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第七十三話 一抹の不安 ③

 セーラへの到着が遅れていた国々が全て揃ったのは、達也とクレアがガリュードらと歓談した翌日の午後になってからだった。

 (すで)に丸一日を浪費しているという事情もあり、慌ただしい雰囲気の中、参集した各国の軍事関係者を集めた会議が開催されたのである。


 本来ならば国家元首や政治を牽引(けんいん)する為政者らも参加する方が望ましいのだが、今は国家間の利害調整に割く時間など一秒も無いのが実情だ。

 ランズベルグ皇国とファーレン王国主導による反銀河連邦同盟設立という一大事が(おおやけ)になれば、それを指を咥えて看過するモナルキアではないだろう。

 それどころか、たちどころに討伐艦隊が編成され、これまでとは類を見ない規模の巨大戦力が派遣されるのは容易に想像できた。

 それらを迎え討つ為にも、同盟軍の意思疎通と目的意識の共有は最優先課題であり、火急速やかに連合艦隊の体裁を整えるには、政治的思惑を排除するべきだとのレイモンド皇王による鶴の一声で軍関係者のみの参加と決まったのである。


            ※※※


(なるほどね……今回の参集に応じた国々の詳細が秘されたのも当然だな。北部と北西部方面域に属する連邦加盟国の半数が同盟への参加を決断したのは僥倖(ぎょうこう)だが、(ひい)でた軍事力を持つ国家はごく少数に過ぎない。これでは、寄せ集めの集団だと揶揄(やゆ)されても仕方がないだろう)


 まるでコンサートホールを彷彿させる大会議場の演壇に(しつら)えられた巨大な円卓の一角に座す達也は、席を同じくする面々の少なさに嘆息せざるを得なかった。

 円卓を囲むのは、二十五の国々の軍司令官と銀河連邦軍北部方面域総司令官ハーフェン大将、そして北西部方面域総司令官クロイツ大将のみだ。

 議長席にはレイモンド皇王と補佐役としてガリュード・ランズベルグが控えており、その胸の内を(うかが)わせない無表情を取り繕って参集した面々を見ていた。


 その様な中で達也が同盟の先行きに懸念を(いだ)いたのには理由がある。


 今回提唱された反銀河連邦同盟の理念に賛同してランズベルグ皇国に集った国々は百ヶ国にも上るが、その大半は自国近隣宙域を哨戒警備するのが精一杯という微々たる戦力しか有していない小国ばかりだった。

 これら小国の政治方針は自国の経済発展に重きを置くものであり、軍事的戦略については、銀河連邦方面域駐留軍に全面的に依存している状況だ。

 つまり、新同盟全体で実に四分の三にも上る勢力が、両方面域軍が中央司令部に対して反旗を翻すと知ったからこそ急遽セーラへ馳せ参じたのであり、戦力としては何の期待もできないという点を達也は憂慮しているのだった。


 それ(ゆえ)に実質的な戦力は、両方面域艦隊の十五万隻と残り二十五ヶ国の拠出可能戦力十万隻を合わせた、合計二十五万隻という勘定になる。

 決して少ないとはいえないが、一旦は大敗を喫したとはいえ、(いま)だ八十万隻近い大軍を有している銀河連邦軍と対峙するには心許ないと言わざるを得ないだろう。


「銀河連邦軍の出方次第だが、総戦力がこの有り様では積極的に攻勢にでる訳にもいかないし、受け身に回ったとしても寡兵(かへい)では勝ち目はない」


 溜息混じりに達也が漏らした言葉には、ラインハルトも同意するしかない。


「北部と北西部の両方面域にはアルカディーナ星系の様に地の利を活かして戦える場所は少ない。攻めやすく守り難い……厳しい戦いを覚悟しなければならないな」


 円卓に座すのは代表者一名のみであり、そのすぐ後ろに副官の席が、そして少し離れた後方に参謀格の従者らの席が用意されている。

 とは言っても、他国の軍司令官が複数の幕僚を引き連れているのに対して梁山泊軍代表は達也とラインハルトの二人だけであり、距離が近いが(ゆえ)に小声でも会話に不自由はない。


「それにしても……注目の的だな達也。席に付いているお歴々が、如何(いか)にも興味津々(きょうみしんしん)といった表情でお前を見ているぞ」


 何処(どこ)か面白がっているかの様なラインハルトの言葉に苦笑いする達也は、()えて視線を向けてくる者達とは目を合わせようとはしなかった。

 確かに興味本位の視線攻撃に晒されるのは覚悟していたし、ある程度は新参者が受ける通過儀礼だとも割り切っていたが、そこに不穏な感情が含まれているとなれば話は別だ。


 圧倒的に優勢な銀河連邦軍派遣艦隊を寡兵で撃ち破ったアルカディーナ星系戦役では、その詳細が(つまび)らかにされていないだけに、勝者である梁山泊軍への警戒心を強くする国々があるのは分かっていた。

