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第12話 クエルの町にて、歓待(後編)

 歓待。

 それは相手の機嫌を取るために心尽くしの料理や酒、場合によっては女性をも提供する。

 貴族にとっては自身の権勢を示すものであり、思いつく限りの贅沢をさせてくれる。


 って。ザコルさんは言ってた。


 たしかにご飯美味しいよ。

 修行中は料理してくれる人いないから僕自身で焼くとか煮るしかできなかったし。

 こんなに柔らかくて分厚いステーキ食べたことないし。

 食卓も立派だ。

 実家の屋敷にあったものよりも大きくて椅子だってフカフカ。

 ありがたい、ありがたい…………けどさぁ、


「ほーう! 親や家を無くしたところを冒険者に救われて!」

「牧場で牛飼いの仕事をして生計を立て!」

「それから人里離れた場所で剣や魔術を修行すること五年!

 師匠を看取った後にこの町へやってきて!」

「そしてトロルの軍団相手に大立ち回り!

 素晴らしい!

 このクエルの町がリスタ殿の英雄譚の始まりの地になると言うわけですな!」

「おぉ……こんな歴史的な瞬間に出くわすとは……長生きしとくもんじゃのう」


 僕を取り囲むように食卓に腰掛けるのは男ばかり!

 しかも濃い感じのおじさんやおじいさんばかりで唯一の若い人はテーブルの一番隅で黙って座っている。


 ザコルさん、言ってたことと違うよ!


「ところでリスタ殿。

 その立派なお師匠様の名前を聞かせていただけませんか?」

「そうだな! 我が町を救った恩人の師匠もまた恩人!

 ともに名を残し語り継ぎましょう!」


 あー、そう来たか。

 流石に三英傑の名前を出したら冗談扱いされるよなあ。

 適当に名前でっち上げても良いけれど……せっかくだし、そうだ。


「僕の師匠は、セシリア・ローゼンです」


 と堂々と言った。

 周りの大人たちは一瞬キョトンとしていたが、黙っていた若い男が、


「セシリア・ローゼンって、二十五年前にこの町にやってきた姫騎士さまのことか!?」


 突然立ち上がって僕に問うた。

 すると、周りの大人たちも思い出したらしく顔を見合わせ喝采を上げる。


「あの別嬪さんの子かあ!

 そう言えば面影があるのお」

「叔父貴、子供じゃなくて弟子。

 でも、確かに顔立ちが似ているなあ。

 あの娘も惚れ惚れするほど美しかった」

「冒険者のくせに姫騎士なんて大層な異名を……って思ってたけれど、その名に相応しい美貌と華やかさを持った淑女だった」

「見てくれだけじゃなく腕も一級品だった。

 この町に滞在した数ヶ月の間に塩漬け案件だったA級クエストをいくつもクリアしてくれたものだ。

 この町に残ってほしいと町民みんなが望んでおったもんだ」


 お、思ったより記憶残ってるんだな……

 大丈夫だよね?

 矛盾出てきたりとかしないよね。


 心配していると、若い男が手を顎に当ててボソリとつぶやく。


「でも……この町を出て行った後、すぐにセシリアさんの名前は聞かなくなったんだ。

 他の冒険者ギルドで活躍していると言う噂も聞かなかったし。

 あんな目立つ女の噂が立たないわけないものなあ。

 人知れず亡くなったと思い込んでたけど……」


 彼は僕を見て安堵したような顔で微笑む。


「ついこないだまで生きて、冒険者を続けて……しかも、君のような立派な弟子まで育てていたなんてね。

 亡くなられたのは残念だけど、少し救われた気分だ」


 彼の言葉に他の大人たちも昔を懐かしむようにしんみりとした顔を見せた。



 セシリアの名前使ったのはよかったかもしれない。

 実際、僕の最初の師匠はセシリアだし、今も彼女に僕は支えられている。


 死者は孤独だ。

 生者と触れ合うことができないから。

 だから、せめてこうやって生者がその思い出を呼び起こすことは死者のためになる。


 想い想われる。


 それが聖者と死者の間でできる唯一の交流なのかもしれない。

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