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第六話 留別 ②

今回以降、兵装や戦術または政治向きや舞台設定という物がチラホラ書かれ始めますが、あくまでこの物語の中での、御都合設定です。

以降のストーリーの為のモノですので、御不満は多々あると思いますが御寛恕下さいますようお願いします。

 初めて乗った艦であるにも(かか)わらず、達也は迷う素振りも見せずに艦橋へと歩を速める。

 軍艦の内部構造など何処(どこ)で造られたものであっても大差はなく、ある程度の軍歴の持ち主ならば、この程度の真似は()して難しくはない。

 (もっと)も、着ている御召し物が三つ揃えの紳士服とあっては、(いちじる)しく場違いな感じは(いな)めないのだが、非常事態の最中(さなか)である所為(せい)(とが)めだてする者はいなかった。


 ものの数分で艦橋に到着してみれば、各担当士官らが早口で(まく)し立てる状況報告が交錯しており、事態が切迫しているのは一目瞭然だった。

 艦橋とはいっても、大昔の海上戦闘艦の様に楼閣(ろうかく)(ごと)き構造物が(そびえ)え立っているわけではない。

 多くの戦闘艦は流線型の船体に申し訳程度にせり出した航海用艦橋と、装甲板に覆われた内部戦闘情報指揮所(CIC)とに分かれているのが一般的だ。

 達也が入室したのはCICの方であり、室内を飛び交うオペレーター達の声から状況の推移は簡単に把握できた。

 正体不明の敵艦隊からのミサイル攻撃を受け即座に迎撃したまでは良かったが、原因不明のシステムエラーによってメイン動力から各主砲にエネルギーを伝達する装置が破損。

 その為に全ての光学兵器が使用不能に(おちい)っているのだ。


 昨今の軍艦が装備している主兵装は高出力のレーザー兵器と粒子砲が主流を占めており、威力的にも命中精度に()いても、それらに劣る実弾兵装は絶滅に(ひん)していると言っても過言ではないだろう。

 航空機や対艦ミサイルに付加されているビームシールド対策として、対空火器の一部に実弾兵器が(わず)かに採用されている程度だ。

 また、各種粒子砲は大小の発射口が必要になるが、レーザー兵器は球状のレンズを艦体装甲と一体化させる事で、攻防に優れたパフォーマンスを発揮できる。

 唯一の問題点はその攻撃力を相殺する防御手段も発達しており、威力に比例した戦果を期待するのは難しいという事だった。

 そして何よりも実弾兵器が忌避(きひ)される原因は、宇宙空間には様々な障害物が存在し、それらの影響により一旦砲身から射出された砲弾は直進する事さえも難しく、目標に命中させるには至近距離まで接近する必要があるという点が大きい。

 だが、近接戦闘を強行すれば、当然の事ながら敵の命中精度も向上し、味方艦の被害も飛躍的に増大する。

 捨て身の突撃といえば勇ましく聞こえるが、好んで自殺戦法を選択する指揮官はいないし、無意味な損害を許容する能天気な軍隊などありはしないのだ。


 そのような状況下で艦の主兵装が使用できないという事実は絶体絶命のピンチに他ならず、艦長以下艦橋要員達が狼狽するのも無理はなかった。


「駄目です! システムの修復には一時間以上掛かります。ミサイルによる攻撃だけでは、敵のECMに撹乱(かくらん)されて決定打を与えられません」


 実戦経験が豊富で何時(いつ)もは泰然としている艦長が珍しくも(あせ)りの色を浮かべているからか、艦橋の雰囲気も自然と重苦しいものになる。


「くそっ! こんな時にシステムにトラブルが発生するなんて……とにかく修理に全力を尽くせ! ダメージコントロール要員以外の手空(てす)きの者達も駆り出して作業を急がせろ」


