第41話:最後の作戦会議
「アイリーン、彼女たちは既に覚悟を決めている様だ。君が止めても、きっとついてくるよ。それにしても今日の君の姿、ジャンティーヌにそっくりだね…本当に、生き写しの様だよ」
目を細め、私を見つめているのはジルバード様だ。
「ジルバード様、今はその様な事を言っている場合ではありません。ただ、彼女たちの件は、これ以上私がとやかく言う事は出来ませんね。あなたたち、どうか無理はせず、危険だと思ったらすぐに逃げて下さい。
魔王はあなた達が思っている以上に、非道な人間なのです。あの人は人の悲しみや憎しみの念を、好む傾向にあります。特に治癒師は優先的に攻撃を受ける事も多いのです。前回の戦いでは、魔王との戦いに参加した治癒師は、全滅でした。
というよりも、千人規模で参加した討伐でしたが、生き残ったのはわずか10名程度だったのです。それでも参加しますか?」
次々に惨殺されていく部下たちを助けられなかったことが、ジャンティーヌの心に深く刻まれている。もう二度と、あんな思いはしたくない。
今ならわかる、ジャンティーヌがなぜ私の魔力を封印たのかを…それくらいジャンティーヌにとっては、辛く苦しい戦いだったのだ。
「わ…私はそれでも、魔王と戦います。魔王に関する書籍も沢山読んできました。そもそも、我が国の貴族たちは、命を懸けて魔王と戦う事を覚悟しながら、生きておりますから!」
「ルリアン様の言う通りですわ!物心ついた時から、魔王がいつ襲ってきてもいい様にと訓練を受けてきているのです。私は公爵令嬢です。公爵家の人間が、戦いに参加しないだなんて、家の恥ですわ!」
「この国に生まれた貴族として、既に覚悟は出来ております」
真っすぐ私を見つめる4人。その瞳の先には、強い意志を感じられる。
“ジャンティーヌだけに、魔王との戦いをさせるわけにはいかないわ。私達の部隊も参加するわ。もちろん、隊員たちには、無理強いをさせるつもりなはい。希望者だけを連れていくつもりよ”
“でも、あなた達に負担をかける訳にはいかないわ。お願い、あなた達はこの街を、魔物たちから守って。これは団長命令よ”
“それなら私たちも、隊長として言わせてください。ジャンティーヌ団長、我々第11部隊・13部隊・14部隊・16部隊は団長の補佐として、魔王との戦いに参加する事を希望します。既に書類は提出済みですので”
“あなた達…どうしても私のお願いを聞いてくれないのね…魔王はとても強いのよ…”
“あなたが私たちを心配してくれる様に、私たちもあなたを心配しているのよ。それに、隊長として私たちも、魔王と戦いたいの。たとえ命を落としたとしても”
脳裏にある記憶が蘇る。500年前、私の同僚で私と同じ公爵・侯爵令嬢だった4人の親友。そんな彼女たちは、私の身を案じ、自らの部隊を率いて私の補佐に当たってくれたのだ。
でも彼女たちも、あの時の戦いで命を落とした。
また嫌な記憶が蘇ってしまった。しっかりしないと!今目の前にいる彼女たちは、確かに公爵・侯爵令嬢だけれど、500年前の私の親友たちとは見た目が全然違う。転生した私やジルバード様は、前世の見た目とまるっきり同じだったのだ。だから彼女たちは、丸っきり別人だ!
「あなた達の気持ちは理解しました。それでは最終確認を行いましょう。500年前の私の記憶によると、魔王はこの森の奥の、大きな洞窟の中にいました。きっと今回も、ここで魔王は待っているはずです」
前世では、魔王が中々見つからなくて、随分と戦いを長引かせてしまった。でも、今回は短期間で決着を付けるつもりだ。
「確かここには魔王を守るように、大きな銀色と金色の龍が2匹いたね。通常の龍とは比べ物にならない程強かったはずだ。この龍のせいで、前回の戦いでは多くの兵士たちをここで失ったよね」
「ジルバード殿下、まさかあなた様も…」




