえ? どうだった?

 私を儀式に送り出して、婚約者だったドナートを奪った時の気分は!』


 死神に問われてマイヤは息が詰まった。

 五十年以上も昔のことで、当時のことを知っているものなど村にほとんど残っていない。


「お、おまえ……まさか、カーチャなのか!?」

『正解……この五十年! おまえのことをずっとみていたわ!!

 同じようなやりくちでじゃまな娘を葬ってきたおまえのやり口を!!』

『同じような手でウチの畑も奪ったね!!』

『このクソババア!! ころしてやる! ころしてやる!』

『聖霊なんてなれなかったよ、なんでなんでなんでなんでなんでなんで』

『アリーリャの娘が調子に乗りおって……

 性悪は母親譲りか!?』

『私たちはお前たち霊媒師によって殺された娘たち。

 時は満ちた……この村のすべてに復讐する!』


 何人もの娘だったナニカの声が押し寄せ、それが高まるにつれて家全体がガタガタと揺れ始めた。


「ぎぃええええええええええええええっっっ!!」


 恐怖のあまり、マイヤは絶叫を発して失神した。

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