第44話:心強い仲間
私達は魔物たちの相手をしている暇はない。目指すは魔王がいる、あの洞窟だ。少しでも戦力を残したまま、魔王の元に向かいたい。
でも…
「うぁぁぁ」
「ぎゃぁぁ」
次々と騎士たちが魔物たちにやられていく。騎士団はもちろん、貴族学院でも実践を積むため、森の奥深くにいる魔物たちを倒す訓練を行っている。とはいえ、ものすごい数の魔物たちを相手にした事はない。
完全にパニックになっている者も、少なくはない。
「皆、落ち着いて下さい。確かに数は多いですが、あなた達が今まで行っていた訓練通りに行えば、倒せない相手ではありません。どうか前を向いて!」
「アイリーン様の言う通りですわ。あなた達、それでも騎士団なの!しっかりしなさい!アイリーン様、私が道を開けます。少しずつでも進みましょう」
「けが人は私がまとめて治すわ。こっちに連れて来て」
「あなた達、ここは戦場よ。生半可な気持ちなら、今すぐ王都に帰りなさい!敵は次々と襲ってくるのよ。前をしっかり向いて。ほら、今よ。一気に炎を放出して!」
「1人1人好き勝手に戦ってはいけないわ。皆、ある程度まとまって戦いましょう。とにかく、皆落ち着いて戦って!」
「あなた達…」
完全にパニックになっている騎士たちを束ね始めたのは、かつて私を虐めていた4人だ。あんなに苦手だった子たちなのに…
「アイリーン様、どうされたのですか?よそ見をしている場合ではありませんわ。四方八方から魔物たちが襲ってくるのですよ。一瞬でも気を抜いたらやられてしまいます」
「ええ、そうですわね。ごめんなさい」
彼女たちの存在が、こんなに心強いだなんて。私も負けていられないわね。
次の瞬間。
「きゃぁぁぁ」
「ミミア様!」
私の傍で戦っていたミミア様が、ものすごい勢いで吹き飛ばされていったのだ。
「ルリアン様、すぐにミミア様の治療を行ってください!」
ミミア様を襲ったのは、間違いない。あいつだ!でも、どうしてあいつがもうこの場所に?
ミミア様が吹き飛ばされた反対側を見ると、20メートルはあろうかという銀色の龍が。
「どうして銀の龍が、ここにいるのだ?まだ洞窟は先のはずだが」
ジルバード様も、完全に戸惑っている。そう、銀色の龍は、魔王のいる洞窟を金色の龍と一緒に守っているのだ。こんなところにいるなんて、あり得ない。
とはいえ、驚いている暇はない。一気に魔力を込めた龍が、青い炎を吐き出したのだ。
「「「「うぁぁぁぁ」」」」
急に現れた銀色の龍に、完全にパニックになる騎士たちが、恐怖で四方八方に逃げ出したのだ。まずい、このままでは沢山の犠牲者が出る。
「アイリーン!一体何を!」
青い炎を吐いた龍の前にすぐさま移動すると、一気に魔力を込めた。その瞬間、ものすごい衝撃が私を襲った。
「うっ…」
腕から猛烈な熱さと痛みが伝わる。
何のこれしき!
「アイリーン!!」
「アイリーン様!」
「皆…落ち着いて。パニックになったら相手の思うつぼよ!確かにこの龍は強いわ。でもね、今回なぜか銀の龍が先に現れてくれたのよ。ラッキーだと思わない?500年前は、金と銀の龍、同時に相手をしたのだから」
とはいえ、1人でこの龍の相手をするのは辛い。このままでは…
「アイリーン様、私も応戦いたしますわ」
「私も」
「俺もだ。アイリーン、君1人に任せてすまなかった」
「アイリーン、あいつの弱点が分かるか?俺がそこを狙う」
私の元に来てくれたのは、アイリス様とカミラ様、ジルバード様とお兄様だ。
「お兄様、あいつの弱点は、頭の上にある穴です。あの穴の奥にある赤い丸い物を壊せば、銀の龍は倒せます。金の龍も同じです。ただ…あの赤い丸い物を壊した瞬間、猛毒が出るのです。
500年前、かつての隊長だった人物が、自ら壊しに行き命を失いました。彼女たちはなんとか龍の頭に乗り移り、その瞬間一気に魔力をぶつけたのです」
この龍を倒すためには、誰かが犠牲にならないといけないのだ。それも、隊長クラスの魔力を多く持った人間が全力で魔力をぶつけなければ、破壊する事が出来ない。壊れた瞬間、龍の頭の上にいた彼女たちは、ものすごい勢いで噴射された毒を全身に受け、そのまま命を落とした。