 儘ならない状況に苛立(いらだ)ちを(あらわ)にするセリスだったが、それで状況が改善する訳ではない。

 何よりも問題なのは、目先の状況への対処に躍起になるばかりに、戦闘の全体像を見通せていないという点に尽きた。

 セリスが若く経験に乏しいのは仕方がないが、これ以上対応が遅れると致命的だと判断した達也は、周囲からの反発を覚悟の上で口を(はさ)んだ。


「そんな暇はない。受け身の儘では敵の思う壺だぞ」


 突然背後から厳しい声を掛けられたセリス以下ブリッジクルーが驚いて振り向いた先には、如何(いか)にも場違いな三つ揃えを着こなした紳士が立っており、その異様な光景に彼らは二度驚かされてしまう。

 (しか)も、その人物が目下帝国と敵対関係にある銀河連邦軍の将官なのを知るセリスに至っては、大いに狼狽せざるを得なかった。


「あっ、貴方は!? どうして此処(ここ)にいるのですかっ!? 此処(ここ)は部外者立ち入り禁止です。(いく)ら陛下の御客人とはいえ、即刻退去願います!」

「そんな暇はないと言っただろう? 敵艦三隻が距離を保ったまま緩慢(かんまん)なミサイル攻撃に終始しているのは、本艦の被害状況を見極めて攻勢に出る機会を(うかが)っていると考えるのが妥当だ」

「そ、そんな馬鹿なっ! 本艦のトラブルを敵が察知していると? ま、まさか、このアクシデントが敵の謀略だとでもっ!?」


 信じられないと言わんばかりに艦長が(いきどお)るが、達也は平然と頷いて見せた。


「それ以外に何がある? それとも、戦闘不能に(おちい)るような深刻な事故を許す程、貴殿の部下達は日頃の整備を(おろそ)かにしているのかね? まぁ、誰が仕組んだにしても、今はそんな些事(さじ)詮索(せんさく)している暇はない。敵は本艦の不調に気付いているよ。そろそろ止めを刺すべく本気で突撃してくる筈だ」


 味方に裏切り者がいる?

 セリスはその指摘に不快感を覚えたが、それを詮索する暇など有る筈もない。

 だが、対艦ミサイルと近接戦闘兵装だけでは敵艦を迎撃するのは困難だと言わざるを得ず、ジリ貧の状況に焦慮(しょうりょ)ばかりが(つの)ってしまう。


「兵装管制担当。これから口述するデーターを対ビームコート仕様の対艦ミサイルに入力せよ」


 セリスと艦橋士官達が逡巡(しゅんじゅん)する中、響いた声の主はやはり達也だった。


「あ、貴方はなにをっ! うっ……」


 明らかな越権行為を(とが)め様としたセリスだったが、鋭い視線に射竦(いすく)められて続く言葉を口にできなくなる。

 それは彼の後ろに控えていた艦長以下幕僚達も同様であり、恐懼(きょうく)し立ち尽くすしかなかった。

 達也自身が殊更(ことさら)居丈高(いたけだか)に振る舞ったわけではない。

 もしそうであったのならば、彼らは反感を(つの)らせるだけで気圧(けお)されはしなかっただろう。

 しかし、その場にいた帝国軍士官全員が身動(みじろ)ぎもできなくなったのは、白銀達也という人間が(まと)う指揮官としての存在感に畏怖(いふ)したからであり、それが強烈な重圧となって彼らを黙らせたのだ。


「押し問答をしている暇はないだろう? 反撃するなら今を()いて他にはないぞ。敵は自分達の描いた絵図通りの展開に小躍りしている筈だ。しかし、決断力が無いばかりに勝機を(いっ)した事に気付きもしない。潮目を見誤った愚かな奴らだ……」


 スクリーンに光点で表示される敵艦隊の動きを目で追いながら、まるで他人事の様にこの危地を語る達也を、周囲の者達は固唾(かたず)を呑んで見つめるしかない。


「もっと早くに攻勢に転じていれば、今頃は本艦を沈めていただろうに……愚鈍な連中だ。好んで勝機を(いっ)するような馬鹿共の愚策に付き合いう必要はない。黄泉路(よみじ)を逝くのがどちらなのか……思い知らせてやろう」


