第46話:蘇る気持ち
「アイリーン様、そろそろ移動を…て、酷いお怪我をしていらっしゃるではありませんか。すぐに治療を」
私の元にやって来たのは、ルリアン様だ。
「ケガは大したことはないので、大丈夫ですわ。ルリアン様、沢山のけが人を治してくださり、ありがとうございます。どうかもう、休んでください」
ルリアン様はたくさんの人を助けてくれたせいか、既に体力も魔力も限界だろう。現に少しふらついていた。これ以上魔力を使ったら、彼女の命に関わる。
それに体力が回復すれば、この程度の傷は自分で治せるし。何よりも私は、彼女たちからの暴力で、痛みには慣れているのだ。
「私は治癒師として、ここに来ているのです。戦いの方では他の方たちの様に戦力にははりませんので、せめてこれくらいはさせて下さい」
そう言うと、体中に温かく柔らかい光に包まれたのだ。この魔力…懐かしい…
“ジャンティーヌったら。また無理をして!あなたは団長なのよ。これ以上無理はしないでちょうだい!本当にジャンティーヌは!”
ふいに過去の記憶が蘇る。500年前の魔王の戦いの時、治癒師が全滅してしまった後、自分は治癒魔法が得意だからと言って、自ら積極的に治癒を行っていた大切な友人。第13部隊隊長だった、セレスだ。彼女は自分の命と引き換えに、沢山の人の命を助けて息絶えた。
「ありがとうございます、ルリアン様。私はもう大丈夫ですわ。どうかこれ以上、治癒魔法を使わないで下さい。500年前…ジャンティーヌの親友も、あなたと同じようにたくさんの人を助け、命を落としましたので…」
「アイリーン様は、ジャンティーヌ様の時の記憶があるのでしたね。あなた様のご友人と私を重ねて下さるだなんて、とても光栄ですわ。きっとそのお方も、とても勇敢で立派な方だったのでしょうね。
確かジャンティーヌ様を支えるため、4人の隊長が自ら魔王との戦いに参加したと書物に記載されておりましたわ。彼女たちは公爵・侯爵令嬢で各部隊の隊長だったのですよね。彼女たちは非常に優秀で、ジャンティーヌ様を最後まで支え続けたと。
彼女たちは魔王が誕生する前から、ずっとジャンティーヌ様を支えてきたのですよね。ずっとアイリーン様を虐めていた私達とは、大違いですわ…」
そう言って、悲しそうに笑ったルリアン様。どうやらまだ昔の事を、相当引きずっている様だ。
「ルリアン様、実は彼女たちも…」
「アイリーン、ルリアン嬢もここにいたのか。今日の休憩場所の準備も出来たし、休めるうちに早く休んでしまおう。きっと明日には、魔王のいる洞窟にたどり着く事が出来るだろうから」
私達の元にやって来たのは、ジルバード様だ。
「アイリーン様、それでは私はこれで失礼いたします。どうかゆっくり休んでください」
笑顔で去っていくルリアン様。
「アイリーン、もう日も落ちて来たし、早く基地に戻ろう」
「ええ、そうしましょう」
ジルバード様に連れられ、今日の休憩場所でもある開けた場所にやって来た。500年前も、ここで休憩をした。あの時は、ここまで来るのに、何週間もかかってしまったな…沢山の仲間も失い、ここまでたどり着けたのは、出発時の10分の1程度だった。
今回も犠牲者は出しているものの、それでもまだ多くの兵士たちが残ってくれている。既に銀の龍も倒している。
「ジルバード団長、アイリーン様、食べ物をお持ちしました。たくさん食べて、力を付けて下さい」
「ありがとう、早速頂くわ」
隊員が沢山の食べ物を持ってきてくれたのだ。せっかくなので、ジルバード様と一緒に頂く。
食後は明日の戦いに備えて、それぞれ魔法で準備された部屋で休むことになった。私も明日に備えて、眠ろうと思ったのだが、どうしても眠る事が出来ず、そっと外に出た。




