第四十七話 インナーオペレーション ⑧
『あと四分で動力炉は臨界点に達します……至急退避せよ……至急退避せよ……』
無慈悲な警鐘に歯噛みするも躊躇している暇はなく、決断を強いられた志保は思考を加速させた。
(この娘を抱えてスペースポートに戻る時間はないし、指令センターに団員を向かわせて爆破システムを解除させるなど論外)
選択肢は無いに等しく、必然的に選びうる方法はひとつしかない。
「デラ! そっちはどうなっているの? 状況を報告しなさい!」
通信システムをオープンにした志保が平静を装って問い掛けると、直ぐに狼狽した様子の副官の声が返ってきた。
『捕らわれていた獣人達は何とか収容を完了したわ。後はアンタ達だけよ。でも、いきなり自爆モードに移行するなんて……』
急転した状況に戸惑いを露にする副官に、志保は簡潔に事実を伝えて矢継ぎ早に命令する。
「海賊の親分が私達を地獄の道連れにしたいそうよ! よく聞きなさいデラっ! 直ちにイ号潜を出航させ、撤収を開始してちょうだい!」
『ちょ、ちょっと、冗談を言わないでよッ! アンタ達を置いて行けと言うの? 出来ないわッ! 直ぐに艦をそっちに回すからっ!』
「そんな暇がある訳ないでしょうがッ! 私達は独力で脱出するから、そっちも さっさと出航して要塞から退避しなさいッ! 爆発に巻き込まれるわよ!」
副官が息を呑むのが分かったが、その寸瞬の間すら惜しい志保は、懊悩して躊躇うデラを再度怒鳴りつけた。
「救出した獣人達をひとりでも死なせたりしたら、私はアンタを許さないわよ! この状況下で優先されるべきは何か、考えるまでもないでしょうがッ!」
タイムリミットまであと僅か……。
イ号潜に乗艦できず要塞内に取り残されれば、死の運命から逃れる術はない。
それを知るからこそデラが逡巡するのは無理もないが、だからと言って、折角救出した人質らが要塞諸共に爆死するなど断じてあってはならないのだ。
小を殺してでも大を生かす……。
それが現場指揮官として志保が下したギリギリの判断だった。
「急いで脱出しなさいッ! こっちは何とかするからっ! 早く行ってッ!」
悲鳴にも似た志保の絶叫に心打たれたデラは、痛苦に満ちた声音で了承せざるを得なかったが、それでも一縷の希望に縋って冀ったのだ。
『わ、分かったわ……でも絶対よっ! 絶対に生きて帰って来なさいよッ!』
「了解……直ぐに会えるわよ。心配しなさんな。相棒」
迫り来るタイムリミットに急かされて通信を切った志保は、生還の妙手を探るべく、素早く周囲に視線を走らせた。
脱出に使えそうな機体は一機もなく、射出式のエアロックは辛うじて破壊を免れてはいるが、宇宙空間で活動するのに必須の気密スーツは粗大ゴミの山と成り果て使い物にはならない。
「全部破壊しないで一着ぐらい残しときなさいよ! 気が利かないわね!」
状況の悪さに苛立ち、思わず八つ当たり気味の罵倒を口にしたが、それで絶望的な現状に光明が差す訳もない。
そう理解した志保はベストの選択を断念し、よりベターな結果を得る為の決断をする他はないと頭を切り替えた。
全員が助からないのならば、救えるべき者を救う。
命の優先順位が高いのは勿論……。
コンバットスーツを解除してリストガード形態に戻した志保は、死の恐怖に苛まれ、青褪めた顔で蹲る獣人少女の腕にそれを装着してやった。
表面に指を這わせて思念を送れば、それは少女の身体をきれいに覆い、生存するための最低限度の保証が確保される。
内蔵されている高性能AIがセンサーを駆使し、瞬時に使用者の体型を測定して寸分違わぬサイズで顕現したそれに、少女は目を白黒させるばかりだ。
「お、お姉さん……こ、これ……」
