第34話:あなたがいてくれるから私は強くなれる
真っすぐ私を見つめるジルバード殿下。
「アイリーン嬢、君に魔力が戻った時、ものすごく不安だった。君がまた、ジャンティーヌと同じように最前線で魔王と戦うのではないかと。それだけは、どうしても避けたかったんだ。
俺は未だに夢でうなされるんだ。君が最後に魔王と戦い、命を落とした瞬間を。もう二度と俺は、君を失いたくはない。だから、どうか魔王とだけは戦わないでほしい。頼む!」
必死に頭を下げる、ジルバード殿下。まさかジルバード殿下が、そんな思いを抱えていただなんて。
「ジルバード殿下、私は…」
「俺、ものすごく強くなったんだ!この国で一番強いと言われるほど、強くなった。騎士団長も任されるほどに。だからどうか、今度は俺を信じてほしい。俺に魔王を倒す権利を与えて欲しい。
もう二度と、君を失いたくはないのだよ!君を失った時の悲しみは、もう味わいたくはない」
ポロポロと涙を流すジルバード殿下の手を、そっと握った。
「ジルバード殿下のお気持ちは分かりましたわ。正直申し上げますと、ジャンティーヌの記憶が戻った時、このまま黙っていようかとも思ったのです。あなたはジャンティーヌの事を、正義感が強くて仲間思いで、どんな時でも諦めない強い、心を持った女性と思っていたかもしれません。
でも実際のジャンティーヌは、そうではなかったのです。兄を魔王に殺され、絶望と怒りを抱いた事。あんなに強かった兄をいとも簡単に殺した魔王に、自分が勝てるのだろうかと恐怖を抱き、涙を流した事。
どうして自分だけが、命を懸けて戦わなければいけないのだろう。私だって公爵令嬢だ。豪華なドレスを着て、舞踏会でダンスを踊ったり、綺麗なお花を見ながらお茶やお菓子を楽しみたい。
全てを我慢してどうして私ばかり、こんな思いをしなければいけないのだろう。そう思っていたのです。
そして命を落とす寸前、私は願いました。今度こそ令嬢として幸せに暮らしたい。もう魔力なんて必要ない。次こそは、戦いに参加しなくてもいい身分にうまれたいと。
その結果、私の魔力は封印されたのです。
だからこそ、私はこのまま自分の正体を明かさず、魔力を持たない令嬢、アイリーンとして生きる事も考えました」
ジャンティーヌの記憶が戻った時、無念の死を遂げたジャンティーヌの想いに寄り添いたい。そう思った事も確かだ。
「ジャンティーヌの無念を晴らすかのように、私はお母様とお茶を楽しみ、ドレスや宝石を新調し、使用人を捕まえてダンスを踊りました。でも…ずっとやりたかった事なのに、心にぽっかり穴が空いたままだったのです。
そして私は気が付いたのです。私はやはり、愛する人と一緒に戦いたい。彼を救いたい。そして大切な家族を守りたい。そう思ったのです。もうすぐ復活するであろう魔王との戦いを決意した時、心がスッと軽くなりました。
ただ、それと同時に恐怖を抱いたのも確かです。ジャンティーヌと違い、急に魔力を取り戻した私が、魔王と戦えるのだろうか。あんなに稽古を重ねていたジャンティーヌが、命がけで戦った相手に、私は勝てるのかって…
そんな中、今日を迎えたのです。魔王が現れた時、自然と恐怖はありませんでした。むしろ、この人を今度こそ倒してみせるという気持ちで溢れたのです」
真っすぐジルバード殿下を見つめた。
「ジルバード殿下、あなたの存在が、私に勇気と力を与えてくれるのです。あなたが傍にいてくれるだけで、私は恐怖も不安もすべて吹き飛びます。あなたの存在が、私を強くしてくれるのです。
あなたが私を大切に思って下さっている様に、私もあなたを大切に思っておりますし、あなたの力になりたいのです。ジルバード殿下を…愛しているから…」