 その言葉を境に達也の双眸に獰猛(どうもう)な光が宿ったのを見たセリスは、背筋に冷たいものが走った気がして身震いした。

 自身に敵対する者は情け容赦なく(ほふ)る。

 その単純明快な理屈を果断に決断し実行する人間……それが【神将】と渾名(あだな)される軍人なのだと思い知らされたセリスは、唯々唖然とするしかなかった。


「指揮権を一時御預かりしてもいいかな? 殿下」

「わ、分かりました……指揮権を御預けします」


 達也の要請を()ねつけるだけの気概を十六歳のセリスに求めるのは(こく)であろうし、皇子が承諾した以上、艦長ら幕僚にも(いな)を唱える事はできなかった。

 しかし、彼らも皇帝の御召艦のクルーを任された一流の軍人であり、一度(ひとたび)決断した後の行動は極めて俊敏(しゅんびん)であり、たちどころに反撃行動に移る。


「再度命令する、対ビームコート仕様の対艦ミサイルを敵各艦に対して三基準備せよ。九本のデーター入力を急げ! データーの詳細は次の通り……」


 厳しい口調で(よど)みなく語られる数字の羅列(られつ)を、オペレーター達は遅滞する事なく正確に入力していく。


「敵各艦に対応するミサイルを二秒間隔で発射せよ。三、二、一、初弾発射っ! 続けて二番……ラスト三番発射っ! 操舵手! 取り舵三十。降下角十。第二戦闘速度まで加速して退避行動に移行したように(よそお)え」


 部外者に過ぎない達也の命令に部下達が一瞬の遅延も見せずに反応するのを見たセリスと艦長は、複雑な感情を胸に(いだ)いたまま不安げな視線をメインスクリーンへと向けるのだった。


           ◇◆◇◆◇


 強襲艦隊を指揮する司令官は、標的である御座船を前にして緊張と興奮の只中にいた。

 如何(いか)なる理想の果ての行為とはいえ、皇帝を弑逆(しいぎゃく)せしめる大罪を前にすれば、懊悩(おうのう)しない臣下はいないだろう。


(陛下。御許しを……この銀河の覇権(はけん)を帝国が握る為には、貴方様には御退場いただかねばならないのです)


 今や新しき盟主と(あお)ぐ人物の尊顔を脳裏に思い浮かべた彼は、心に絡み付く最後の迷いを断ち切って命令を下す。


「標的艦の主兵装が使用不能に(おちい)っているのは明らかだ! 工作員が手筈(てはず)通り巧くやってくれたらしい。この機を逃さず一気に叩く! 僚艦に伝えよ『全艦攻撃開始三方より包囲殲滅(せんめつ)せよ!』だっ!」


 語気を強めて一気に(まく)し立てた司令官だが、返って来たのは副官からの復唱ではなく、オペレーターが発した状況報告だった。


「標的艦ミサイル発射確認! 数は三、あっ、いえ第二射同じく三。続けて第三射も三本。合計九基のミサイルが各艦に対しそれぞれ三本。高速で接近中!」

「標的艦取り舵にて転舵(てんだ)します。退避行動に移った模様!」


 効果を見込めない無意味な反撃を続けるだけだった標的が悪足掻(わるあが)き同然の行動を始めたと判断したのか、オペレーターの口調にからは切迫した雰囲気は微塵(みじん)も感じられない。

 それは、司令官以下幕僚らも同様であり『冥途の土産に(あわ)い期待ぐらいは(いだ)かせても罰は当たるまい』と失笑を漏らす者まで居る始末で、()そ、緊張を()いられる場面とは思えない弛緩(しかん)ぶりだった。


「各種ECM最大出力で展開せよ。役立たずのミサイルを無力化した後面舵(おもかじ)二十で転舵。艦首を標的艦に向け最大戦速まで加速せよ。後は予定通り集中砲火を浴びせて血祭りに上げるのだっ! 後続の僚艦にも指示を出せ!」


 旗艦からの命令に従い、二番艦は取り舵から増速、三番艦は最大戦速まで加速して標的艦の背後を抑えんと勇躍(ゆうやく)する。

 セオリー通りの戦術を選択した司令官の判断は間違っていないし、責められるようなミスも犯してはいない。

 少なくとも、実際に各艦の艦橋で指揮を執っていた全ての士官が、味方の勝利を微塵(みじん)も疑っていなかった事からも、それは確かだろう。

 しかし、この時点を(もっ)て、彼らの運命は暗転したのである。


「敵ミサイル第一波に対するアクティブレーダー波の撹乱を確認。本艦をロストしたまま左舷艦尾を通過し七時方向に遠ざかります。遼艦も本艦同様に第一波をやり過ごしました。続けて第二波……」