けたたましく鳴り響く警報に耳朶を叩かれて戸惑う少女が、不安げな視線を向けてくる。
その質問を無視して無言を通した志保が少女にヘッドガードをセットしてやると、正常にコンバットスーツの性能を発揮できる状態であるのを確認したAIが、救難シグナルを発するシステムを起動させた。
こうしておけば、退避中の僚艦が救助してくれる……。
志保にできたのは仲間を信じて事後を託す事……それが精一杯だった。
『あと二分……あと二分で動力炉は臨界点に達します……あと二分……』
その警告に舌打ちした志保は、少女を抱えて対人用のエアロックに放り込むや、一人用のシートに横たえてやる。
射出用の小型カプセルは破壊されて気密性を失っているが、コンバットスーツを装置していれば数時間は宇宙空間でも生存可能だ。
何よりもこの死出の棺桶と化した要塞から脱出するのが最優先なのだから、少しばかりの恐怖は我慢して貰うしかないと腹を括ったのである。
「よく聞きなさい。直ぐに助けが来るから、少しの間だけ我慢してちょうだいね。そして、何があっても強く生きなさい。いつか必ず家族に会える日が来るから」
何か言おうとする少女の身体をシートベルトで固定するや、その言葉を待たずに隔壁を閉鎖してシステムを起動させた。
するとカプセルは軽い振動を残して宇宙空間に射出され、急速に要塞から離れていくのがモニター越しにも確認できた。
やるべき事をやって安堵した所為か、志保はその場に崩れ落ちるかのように座り込んでしまう。
人生最後の瞬間を目前にした今、恐怖なり悲哀なりが込み上げて来るかと思ったが、そんな気配は微塵もない。
自らが立案した作戦は成功し、同胞達の救出作戦は無事に成し遂げられた。
艦隊にも部隊にも損害はなかったのだから、不測の事態で生じた死者が一名という程度の汚点は大目に見て貰えるだろう。
然も、その死者は作戦立案者本人なのだから、自業自得だと笑って見逃してくれたら嬉しい……。
そんな馬鹿な事を考えていると、警報音がその間隔を短くして激しさを増した。
(どうやら残り一分を切ったわね……最後まで親不孝しちゃうな……)
陸に親孝行もできなかったと後悔するが、それも今更だと苦笑いするしかない。
(いつかあの世で再会した時に謝るからさ……ごめんね、母さん……)
ひとり残してしまう母親に心中で詫びたのだが、その謝罪の言葉が引鉄になったからか、コミカルな赤髭達磨の顔を思い浮かべてしまった志保は、含み笑いと共に自虐的な呟きを漏らしてしまう。
「死ぬ前に思い出すのがアイツの顔だなんて、本当に色気のない人生だったわね。でも、ちゃんと謝っておけば良かったかなぁ……」
自分らしくないと思いながらも、募る未練を持て余して唇を噛んだ時だった。
「────ッッ!? くうぅ~~!」
耳障りな警報音を掻き消す大音声と激しい衝撃がハンガーを揺さ振ったのだ。
隔壁に穴が開いたのか、室内の空気が宇宙空間へ流失し、急激に酸素濃度が低下していくのを察した志保は、最後の時が来たと覚悟を決めて目を閉じた。
動力炉の爆発による爆炎が、苦しむ間もなくあの世へと導いてくれる……。
それがせめてもの救いだと諦観し、唇を引き結んでその時を待つ。
しかし、次の瞬間に志保を吃驚させたのは炎でも瓦礫の破片でもなく、すっかり耳に馴染んでしまった怒鳴り声だった。
「この阿呆がっ! 何を呑気に寛いでいるんだッ!? さっさと逃げるぞ!」
その聞き慣れた声に叱咤されて目を開けた志保が見たのは、ランディングしながら間近に迫り来る『烈風改』の雄姿であり、コックピットから上半身を乗り出し、切羽詰まった表情で喚いているラルフ・ビンセントの姿だった。
