第6話:私がいる限り…
翌日、両親と一緒に王宮へと向かい、無事レドルフ殿下と婚約を解消した。レドルフ殿下の傍には、レア様がいた。最後までゴミを見る様な目で、私を睨みつけていたレドルフ殿下。
ただ最後に、嬉しそうに私にこう言ったのだ。
「やっと出来損ないから解放される」
と…
嬉しそうに私の元を去っていくレドルフ殿下とレア様を、私はただ、見つめる事しかできなかった。きっと彼らは、すぐにでも婚約を結ぶのだろう。
正直私には、どうでもいい事だ。
ただお父様は殿下の態度がどうしても気に入らなかった様で、何か言おうとしていたが、必死に止めた。お母様は、終始泣いていた。私のせいで、両親にこんな惨めな思いをさせてしまうだなんて。
私はどこまで親不孝者なのだろう。私さえいなければ、きっと両親も、こんな辛い思いをしなくてもすんだはずなのに…
そう思うと、胸が張り裂けそうになった。
そしてさっき、屋敷に戻って来たのだ。
「アイリーン、君には辛い思いをさせてしまって、すまなかったな。今日は家でゆっくり休んでいなさい」
「ありがとうございます、お父様」
優しい眼差しを浮かべたお父様に、私も笑顔を向けた。こうやってお父様の顔を見るのも、これで最後かもしれない。
私は昨日、既に覚悟を決めていたのだ。私がいる限り、両親やお兄様は惨めな生活を送り続ける。私は彼らにとって、疫病神でしかないのだ。
そしてペンと紙をとると、両親とお兄様に手紙を書いた。彼らには、私のせいで本当に嫌な思いをさせてしまったのだ。それに対する謝罪と、どうか私の事は忘れてほしい旨を記載した。
私の大切な家族。どうかこれからは、幸せに生きて欲しい。そんな思いで、手紙を書き上げた。
手紙を机に置くと、そのまま部屋から出る。
「お嬢様、どこかにお出かけですか?」
心配そうな顔の使用人が、話しかけてきたのだ。
「ええ、ちょっと海が見たくて。私、海が好きでしょう?辛いときは海を見ると、心が落ち着くの」
「そうですか。承知いたしました。それではすぐに手配いたします」
私は辛いとき、いつも海に行く癖がある。その為、今回も馬車を手配してくれた使用人。馬車に乗り込み、大好きな海へと向かう。
「1人でゆっくり海が見たいから、あなた達はここにいてくれるかしら」
「はい、承知いたしました」
いつもの様に近くで使用人たちを待たせ、そのまま海へと向かう。
真っ青な美しい空、太陽の光に照らされ、キラキラと輝くエメラルドグリーンの海。かつて英雄、ジャンティーヌも愛したこの海。
「本当に綺麗な海ね。ジャンティーヌ、あなたは一体何を思い、この海を見つめていたの?あなたは強いから、悩みなんてなかったのでしょうね…」
ついポツリと呟いてしまった。この綺麗な海を見ていると、辛い事も忘れられるのだ。
でも…
靴を脱ぎ、ゆっくりと海に足を付けた。私が生きている限り、両親やお兄様に迷惑がかかる。私がいなくなればきっと、皆幸せになれる。
神様、もし来世があるのなら、どうか皆と同じように魔力が使える様にしてください。そう願いながら、ゆっくりと海を進んでいく。
その時だった。
“皆、希望を捨ててはいけないわ。どうか生きる事を諦めないで!大丈夫よ、きっと魔王を倒せるから。どうか私を信じて、ついてきてちょうだい”
“まだよ…まだ終わっていないわ…あなたなんかに絶対に負けない。たとえこの命が尽きようとも…絶対に倒して見せるわ…”
頭の中に次から次へと流れ込んでくるのだ。
一体何が起こっているの?




