第51話:魔王から語られた真実
いよいよ魔王の待つ洞窟の奥へと向かう。きっとたくさんの魔物たちが襲ってくるはず。そう思っていたのだが…
「あら?どうして魔物たちが襲ってこないの?」
500年前、沢山の魔物たちと魔王が待っていた場所に着いたのだが、なぜか魔王も魔物たちもいない。一体どうなっているのだろう。もしかして、ここではなかったの?でも、金と銀の龍もいたし…
「アイリーン、魔王の姿がないが、本当にここであっているのかい?」
困惑した顔で、お兄様が私に問いかけてきた。
「ええ、間違いないはずです」
「グリム殿、確かに500年前、ここで魔王と戦いました。俺も覚えているので」
ジルバード様もそう言ってくれたのだが、ただ肝心の魔王と魔物たちの姿がないのだ。
その時だった。
「やっと来たか。500年前の記憶を持っていたにも関わらず、随分遅かったな。アイリーン」
この声は!
「魔王!!!」
真っ黒な大きなイスに腰掛け、真っ赤な液体を飲んでる魔王が、急に姿を現したのだ。一体どこにいたのだろう。
とはいえ、魔王が現れたのだ。一気に緊張が走る。
「アイリーン、少し話をしないか?それにしても、運命とは不思議なものだな。500年前、主力だった者たちが、再びこの地に集まるだなんて」
「主力だった者たち?」
一体どういう意味だろう。
「俺は人の魂を見る事が出来る。今回主力として戦っている者たちは皆、500年前も同じ様に主力で戦った者たちだよ。お前の愛する兄も、友人たちも皆、500年の時を超えて転生してきたのだよ。お前を虐めていた女たちは、かつてお前の右腕として戦った、隊長たちだったな」
そう言って笑った魔王。
彼女たちが、かつて私の右腕として戦った隊長たちですって…
「そんなはずはありませんわ。だって私達、散々アイリーン様を傷つけてきたのですよ。それなのに500年前、ジャンティーヌ様を陰で支え、散っていった伝説の隊長だっただなんて」
「私も信じられません。彼女たちがどれほど偉大で素晴らしい人たちだったか…そんな方たちの生まれ変わりだなんて…」
「私たちは、彼女たちの様に強くて立派な人間ではありませんわ」
「そう言って私達を混乱させる作戦なのですね。でも、その手には乗りませんわよ」
令嬢たちが次々と意見する。
「皆様、どうか落ち着いて下さい。実は私はずっと、あなた達が500年前、私の為に命を懸けて戦ってくれた親友たちなのではないかと思っておりましたの。それにあなた達は、500年前の隊長たちにそっくりですよ」
~500年前~
「ジャンティーヌ、あなたちょっと魔力が強いからって、生意気なのよ。今日だって隊長に褒められていたでしょう」
「あなた、協調性がないのよ。昨日だって、勝手に一人で稽古をこなしてしまって」
「騎士団は団体行動なのよ。ちょっと自分が優れているからって、好き勝手やってもらったら困るわ。どうせ自分が魔王を封印できるとか、考えているのではなくって?」
「次の副隊長の試験資格だって、隊長に媚でも売ったんでしょう?あなた、要領だけはいいものね」
「相変わらず口だけは達者なお嬢様たち。人の悪口や妬みばかり言っている時間があれば、稽古に励んだら?それから、悔しかったら私に勝ってからにして頂戴。私、あなた達の戯言に付き合っている暇はないの。
それじゃあ、またね」
「「「「何なのよ、あの女!」」」」
後ろで彼女たちが、ギャーギャー騒いでいる。相変わらず性格の悪い子たち。本当に、どんな躾をされてきたのかしら?悔しかったら、私に勝てばいいのに。
私に一回も勝ったことがないくせに、よくあんな事が言えるわね。本当に恥ずかしい人たち。
魔力が大幅に増える少し前の8歳で騎士団に入った私は、年齢が上がるにつれて持ち前の魔力量を生かして、どんどん成長していった。その成長力は恐ろしく、当時の団長にすら一目置かれるくらいだった。
他の同僚や先輩たちも、皆私に良くしてくれる。でも、なぜかあの4人だけは、私に敵意をむき出しにして来るのだ。
とはいえ、同じ土俵に立つものアホらしい。適当にあしらう事にしていた。