「う、うそっ……この世には親切な神様がいるのねぇ。人生の最期の瞬間に素敵な夢を見せてくれるなんて……」
想定外の事態に悩乱し、ピントがズレた台詞を呟いた志保だったが、再度雷鳴の如き罵声に打ち据えられて我に返る。
「訳の分からん事をグダグダ言っとる暇があるかぁぁッ! 来いッ、志保ッッ!」
強い声で名前を呼ばれた志保は反射的に立ち上がって床を蹴るや、眼前を低速で通り過ぎようとする『烈風改』のダブルデルタ翼に飛び乗った。
そして必死に伸ばした腕を大きな手で掴まれた彼女は、これが夢の類ではなく、現実に他ならないのだと、その温もりを以て知ったのである。
逞しい腕で引き上げられた志保だったが、狭い操縦席にラルフと相乗りするしかない状況を思えば、気恥ずかしさが勝って逡巡せざるを得なかった。
だが、今は一刻を争うのだから仕方がないと自分に言いきかせ、引かれる儘に、その身をコックピットへとも潜り込ませる。
単座戦闘機の操縦席は窮屈極まりないが、僅かに空いた隙間に両足を捻じ込み、腕をラルフの首に廻した格好で身体を密着させ、漸くコックピットに納まった。
「あ、あの、あ、赤髭……」
「不満だろうが我慢しろっ! あとで好きなだけ殴らせてやるっ! 舌を噛むから口を閉じて喋るなっ!」
普段ならば一方的なその物言いに反発する所だが、命の瀬戸際だから仕方がないと志保が自分を納得させている間に、ラルフは愛機の機首をハンガーゲートへ向け終えていた。
強行突入する時にミサイルで吹き飛ばした隔壁扉は、自動補修システムによって既に応急処置が施されている。
然も、自爆のカウントダウンは正に目前に迫っており、生き残るための選択肢はひとつしかなかった。
「行くぞっ! しっかり掴まっていろよォッ!」
スロットルを全開に叩き込むと同時にブレーキを解除。
エンジンが咆哮を上げた瞬間、機体は猛烈な加速を開始する。
そのタイミングでトリガーを引き絞るや、胴体下の五十ミリガトリングポットが雄叫びを上げてその牙を剥く。
雨霰と撃ち出される弾丸が、粘着性が強いだけの応急修理材を粉々に吹き飛ばし、『烈風改』がその鼻先を宇宙空間に突出させた瞬間だった。
カウントダウンが終了し、要塞動力炉が盛大な最後を迎えたのである。
既に脚は床を離れていたので、要塞からの脱出に支障はなかったのだが、爆発が及ぼす影響からは逃れられない。
爆炎と衝撃波、そして破砕した要塞の破片に打ち据えられた『烈風改』は、舞い風に弄ばれる木の葉の如く弾き飛ばされてしまう。
きりもみ状に回転するコックピットの中で、身体がバラバラになりそうな衝撃に耐える志保だったが、それでも死への恐怖や不安は微塵も感じなかった。
だが、それが自分の腰に廻された逞しい腕のお蔭だと認めるのは悔しくて、喋るなと釘を刺されたのを幸いとばかりに固く口を引き結んだのである。
しかし、その苦悶の時間は長くは続かず、『烈風改』は爆発の効果範囲を辛うじて脱し、静寂を取り戻した漆黒の宙空を漂うのだった。
「ちっ! 破片の衝突で彼方此方がいかれちまったな……こちら狼牙リーダー! 黒龍 聞こえるか? こちら狼牙リーダー、黒龍応答せよ」
機体のダメージが大きく自力飛行が不可能な為、救助を要請したが通信機からは何の返信もない。
「くそっ、通信機もオシャカか……こうなったらジタバタしても始まらん……」
ブツブツ言いながら救難シグナルのスイッチを入れるラルフを見た志保は、その時なって漸く彼がパイロットスーツではなく士官用の軽装なのに気付いた。
「ちょ、ちょっと赤髭……アンタ艦内服のまま飛び出したの?」
思わず声にして訊ねた志保は、半ば呆れながら至近距離にある彼の顔をまじまじと見つめてしまう。
一瞬『しまった』という顔をしたラルフだったが、観念した彼は苦笑いしながらも志保に事情を説明した。
