第40話:この国の貴族たちの思い
部屋から出ると、両親やお兄様が待っていた。お兄様は今回の戦いに参加するため、私と同じ騎士の格好をしているのだが…なぜか両親まで、騎士の格好をしているのだ。
「お父様、お母様、どうされたのですか?その格好は…」
「息子や娘が命を懸けて魔王と戦うのだから、私たちも何かしたくてね。それで、街に出るだろうと予想される、魔物だけでも倒そうと思って」
「子供たちが命がけで戦うというのに、何もせずに安全な場所にいるだなんて、そんな事は私達には出来ないわ。私達も、戦う事にしたのよ」
「何をおっしゃっているのですか?魔物たちはとてもどう猛なのですよ。そんな相手と、お父様とお母様が戦うだなんて」
「あら、私はまだ39歳よ。まだまだ戦えるわ。それに有事の時に、貴族が命を懸けて平民を守らなかったら、私たちの存在意義なんてないでしょう。私、これでも魔力は人一倍ある方だから」
「アイリーン、君が私たちを心配してくれる気持ちは有難い。だが、今回は騎士団に所属していない令息や令嬢たちはもちろん、当主や夫人たちも戦うと意思表明をしている人が沢山いるんだよ。
きっと昨日の君の行動に、多くの人が心を動かされたのだろう。自分たちの国は、自分たちで守る。誰かに頼ってばかりではいけないと、皆が気が付いたのだろう」
「お父様…お母様…」
「アイリーン、こう見えて両親は恐ろしく強いんだ。魔物程度なら、問題なく戦えるだろう。とはいえ、どうかご無理はなさらないで下さいね」
「ええ、分かっているわ。あなた達も、無理はしないで必ず生きて帰って来てちょうだい」
そう言うと、お母様が私とお兄様を抱きしめた。そんな3人を、お父様が抱きしめる。
「さあ、行こうか。きっとジルバード殿下や他の貴族たちもお待ちかねだ。それにいつ魔物たちが襲ってくるか分からないからな」
お父様の言う通りだ。私達にはもう、時間がない。
急いで王宮へと向かう。
王宮に着くと、既にたくさんの貴族たちが集まっていた。お父様が言っていた様に、騎士団に所属していない令息や令嬢、さらに当主やその夫人たちまでも、騎士の格好をして集まっているのだ。
その数はすさまじく、王宮に入りきれない程だ。
私達が到着するや否や、歓声が上がった。
「アイリーン嬢、本当に来てくださったのですね」
「私共も、精いっぱい戦わせていただきます。あれだけあなたに酷い事をしたのだから、こちらも命を懸けて戦わないと、示しがつきませんからな」
「アイリーン嬢、街は私共が守りますから、ご安心を」
胸を叩いてアピールする貴族たち。
さらに
「私、治癒魔法が得意なのです。治癒師として、今回アイリーン様達の部隊に参加させていただきますわ」
「「「私たちもです」」」
かつて私を虐めていた令嬢たちが、騎士の格好をして訴えかけて来たのだ。確かに彼女たちは、皆侯爵令嬢以上だ。魔力は確かに他の子たちよりも長けているが…
「お気持ちは有難いのですが、魔王を甘く見てはいけません。どうか他の貴族たちと一緒に、どうかこの国を魔物たちから守ってください」
彼女たちが魔力に長けているのは分かっているが、きっと魔王には太刀打ちできないだろう。あの男は、非道な奴なのだ。前回の時も、治癒師たちから攻撃していったのだ。そして一番厄介なのが…
「アイリーン様、私たちは、あなた様に酷い仕打ちをしたのです。あなた様をバカにし、暴言や暴力をふるった私たちが、どうして最前線以外の場所で戦えるでしょう。あなたが命を懸けて魔王と戦うのなら、あなたをバカにしていた私達こそ、命を懸けて戦うべきです。
既に覚悟はできております。どうか私たちも、連れて行ってください」
真っすぐ私を見つめる彼女たち。