 想定通りの経過を淡々(たんたん)と読み上げるオペレーターの事務的な声音が急変したのはその時だった。


「──っ! だっ、第二波急速転舵っ! 進路を本艦に向けて直進中っ! 後続の第三波も同じく本艦に向けて突っ込んできますっ! 命中コースですッ!」


 一転して驚愕と恐怖が滲んだ絶叫が艦橋に響き渡り、一気に緊張の度合いが跳ね上がる。


「ばっ、馬鹿なっ! ECMはどうなっているのかッ?」


 自動追尾不能状態に(おちい)った筈のミサイルが迫って来る!

 その常識の埒外(らちがい)と言う他はない状況に直面した司令官は、驚愕に顔を(ゆが)めて怒鳴り返した。


「効果継続中っ! 敵ミサイルのアクティブレーダーは、本艦をロストしたままですっ!」

「くぅっ! いったいどういう事だ!? 対空迎撃開始せよッ! 取舵一杯ッ! 左舷前方のデブリ帯を盾にするんだッ! 急げッ!」


 理屈に合わない事象の原因が理解できず狼狽するが、彼も一角(ひとかど)の軍人である。

 即座に原因の究明を放棄して事態に対処して見せた。

 対近接兵装で迎撃できれば良し、さもなくばデブリ帯でレーダー波を撹乱(かくらん)させて回避する道を選択した彼は、確かに優秀な軍人だったと言えるだろう。

 だが、彼らが敵に廻した男は、そんな思考すら見透(みす)かす神……いや、悪魔と呼ぶに相応(ふさわ)しい人間なのだ。

 それが彼と麾下(きか)艦隊将兵全てを呑み込む不幸の原因だったとは、それこそ神のみぞ知る無情な現実だと言うしかなかった。


「敵ミサイルはビームコート仕様! 迎撃の効果半減っ、あっ! 第二波の迎撃に成功っ! 続けて第三波右舷四時方向より加速接近っ!」

「推力全開っ! 弾幕を集中させろっ、ビームコート仕様とはいえ無敵ではないのだっ! 撃てッ! 撃てッ! 叩き墜とせぇぇ──ッッ!」


 速度を上げて接近して来る凶弾の恐怖を打ち払わんと、司令官は金切り声で命令を連呼する。

 まさにミサイルが最終突入に入る刹那(せつな)雨霰(あめあられ)と撃ち込んだレーザー機銃弾による迎撃が功を奏してミサイルは至近距離で爆散、艦は危地を脱した……かに見えた。