 事実それを裏付ける報告は情報部からも上がって来ていたし、逆に時流に乗った成り上がり者だと忌避する国もある筈だと達也は考えている。


 何といっても新同盟のバックには現役方面域艦隊十五万隻が控えているのだから、その後ろ盾を得た諸国家が、梁山泊軍を弱小戦力と侮るのは無理からぬ事なのかも知れない。

 しかし、どの様な事情があるにせよ、同盟という旗の下に集い、志を一つにして戦う以上は、互いの信頼を損ねる様な感情は(いささ)かもあってはならないのだ。

 そうでないと、反銀河連邦同盟など絵に描いた餅でしかないし、あっという間に瓦解して消散するのは火を見るよりも明らかだろう。

 その事を理解している達也は口元に不敵な微笑みを浮かべ、ラインハルトにだけ聞こえる声音で決意を(あらわ)にした。


「興味だけで済ます気はない……ここに参集している連中も連邦評議会で踏ん反り返っている貴族閥の連中と大差ない様だからな。目を覚まして貰わなければ我々の未来までもが泥船だ……まぁ、頑張ってみるさ」


            ◇◆◇◆◇


 レイモンド皇王の開会宣言に続き、モナルキア率いる銀河連邦に対する皇王自らの決別の辞を皮切りにして会議は幕を開けた。

 その後は司会役の皇国軍務卿から紹介指名された各国代表者の簡潔な挨拶と決意表明が、静寂に満たされた議場に響く。

 しかし、その流れの中で一番最後に達也が指名された途端、巨大なホールを包む雰囲気があからさまに変化した。

 当然ながら、連合軍という集団に()いても主導権争いが存在するのは常だ。

 今回の同盟の盟主はランズベルグ皇国だと誰もが承知してはいるが、如何(いか)にして中心に近い位置を占めて強い発言権を確保するかは、今後の自国の存在感を高める為にも重要な問題だった。

 だからこそ、一切の情報が秘匿されて謎のベールに包まれている梁山泊軍は各国にとって脅威の対象であり、不気味な存在でもあるのだ。

 そんな背景があるからこそ、達也が指名された瞬間にランズベルグの関係者以外の面々に少なからぬ緊張が走ったのは已むを得ない事だったのかもしれない。

 だが、張り詰めた空気が議場を満たす中で(おもむろ)に席を立った達也は、議長であるレイモンド皇王へ軽く頭を垂れて敬意を示した後、一転して表情を険しくして他の参加国へ痛烈な先制パンチを見舞ったのである。


「アマテラス共生共和国より、軍事に関する一切を委任されております白銀達也と申します。初めて知己を得ます方々にも、今後は良しなにお引き回し戴きますよう伏してお願い申し上げる次第であります……ただ、議案の審議に入る前に皆さま方へお尋ねしたい。貴方様方は己の国家が滅亡する未来を甘受する覚悟が御有りか(いな)か……是非とも御所存を御聞かせ願いたい」


 その余りにも不吉な内容に円卓に座す各国の代表者らは言うに及ばず、観客席に(しつら)えられた傍聴席に陣取る他の国々の担当者らも大いに動揺してしまう。

 議場全体に剣呑な騒響(ざわめき)が拡がる中で平然としているのはレイモンド皇王とガリュード、そしてハーフェンとクロイツの両大将ぐらいだろうか。

 それら議場内の反応を自分の目で確かめた達也は、ある程度は覚悟していたとはいえ、今回の反銀河連邦同盟に賛意を示した国々の定見のなさに落胆せざるを得なかった。


(八大方面域の二つが丸ごと味方に付いたぐらいで戦局が優位になる訳もないだろうに……この程度で狼狽(うろた)える様ではかなりの荒療治が必要だな)


 流石(さすが)にそんな胸の中はおくびにも出さなかったが、ポーカーフェイスを取り繕った表情の裏で達也は、如何(いか)にして現在自分らが置かれている状況の深刻さを眼前の面々に理解させるかに思案を巡らせたのである。


            ◇◆◇◆◇



【FAを頂戴いたしました】


先日、サカキショーゴ様(https://mypage.syosetu.com/202374/)よりファンアートを頂戴いたしました。


挿絵(By みてみん)

左側の白い道着を着ているのが詩織ちゃん、右側の赤一色がアイラという事です。

何やらカンフー対決の様に見えるのですが、どうやら違う様で……。

詳しくは私のマイページに掲載されております最新の活動報告で紹介しておりますので、お暇な方は是非ともお尋ねくださいませ!


サカキショーゴ様は“みてみん”にも美術館(https://32786.mitemin.net)をお持ちですので、こちらもお訪ねになられる事をお勧めいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] FA紹介感謝です( ´∀` ) 不穏な雰囲気になってきましたねぇ……この場を、どう仕切る達也センセ(゜Д゜;)
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