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第八十四話 御魂安らかなれ ①

ラストバトルのみ、台詞、胸中での呟き内での数字はアラビア数字を使わせて頂きます。

「人型無人機動兵器運用艦隊へ通達! 第1次攻撃隊出撃せよッ! 初戦の一撃を(もっ)て賊軍を殲滅するのだッ!」


 総司令官であるランデルの命令は作戦計画に沿ったものであり、キャメロットの厳命でもあった。

 そこには、最新型AIによって制御されたナイトメア部隊の優秀さを誇示する事で、人間同士が命を懸けて戦う戦争という概念が、如何(いか)に時代遅れであるかを民衆へ知らしめる……そんな意図が内包されている。


 戦争=人命の大量喪失。


 これまで当たり前とされて来た事が、そして、仕方がないと諦められていた悲劇が覆された時、人類は歓呼を(もっ)て変革を受け入れるだろう……。

 そんな希望的観測にも似た信念が、初戦でのナイトメア投入を決定づけた理由であり、同時に革命政府軍首脳陣の新型兵器への絶対的な期待の表れでもあった。

 事実、両軍艦隊が直接砲火を交えるには(いま)だ距離があり、前哨戦という意味でも、航空機動戦力で先制攻撃を仕掛けるのは理に(かな)った戦法だと言えるだろう。


「作戦は発動された。第1次攻撃隊は発艦を開始せよ! 目標はエリアGLに展開する白銀艦隊だッ! 時代遅れの化石共に新世界を導く力を見せつけてやれッ!」


 ランデルの盟友でもあるオルドーは、今回の作戦では機動部隊を統括する役目を担っており、艦隊中央部に展開する改装航宙母艦群の指揮を任されていた。

 革命政府軍の艦隊構成は、その大半が打撃艦隊で占められており、航宙母艦群を中心とした機動部隊の戦力は微々たるものでしかない。

 とは言え、各航宙母艦が搭載している主力機はナイトメア一択であり、幕僚部を形成する高級将官らが、如何(いか)に新型機に期待しているかを如実(にょじつ)に物語ってもいた。

 ナイトメア本体の量産は始まっており、現在五千機が実戦配備されている。

 その内の九十%が、対白銀艦隊用の決戦兵器として主力艦隊に投入されているのだから、勝利を確信した艦隊首脳陣から、何処(どこ)か浮ついた雰囲気が感じられたのは仕方がない事だったのかもしれない。

 ()えて問題を挙げるならば、生体コアユニットのスペア不足という点だったが、それも、新政府に対する反乱行為で拘禁した二万人を活用する事で解決しており、運用に関する不安は解消したと言っても過言ではなかった。


 百隻のエクレール型正規母艦群で運用される四千五百機の最新鋭人型無人兵器の攻撃力も()る事ながら、随伴護衛艦隊の防空能力は高く、敵が付け入る隙はないと、彼らは信じて疑ってもいない。

 つまり、開戦と同時にナイトメア隊を投入すれば、敵は反撃の機会を得る(いとま)もなく、宇宙の(ちり)となるしかない……。

 そう、ランデルやオルドーら艦隊首脳陣が確信したのは、ある意味では間違っていなかったのである。

 但し、飽くまでも常識的な範疇の能力しか持ち得ない軍人が敵司令官であれば。

 そんな都合の良い条件付きの話ではあったのだが……。


           ◇◆◇◆◇


「長距離レーダーに感あり、敵艦隊より離脱する光点多数! 小型機動兵器と思われますが……データー識別完了っ、コードネーム〝ナイトメア″と確認! 編隊数は15! 各編隊は約百機のナイトメアで構成されている模様! 我が艦隊との接触まで約10分です!」 


 主任管制官を務めるクレアからの報告を聞いた詩織は、その内容に激しい憤りを覚えずにはいられなかった。


(この距離を10分で踏破? 有り得ないでしょう!?)


