第47話:亡き友たちの為にも
「なんて綺麗な星空なのかしら…この場所は、あの頃とちっとも変っていないわね」
空を見上げると、そこには満天の星空が広がっていた。懐かしいわ、500年前も、私はこの場所で満点の星空を見上げていた。既に数週間も続く魔王軍との戦いに、心も体も限界を迎えていたあの頃。
それでも美しい星空を見ると、心が少しだけ和んだ。星空を見ている時間だけは、今置かれている過酷な現実から逃げられるような気がしたのだ。
団長として、決して弱音を吐く事を許されなかったあの頃。次々と大切な人たちを失くしていく現実。それでも国の為、民の為、大切な人たちの為に戦わなければならない、決して逃げる事が出来ない状況の中、この星空が、私の心を癒してくれた。
500年前、私は星に何度もお願いした。次生まれ変わった時は、どうか魔力を持たない人間に生まれたい。もう二度と、こんな戦いをしたくない。どうか普通の令嬢として、生きさせてくださいと…
「お星さま、500年の時を超えて、再びお願いを聞いて下さい。どうか魔王との戦いが、これで最後になりますように。もう二度と、皆が魔物と戦わなくてよくなりますように。私やジルバード様の様な、辛い宿命の背負った人間が生まれませんように。どうかお願いします」
そっとお星さまにお願いをした。この戦いが、どうか最後になりますように…
「アイリーン、ここにいたのかい?外は冷えるし、いつ何時魔物たちが襲ってくるか分からないのだよ」
私の元にやって来たのは、ジルバード様だ。そっと私の隣に、腰を下ろした。
「あら、魔物は夜には襲っては来ませんわ。500年前も、そうだったでしょう?」
「確かにそうだったけれど…でも、油断は大敵だ。それに、明日には魔王との戦いが控えているだろう。明日の朝、一気に洞窟まで進むことになっているのだから」
ジルバード様が言った通り、明日魔王との戦いが控えている。500年前とは違い、今回は魔王の居場所を把握できている為、ここまでびっくりするほど順調に進める事が出来たのだ。
500年前の戦いを思い出す。ついに魔王の居場所を発見したあの日、金と銀の龍に親友だったリーナとミレスを失った。そして魔王との戦いで、同じく親友だったセレスとクレアナを失ったのだ。そしてジャンティーヌ自身も…
私にとってあの場所は、最も辛い思いをした場所だ。あの日を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうになる。
それでも私は、魔王と再度戦う事を決めたのだ。
「アイリーン、こっちに来て」
そっと私の肩を抱き寄せたジルバード様。
「500年前も、君はこうやって星を見ていたよね。君がお星様にお願いしている姿は、本当に美しくて、月の女神の様だったよ。ただそれと同時に、君が星たちに連れていかれるのではないかと、不安だった。
そんな俺の不安は的中し、君は魔王を封印すると同時に、命を落とした。俺はあの時の事を、今でも鮮明に覚えている。君の親友でもある隊長たちが次々と命を落としていった。
絶望の中、それでも泣き言を言わずに、俺に“殿下、お辛い思いをした分、どうか誰よりも幸せになってください”そう最後に言い残して、君も散っていった。
あの時の無念さや悔しさ、己の弱さは、未だに俺の心に深い傷となっての残っているんだ」
私を抱く力が強くなるのを感じた。
「ジルバード様、500年の時を超え、あなたの無念を晴らす時が来ましたね。明日はきっと、辛い戦いになるでしょう。正直私も怖いです。500年前、次々と目の前で大切な人たちが命を落としていった。あの時の光景は、私の心に大きな傷となっています。
私の為に自ら魔王との戦いに挑んでくれた、4人の親友たちを今度は守れたら…と言いたいところですが、私の親友たちは、もうここにはいません。ですが、いつか彼女たちが私の様に転生した時、彼女たちが安心して令嬢として暮らせるように、私は明日の戦に必ず勝利したいのです」
500年前、共に戦った友たちはここにはいない。彼女たちもきっと、無念だっただろう。彼女たちが次に生まれ変わった時、魔王に怯えることなく令嬢として暮らせるように、そしてこの地に住む全ての人、これから生まれてくる未来の子供たちが安心して暮らせるように、私は戦うのだ。




