第33話:ジルバード殿下の秘密
「アイリーン嬢!待ってくれ」
私の後を追って来たのは、ジルバード殿下だ。
「殿下、どうされたのですか?私には時間がありませんので、これで失礼いたしますわ」
笑顔で彼に頭を下げ、その場を後にしようとしたのだが
「待ってくれ、とにかく一度、ゆっくり話をしよう。こっちに来てくれ」
私の腕を掴むと、そのまま歩き出したジルバード殿下。
「ジルバード殿下、お話しなら、中庭でしませんか?ほら、あなた様が初めて連れて来てくださった、あの場所で」
私がまだ王太子殿下の婚約者だった頃、全く相手にされず1人泣いていた時、ジルバード殿下が案内してくれたのが、中庭の奥にある小さなお庭だ。そこにはジルバード殿下が好きなお花だけが集められた、とても素敵な場所だった。
せっかくなら、あの場所に行きたい。
「アイリーン嬢は、あの場所を覚えていくれたのだね。わかったよ、それじゃあ、あの場所に行こうか」
2人で中庭の奥の、お庭に向かった。
「懐かしいですわ。ここはあの頃と、変わっていないのですね。もう来ることはないと、思っておりましたが」
「実はこの庭は、俺が魔王との戦いに行く日に、閉鎖しようと思って準備をしていたのだよ。でも…まだ閉鎖しなくてよかった。まさかまた、君がここに来てくれるだなんて思わなかったよ」
「まあ、そうだったのですね。あなた様は、既に覚悟されていたのですよね。ご自分の命を懸けてでも、魔王を封印しようと…」
「ああ、そうだよ。俺はどうしても、アイリーン嬢をこれ以上巻き込ませたくなかったんだ…やっと500年もの間、抱え続けていた無念を晴らせると思っていたのに。アイリーン嬢、どうか魔王との戦いには、参加しないでほしい。
もちろん、後方で魔物と戦う分には問題ない。でも、どうか魔王だけは、俺に任せてはもらえないだろうか。俺はもう二度と、あんな思いはしたくないのだよ…」
「あんな思い?」
「アイリーン嬢がジャンティーヌの生まれ変わりの様に、当時の第二王子、ギルドの生まれ変わりなんだ」
「ギルド殿下の生まれ変わりですって…ジルバード殿下は、ギルド殿下と瓜二つだとは思っておりましたが、まさか彼の生まれ変わりだっただなんて。
それで、あなた様はあの後、幸せに暮らせたのですか?」
まだ10歳だったギルド殿下の事は、弟の様に可愛がっていた。まだ幼いのに、魔王を封印するという重役を担わされたギルド殿下。
彼を守りたい一心で、必死に戦ったのだ。辛い思いをした分、どうか幸せになっていて欲しいと願っていたのだが、なぜか困った顔のジルバード殿下。
「俺はあの日、君を失ったショックで、心を閉ざしてしまったんだ。俺にもっと力があれば、ジャンティーヌは死なずに済んだ。俺はね、あの頃強くて優しくて、いつも俺を励ましてくれるジャンティーヌに、恋心を頂いていたんだよ。
でもジャンティーヌは、俺の目の前で命を落とした。それがショックでね。あの日以降、俺は狂ったように稽古を続けたよ。今更いくら強くなっても意味がない。それでも、稽古をやめられなかった。
結局俺は、後悔だけを残してこの世を去ったんだ」
「そんな…それじゃあ、ギルド殿下は…」
「そんな中、俺はまた第二王子としてこの世に生を受けたんだ。最初は第二王子に生まれた事を、恨んだ。どうして同じ王族なのに、俺だけがこんなに辛い稽古をしないといけないのだろう。
そうずっと思っていた。そんな中、アイリーン嬢に出会った。俺と同じ、辛い宿命を背負った君に、最初は興味本位で近づいた。でも、小さな体で必死に自分の運命を受け入れようとする君に、惹かれていった。君に魔力がほとんどないとわかった時は、俺が絶対に魔王を倒して、アイリーン嬢が安心して暮らせる世界を作ろうと、心に決めたんだ。
そんな時、俺は前世の記憶を取り戻したんだ。すぐにわかったよ、君がジャンティーヌの生まれ変わりだと。でも、ひょんなことから、なぜか魔力をほとんど持っていない。
その時思ったんだ、きっと神様が、今度こそ自分の手で魔王を封印し、アイリーン嬢を令嬢として生きさせてやれと言っているのだと。
500年越しの俺の無念を晴らす時が来たのだと」