 如何(いか)にパイロットへの配慮が不要な無人機動兵器とはいえ、生体ユニットを内包している以上、高速機動によるコアへのダメージは看過できないものがある筈だ。

 それにも(かか)わらず、限界性能ギリギリのパフォーマンスを駆使して強襲を仕掛けて来るのだから、敵が生体ユニットそのものを交換可能な部品としか認知していないのは明らかだった。


「何がAIに制御された理想社会よっ! 同胞を部品として使い捨てにする世界に未来なんか有る筈がないでしょう!」


 その詩織の憤懣は、梁山泊軍全将兵が共通して(いだ)いているものに他ならない。

 他者の命を(ないがし)ろにして恥じない存在は、彼らにとっては不倶戴天(ふぐたいてん)の敵でしかないのだ。

 話し合いによって解決できる余地があるのならばまだしも、双方共に譲れぬ決意を(もっ)て戦場で相対した以上、眼前の敵を排除するのに躊躇(ためら)いはない……。

 悲しいかな、それが軍人というものであり、戦場の実相でもあった。


 その事を長い戦場暮らしで熟知している達也も、本質的な部分では詩織の憤りを共有してはいたが、二人の間には決定的な経験値の違いがある。

 己の感情に流されて一喜一憂する総司令官が、大勢の部下を死へと追いやる事を誰よりも承知しているからこそ、軽々と本心を吐露する様な愚は犯さなかった。

 だから、視線ひとつ動かさず、まるで独り言の様な物言いで、右腕と(たの)(かつ)ての教え子を(さと)したのだ。


「如月艦長。気持ちは理解できるが熱くはなるな……乗員全ての命と、その家族らの想いをお前は背負っているのだ。義憤を糧にするなとは言わないが、頼り過ぎると後悔する……それだけは胸に刻んで忘れるな」


 頭ごなしに叱責されていれば、詩織とて面白くはなかっただろう。

 だが、部下達の命と大切な者達の存在を持ち出されては、艦長職を拝命している身では反論の余地はなかった。


(そうだったわ。どんな時でも冷静であれ……何度も教えられて来た事なのに)


 やはり、決戦を前にして、何処(どこ)何時(いつ)もの自分ではなかったらしい。

 そう悟って一度だけ深呼吸した詩織は、頭を下げて謝罪した。


「申し訳ありませんでした、提督。もう、大丈夫です」

「うん」


 その短い返事を心地よく感じた詩織が決意を新たにして顔を上げたのと同時に、クレアの声が再度響き渡る。


「敵編隊他方面より急速接近中! 我が艦隊を包囲する意図があるのか、7部隊は左右へ展開するルートを選択、他の8部隊は高度差を保って直進してきますっ! 最終迎撃ラインまで、あと3分を切りました!」


 いよいよ始まる……。

 そんな重苦しい緊張感が艦隊を覆うが、やはり、達也は達也だった。

 鉄面皮の如き強面(こわもて)のまま、実に落ち着き払った態度で全艦隊へ檄を飛ばしたのである。


「これより敵無人機動兵器の殲滅作戦を開始する……諸君らも承知している通り、罪なき同胞らの亡骸が敵機のコアとして囚われた儘だ。救済策はなく、彼らの魂を解放してやる事だけが、我々にできる唯一の弔いだろう。だから、迷うな……責任は全て私が負うから……もう、彼らを眠らせてあげようではないか」


 強い言葉ではない。

 だが、その淡々とした文言に滲む哀切の情は、艦隊将兵の心に火を灯すのに充分な役割を果たすのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] (´;ω;`)ウゥゥ 悔しいだろうなぁ。 こんなはずじゃなかったと思っているだろうなぁ。 そうだよ。 これ以上、生贄にされたみんなを悲しませないようにするためにも眠らせてあげなきゃ( ノД…
[一言] >もう、彼らを眠らせてあげようではないか それしか助けることが出来ないという状態がとても悲しい現実ですね。 例え機械同士が戦ったのだとしても、何をしても悲しいのが戦争です。どうにかして、こ…
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