第52話:500年前と何も変わってなんていない
そんな日々が続いたある日。
「今日は5人一組で、山の奥にいる魔物を退治に行く。いいか、魔物は非常に凶暴だ。決して無理をするなよ」
12歳になった私たちは、ついに魔物を倒す訓練を行う事になった。とはいえ、まだ12歳と幼い事もあり、比較的簡単に倒せる魔物を倒すように指示を受けたのだ。私はやっと実践訓練を受けられると、楽しみにしていたのだが…
「どうして私たちが、この女と組まないといけないのよ。本当に最悪だわ」
「それはこちらのセリフよ。あなた達、私の足を引っ張らないでよ」
よりによって、この令嬢4人と同じグループだなんて。本当についていないわ。いっその事、1人で行動しようかしら?ついそんな事を考えてしまう。
とはいえ、5人での行動を義務付けられている為、仕方なくこの子たちと一緒に森に向かったのだ。
ただ、森の中をいくら歩いても、魔物を見つけ出すことが出来ないのだ。
「この森、本当に魔物がいるのかしら?全く何にも出てこないじゃない!」
「私、歩き疲れたわ。少し休みましょう」
相変わらず根性がない子たちね。
「そんなに疲れたのなら、あなた達は休んでいたら?私が1人で魔物を見つけて、1人で倒して来るから」
そう笑顔で伝えると
「誰が疲れているものですか!さあ、さっさと魔物を倒してしまいましょう」
そう言って歩き出した令嬢たち。
とはいえ、確かに魔物はどこにもいない。そもそも、今は魔王はまだ眠っている時期だ。そんな時期に、魔物なんているのかしら?
その時だった。
「うわぁぁぁぁ」
同僚の令息たちが、ものすごい勢いで逃げてきたのだ。一体どうしたのかしら?騎士団たるもの、あんな情けない顔で逃げてくるだなんて。
一体何がいると言うの?
そう思い、令息たちが逃げてきた方を見ると…
「龍?」
見た事のないほど大きな龍が、目の前に現れたのだ。まだ魔力量が完全ではない私たちに、さすがに龍を倒すことはできない。このままでは、私たちも命が危ない。
とにかく逃げないと。
「きゃぁぁぁ!誰か助けて!」
大きな龍から逃げようとした時だった。逃げようとした弾みにこけてしまった公爵令嬢のセレス様が、涙を流しながら助けを呼んでいる。
ただ、すぐうしろには龍が迫っており、セレス様めがけて火を吐こうとしている。このままではセレス様が危ない!
次の瞬間、龍がセレス様めがけて火を吐いたのだ。
「…ジャンティーヌ様…」
「今のうちに、逃げて!ここは私が…」
とっさに魔力を使って、龍の炎をとめたのだが。まだ魔力量が完全ではない私は、今にも龍の炎に飲まれそうだ。このままでは、やられてしまう。
その時だった。
「ジャンティーヌ様だけに、おいしい思いをさせる訳にはいきませんわ」
「そうですわよね。こんなにも大きな龍を倒したとあれば、私達はきっと、もっともっと騎士団で一目置かれますわね」
「認めたくはないけれど、私達、5人で1組ですし」
「リーナ様、ミレス様、クレアナ様」
3人も私の援護をしてくれたのだ。
「ジャンティーヌ様、先ほどは助けていただき、ありがとうございます。あの龍、私に恥をかかせて、絶対に許せませんわ。確か龍の弱点は、喉元でしたわね。ジャンティーヌ様、喉元に魔力をぶつけて下さいますか?
もしできないなら、私がやりますが」
ニヤリと笑ったセレス様。
「誰が出来ないものですか。皆様、援護をお願いします」
私の言葉に、4人がニヤリと笑いながら頷いた。そして4人が一斉に魔力を龍にぶつけたタイミングで、一気に喉元めがけて攻撃魔法をかけたのだ。
その瞬間、龍がうめき声をあげて倒れたのだ。
「お前たち、大丈夫か?」
龍が倒れたタイミングで、隊長たちがやって来た。その瞬間、私達5人はその場にへたり込んだ。
「私達…龍を倒したのですね…」
「本当ですわ。あの大きな龍を倒せるだなんて…」
あんな大きな龍を、まさか倒せるだなんて。今になって、急に体が震えだす。
「ジャンティーヌ様、震えていらっしゃいますよ。それに、傷らだけですし」
「あら、あなた達だって、震えているじゃない。それに、酷い怪我よ」
「本当に、酷い怪我ですね。ジャンティーヌ様、あの時助けて下さり、ありがとうございます」
そう言うと、セレス様が私に治癒魔法をかけてくれたのだ。温かくて心地よい光が、私の体の傷を癒してくれた。他の3人にも治癒魔法をかけるセレス様。
「セレス様は、治癒魔法が得意なのですね。あれだけの魔力を使ったのに…その…こちらこそ傷を癒してくださり、ありがとうございます。それから、あなた達のお陰で、大きな龍を倒せましたわ。あなた達、いつもは意地悪なのに、意外と正義感が強いのね」
「いつも意地悪は余計よ。あなたこそいつも大口を叩いていたけれど、口だけではなかったわね。今日のジャンティーヌ様、とても勇敢でしたわよ」
「それを言うのなら、あなた達もでしょう」
そう言って5人で声を上げて笑ったのだ。
この出来事をきっかけに、私たちは打ち解け、いつしかお互い信頼できるほどの仲になったのだ。




