第42話:動き出しました
ジルバード様にも、前世の記憶がある事を知らなかった貴族たちが、目を丸くして固まっている。
「ああ、俺は500年前、ジャンティーヌに命を救われた当時の第二王子、ギルドの生まれ変わりだ。あの時の辛さや無念さは、今でもはっきりと覚えている。だからこそ、今回は彼女を巻き込みたくはなかったのだが…」
複雑な表情で私を見つめるジルバード様の手を、ギュッと握った。
「ジルバード様のお気持ちは、分かりますわ。ですが、そんな悠長な事を言っていられるほど、魔王は甘くありません。ジルバード様がおっしゃった通り、金と銀の龍は恐ろしく強いのです。火を吐く量はすさまじく、その上見た事もない様な炎を吐きます。
龍によってかなりの勢力を削がれました。私の当時の親友でもあった、第11部隊と16部隊の隊長も、この龍との戦いで命を落としたくらいですから…」
第11部隊の隊長だったリーナと、第16部隊の隊長だったミレスは、私の体力を温存させるために、自ら先陣を切り戦ったのだ。そして自分たちの命と引き換えに、金と銀の龍を倒すことに成功した。
ジャンティーヌの功績ばかりが後世に語り継がれているが、彼女たちがいたからこそ、私は魔王を倒せたのだ。
思い出すと涙がこみ上げてくる。またあの子たちに、会いたい!でも、それは叶わない話…
「要するに、魔王との戦いは苦難の連続という事ですな。気を引き締めて行きましょう」
「魔王との戦いはもちろんですが、街を守る部隊も十分気を付けて下さい。魔王が復活すると、魔物たちの数が恐ろしいほど増えます。世界最強の魔物、ドラゴンも襲ってきます。前回の戦いでは、王都でも恐ろしいほどの死者を出したくらいですから」
「王都を守る部隊も、気を引き締めていかないと、という事ですな。とにかく我々も、気を引き締めて行きましょう」
「自分の国は自分たちで守る!絶対に魔王の好き勝手にはさせない。これは我々の存続をかけた、人間と魔族との命を懸けた戦いです。絶対に負ける訳にはいかない!皆様、全身全霊で戦いましょう!」
「「「「「「おぉぉぉぉぉ」」」」」
改めて皆の気合が入る。
「皆の者、辛い戦いを強いてしまって本当にすまなかった。我々も王族として、できる限り戦おう」
「私もこの国の王妃として、できる事をさせていただきます。どうか皆さま、お力を貸してくださいませ」
陛下や王妃殿下も、頭を下げた。彼らも自ら戦うつもりなのか、騎士の格好をしている。
「陛下、王妃殿下までも…あれ?王太子殿下は、どちらにいらっしゃるのですか?」
「そういえば姿が見当たりませんな。彼はこの国の王太子ですのに。一体どこに行かれたのでしょうか?」
「次期国王でもある彼に戦えとはいいませんが、それでも姿位は見せても…」
辺りをキョロキョロする貴族たち。
「レドルフはその…腹が痛いみたいで部屋で休んでいる。本当に情けない息子ですまない」
なぜか陛下が申し訳なさそうに、頭を下げたのだ。この時、全ての人たちが察した事だろう。今この国の貴族や王族が一丸となって魔族との戦いに挑もうとしている。もしかしたら、自分も戦わされるのではないかと不安になったレドルフ殿下は、現実から逃げるために腹痛を装っているという事を…
本当に情けない男だ…
「レドルフ殿下の事は置いといて、我々は我々のできる事をやりましょう」
改めてそれぞれが気合を入れ直した時だった。
「皆様、多変です。東の森から、おびただしいほどの魔物たちの群れがやって参りました。龍も見たところ、3匹ほどいる様です。既に避難所になっていた場所も襲撃にあい、多くの市民たちが犠牲になっております」
ついに魔王が動き出した。