「デラとのやり取りを聞いてな。絶対に馬鹿をやる……そう思ったのさ。おまえの部下達は優秀だし、万が一にも海賊の逃亡を許すようなヘマはしないだろうから、脱出手段は破壊され尽くした筈だ。そんな状況で他人を見捨て、自分だけ逃げ出すおまえじゃあるまい。それが分かっていたから直ぐに黒龍を飛び出したんだ」
脱出手段に窮すれば、獣人少女を助ける為に自らが犠牲になるのも厭わない。
遠藤志保がそういう人間であるのを、ラルフは誰よりも理解していた。
だから矢も楯もたまらなくなって、コンバットスーツを装着する暇さえ惜しんで愛機で飛び出したのだ。
その事実を知った志保は、トクンと音を立てて跳ねた心臓の温度が上昇したのに気付いて狼狽するしかなかった。
「ばっ、馬鹿はアンタでしょうに……あんな際どいタイミングで飛び込んで来て、万が一逃げ遅れて爆発に巻き込まれていたら、いい笑い者じゃないの」
思わず口を衝いて出た憎まれ口に、志保は馬鹿は自分だと自嘲してしまう。
(どうして素直に『ありがとう』の一言がいえないんだろう……こんな風だから、いつまでたっても女扱いされないのよね)
そう慨嘆して落ち込む志保だったが、ラルフは気を悪くした風もなく、御機嫌な笑みを浮かべたのだ。
「まあ、それも悪くはなかろうさ。気の合う喧嘩友達と一緒なら、あの世でも退屈せずに済む……おまけにおまえの様な好い女なら尚更だよ……寧ろ、力が及ばずに俺ひとり残されて後悔するよりは百倍マシだ」
てっきり罵倒されると思っていた志保は、予想もしなかったラルフの反応に胸の中の想いが大きくなっていくのを自覚せざるを得ない。
(な、何よ赤髭のクセに……そんな風に言われたら、好きだって気持ちを抑えられないじゃない……)
喧嘩友達という評価には大いに不満があるが、一緒に死んでも良いと言って貰えた事実が志保にとっては全てだった。
ここで私らしく行動できないのなら、遠藤志保じゃない……。
一瞬でそう覚悟を決め、息が触れ合うほどの至近距離にあるラルフの顔を見つめた志保は、その艶のある唇を動かしていた。
「ラルフ……ごめん……。何か、スイッチ入っちゃった」
※※※
間近にある志保の顔に朱が差したかと思えば、唐突に意味不明の言葉がその口から零れ落ち、ラルフは怪訝な顔をして惚けるしかなかった。
それ故に彼女が取った行動に全く対処できなかったのだ。
「何を言っ!!? んんッ、んん──ッッ!!???」
いきなり唇を重ねられたかと思えば、激しいキスの洗礼を受け仰天してしまう。
逃げようにも狭いコックピットにすし詰め状態である為、後頭部を押さえられれば身動き一つできない。
それでも懸命に顔を左右に振って志保の唇から逃れたラルフは、大いに狼狽しながらも懸命に抗議するのだが……。
「お、おまっ!! んんっ、や、やめろ──んんんん~~~~」
完全に理性が飛んでいる志保が獲物を逃がすはずもなく、結局のところ黒龍搭載のシャトルに牽引されて帰還するまで、ラルフの受難は続いたのである。
然も彼にとって最悪だったのは、通信機の不調は受信機能のみで送信機能は生きていたという想定外の事実だった。
途切れ途切れにレシーバーから聞こえる、くぐもった声と艶っぽい効果音。
イ号潜 黒龍通信担当の女性士官が、嬉々としてその模様を記録したのは言うまでもなかった。
後日クレア主催のお茶会の俎上に乗せられて、極上スイーツにも勝るお土産として皆の話題を独占し、延いてはアルカディーナ達にも広がった艶話のお蔭で大いに祝福されるとは、この時のラルフも志保も終ぞ思わなかったのである。
◇◆◇◆◇
~おまけ~
「こんのおぉぉッ!! 出歯亀ぇ──ッ! ふざけんじゃないわよッ!!」
