第36話:思いが通じ合った2人
そんな私に、ジルバード殿下も微笑み返してくれた。そしてそっと私を引き寄せると、ゆっくりと抱きしめる。
「ジルバード殿下?急にどうされたのですか?」
「どうって、ずっと俺はこうやってアイリーン嬢を抱きしめたかったんだ。アイリーン嬢、さっきの話を聞いている限りだと、君は俺に好意を抱いてくれているのだよね?俺の勘違いではないよね」
「ええ…不謹慎かもしれませんが、私はずっとジルバード殿下をお慕いしておりました。こんなお荷物の私に思われて、ジルバード殿下も気の毒だと思い、気持ちを抑えておりましたが…
もう自分の気持ちに蓋をするのは止めたのです。一度っきりの人生ですから、自分に素直に生きたい。そう強く思えたのは、ジャンティーヌの記憶が戻ったお陰かもしれません。ジャンティーヌは悔いを残してこの世を去ったので。
彼女の無念を晴らすためにも、もう我慢するのは止める事にしました。これからは自分の気持ちを大切に、私らしく生きていきたいので」
今までの私は、自分は我慢して当たり前、何かを望むのは図々しい事だと思っていた。でも、もう我慢するのは止める事にしたのだ。無念の死を遂げたジャンティーヌの為にも、そして今を生きるアイリーンの為にも、自分に正直に生きていく事に決めた。
もう周りにどう思われようと、関係ない。私は私らしく、何も我慢せずに生きていきたい。
「アイリーン嬢…いいや、アイリーン、その…もし魔王を無事封印出来たら、その時は俺と結婚してくれるかい?」
「ええ、もちろんですわ。全てが終わったら、今度こそ2人で幸せになりましょう。ただ1つだけ。ジルバード殿下、封印ではなく倒しましょう。
今の私達ならきっと、魔王を倒せますわ。あの日から500年、ずっと続いた負の連鎖を、私達で断ち切りましょう。未来の子供たちが、安心して暮らせるように」
もう二度と私やジルバード殿下の様な、重い責務を担って生まれてくる悲劇の子たちが現れない様に、今度こそ魔王を倒してみせる。
「そうだね、もう二度と俺たちの様な子が生まれない様に。俺たちの手で、魔王を倒そう。ただ、1つ約束してほしい。魔王討伐は、俺が主体で行いたい。アイリーンは、補佐をして欲しいんだ。
もしアイリーンにもしもの事があったら、俺は…」
不安そうな瞳で私を見つめてくるジルバード殿下。彼はいつも、私の事を心配してくれる。そういえばギルド殿下も、幼いながらいつも私を気遣ってくれていた。
そういうところは、全く変わっていない。
とはいえ、きっと魔王は私との直接対決を望んでくるだろう。もしかしたら、私はこの戦いで、再び命を落とすかもしれない…
「ええ、分かっておりますわ。後ろでジルバード殿下の補助をさせていただきますね」
きっとそれは叶わないだろう。それでも今は、不安そうな顔のジルバード殿下を安心させたいのだ。
「…それは本当かい?俺は不安で仕方がないんだ。君が俺の為に…」
「ジルバード殿下、私はもう死にたくはありません。あなたと共に、生きたいと考えております。どうか私を信じて下さい。私は絶対に、死にませんから。それに私が死んだら、皆悲しむでしょう?これ以上大切な人を、悲しませたくはないのです」
真っすぐ彼を見つめ、はっきりとそう告げた。
「分かったよ…アイリーン、魔王を倒したら、ずっと俺の傍にいてくれるかい?前世でできなかった事を、沢山しよう」
「ええ、もちろんですわ。今からはずっとあなた様の傍におります。もう離れませんから」
ジルバード殿下の手をギュッと握り、そっと彼の肩に体を預けた。温かくて大きなジルバード殿下の手。この手を離したくはない。