 冷や汗を流しつつも安堵する司令官は、一転して込み上げてきた苛立(いらだ)ちに歯噛みし、攻勢に転ずべく語気を強めて命令を下す。


「おのれぇっ! 悪足掻(わるあが)きをしおってぇっ! これ以上図に乗らせるなっ、(ただ)ちに反撃に移るぞッ!」


 しかし、彼の命令が発せられたのと同時に、オペレーターの驚愕に満ちた絶叫が再度艦橋に響き渡る。


「本艦正面ッ! ミサイル急速接近っ! だ、駄目だぁっ、回避不能──っ!」


 司令官以下幕僚達の顔が狼狽(ろうばい)恐懼(きょうく)(ゆが)んだ時には(すで)に手遅れだった。

 最初に進路を外れた筈の第一波ミサイルがデブリ帯を迂回(うかい)するや、計ったかの様に艦の正面に廻り込んで来たのだ。

 自分達を終末に導く獰猛(どうもう)な牙が迫り来る理由……。

 それを知る時間も術も、彼らには残されてはいなかったのである。

 司令官の顔が驚愕に(ゆが)み、何が起こったのかすら理解できないまま、終焉を告げる(あぎと)が艦の全てを呑み込んでいく。


「ばっ、馬鹿な……」


 茫然自失の(まま)に発せられた言葉諸共(もろとも)に、彼を含む艦の全てを猛然たる閃光が呑み込むや、漆黒の宙空に大輪の火炎を咲かせるのだった。

 そして艦隊旗艦の末路(まつろ)をなぞるかの様に、二番艦も漆黒の宙空に爆炎を撒き散らして四散する。

 唯一加速していた三番艦だけが(わず)かな時間を生き延びたが、それは恐怖する時間を引き延ばしたに過ぎなかった。


「何だあれは? レーダーが役立たずなのに自動追尾してくるミサイルなどあって(たま)るものか! そんな馬鹿な話があるものかぁぁ──っ!」


 第二波は迎撃したものの、奮闘虚しく第三波を右舷中央に、そして同じく(かわ)した筈の第一波を艦尾動力部に受け、僚艦二隻と同じ末路を辿ったのである。


           ◇◆◇◆◇


 御召艦の艦橋は、ブリッジクルー達の呼吸音すら途絶えたかのように深閑(しんかん)としており、(しわぶ)きひとつ聞こえない有り様だった。

 メインスクリーンには、妖艶な情念の(ごと)き三つの炎球が次第に小さくなっていく模様が映し出されており、誰もが危地を脱した事実を呆然とした面持ちで受け入れるしかなかったのだ。

 白銀達也に相対(あいたい)した者達が己の末路を信じられなかった様に、数々の激戦を潜り抜けて来た帝国軍将兵らにしても、それは同じだった。

 セリスを筆頭にした幕僚の面々にとって、眼前で繰り広げられた束の間の戦闘はそれほどまでに衝撃的だったのである。


「て、敵艦の動きを読み切って、狙った場所にピンポイントで到達する様にデーター入力するなんて……」


 年若い皇子が(うめ)くと、その後方で数人の士官達が息を呑む音がした。


「お前達と争う理由があった訳ではない……悪く思わないでくれよ。(うら)むのなら、今日この場所で……俺に相見(あいまみ)えた己の不運を(のろ)うがいい」


 胸の前で小さな十字をきってそう(うそぶ)いた達也は、セリスに向き直るや何事もなかったかの様に微笑んだ。


「セリス殿下。御預かりしておりました指揮権を御返しいたします……私のような無頼漢を信用して戴いて感謝に()えません」


 そして、そのまま(きびす)を返して出口へ向かって歩き出す。


「ま、待って下さいっ……あっ、そ、その……あの……」


 セリスは何かに()かされる様に、遠ざかる背中に向けて声を発していた。

 しかし、自分が何を聞きたかったのか判然とせず、上手く言葉にならない。

 困ったように(うつむ)いて、口をモゴモゴ動かす様子はまさに子供のそれであり、達也はユリアの面影と異母兄である彼の表情が重なって見えた。

 だからこそ、ほんの少しだけ御節介を焼く気になったのかもしれない。


「セリス殿下……戦場で己の意の儘に味方を動かして勝利を掴む程度の事は、艦隊を預かる指揮官ならば出来て当り前のレベルに過ぎませんよ。その上で敵をも己の都合の良いように動かして見せて初めて一流と言われるのです。精進なさいませ。貴方様はまだお若いのですから、これから(いく)らでも成長できる筈ですよ……では、そろそろ御暇(おいとま)申し上げます。娘も話が終わる頃でしょうから」


 そう助言した後、自ら敬礼をして謝意を示すと、二度と立ち止まらず艦橋を後にしたのである。

 残されたセリスは呆然したまま彼の背を見送るしかなかったが、胸の奥に(とも)った熱の存在を持て余しながらも、不思議な高揚感に包まれるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 弟子入り志願しちまえよ、セリス殿下( ´∀` )
[一言]  あ~あ、これから味方になるにせよ、ライバルになるにせよ、また達也に惹かれた者が出ちゃいましたねぇ(笑)
[良い点] 日雇い提督の本領発揮と言ったところですか?あとこの世界の兵器兵装などもよく解りました [気になる点] セリス殿下は後の宿敵?もしくは? [一言] 現代政治においても現状分析と対処また先に起…
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