裸体に薄いシーツを纏っただけの、煽情的な姿には似合わない激情を露にした志保が、渾身の力を振り絞って手にした置時計をぶん投げた。
※※※
黒龍に収容された志保とラルフは、作戦の責任者としてルーエ神聖教国の勢力圏を離脱するまで艦橋にて状況を注視していた。
しかし、グランローデン帝国との戦闘で混乱している為か、戦闘宙域以外の警備は予想以上に緩慢で、艦隊は難なくベギルーデ星系を離脱し、一路アルカディーナ星系へとその進路を取ったのである。
作戦指揮官のふたりも御役御免となり、超長距離次元転移航行に移行した時点で任務から解放されたのだった。
ふたりはラルフに割り当てられた士官室で軽く祝杯をあげて、そのまま褥の中で互いの想いを確かめ合い甘美な一夜を過ごした。
だが、志保が目を覚ました時には隣にラルフの姿はなく、狭い室内を見廻せば、簡易タイプのシャワー室に使用中のシグナルが点灯しているのに気づく。
すると急に照れくささが込み上げて来て、思わず相好を崩してしまう。
(何か気恥ずかしいなぁ……真面にラルフの顔が見れないかも……う~~ん)
随分と浮かれている自分に呆れながらもベッドを出た志保は、シャワー室が空いたら自分もサッパリしようと思い立ち、乱れたシーツをそのまま裸体に巻き付けたのである。
そしてシャワー室のドアが開いた気配を察して、高まる羞恥を堪えて顔を上げ、愛しい男に『おはよう』の挨拶をしようとしたのだが……。
その視線の先には、鍛え抜かれた裸体の下腹部だけをタオル一枚で隠した見知らぬ男が、平然とした顔で立っていたのである。
彫が深く精悍な二枚目との評価に値する志保好みのイケメンだが、初対面の男に半裸の肢体を曝す気など毛頭ないし、見せられるのも御免だ。
激昂した志保は手近にあった小型の置時計を掴むや、その不審者目掛けて全力で投擲したのだった。
「ぐおおぉぉッッ!!???」
それは全く無防備だった男の額を直撃し、哀れその不審者は床に尻もちをついてのたうち回ったのである。
※※※
「この志保様を襲おうなんて、いい度胸してるじゃないのっ! その不埒な根性を叩きなおしてやるわッ!」
威勢の良い啖呵をきった志保だったが、額を押えて憤るその不審者に一喝されて驚愕せざるを得なかった。
「お、おまえはぁッ! 情を交わした男の顔も分からんのかぁッ!?」
その見知らぬ男の口から発せられたのは聞き慣れたラルフの声に他ならず、志保は混乱して口をパクパクさせるしかない。
「そ、その声……ラルフ……なの?」
「当たり前だろうがッ! 俺以外に誰がこの部屋にいるっていうんだっ!?」
余程痛かったのか、憤懣やるかたないラルフが涙目で文句を言う。
しかし、志保にだって言い分はあった。
「だ、だってぇぇッ! ひっ、髭はどうしたのよっ? 綺麗サッパリなくなって、まるで別人じゃないの!?」
そうなのだ、あの自慢(?)の赤髭が跡形もなく消え失せているのだ。
志保でなくても目の前の男性がラルフだと判別するのは困難であり、不審者だと間違われても仕方がないほどの変貌ぶりだった。
「剃ったんだよ。おまえが『くすぐったい』と言ったから……元々、アイラを引き取った時に相棒から『女除けに髭でも伸ばしてみたらどうだ』と言われてな。それ以来伸ばしっぱなしだったんだ……それにしても乱暴な女だ! 確認もせずに物を投げる奴があるかっ!」
「ご、ごめぇ~~ん……だってビックリしたんだもん……」
座り込んだまま頭を押さえるラルフに取り縋って謝る志保。
惚れた男が意外にも好みのイケメンだったのを知った彼女が、ますます熱を上げるようになったというお話でした。
お後がよろしい様で……。
◎◎◎




