第32話:私の想い
私達の間に入って来たのは、ジルバード殿下だ。
「ジルバード殿下、あなた様が私を心配し、傍に寄り添ってくれていた事は、非常に感謝します。私の為に、1人で魔王と戦おうと決めていたことも…
ジルバード殿下の気持ちは、とても嬉しいですわ。ですが私は、ジルバード殿下に全てを背負わせたくはないのです。私にも、守りたい人たちがおります。
私が無能だとわかっても、見守り続けてくれた両親や兄、使用人たち。そして、ずっと傍で私を守り続けて下さったジルバード殿下。彼らの為に、私は戦いたいと思ったのです。
ただ、私も酷い冷遇を受けておりましたから、魔王と戦うに向けての条件があります。こちらに条件が書いております。どうかこの条件を飲んで頂けないでしょうか?」
陛下に事前に準備しておいた紙を手渡した。
「これは…」
内容を見た陛下が、びっくりして私の方を見たのだ。
「陛下、この条件を、飲んで頂けますか?」
「ああ、条件を飲もう。アイリーン嬢、君って子は…」
なぜか泣きそうな顔で、私を見つめる陛下。やっぱりちょっと図々しいお願いだったかしら。でも、この条件だけは、絶対に譲れないのだ。
「それでは、こちらにサインをして頂けますか?」
「ああ、すぐにしよう」
「これで契約完了ですね。それから、どうか騎士団所属の貴族以外にも、今回参加できる貴族はどうか討伐に参加させてください。そもそも1人でも多くの貴族が魔物と戦える様に、日々貴族学院で稽古を積んでいるのですよね。
今回、その成果を発揮するいい機会だと思うのです。もちろん、無理強いはしませんが。貴族なら、自分の国は自分たちで守るという、愛国心を持ってもいいと思いますので」
普段威張り散らしているのだ。国の非常事態の時くらい、貴族が一丸となって戦っても罰は当たらない。
500年前の時は、騎士団に所属している貴族のみが討伐に参加したが、人数が足りなさすぎて、甚大な被害を出してしまった。もちろん、人が多ければいいという訳ではないが、それでも人手が多ければその分、1人の負担は減るだろう。
そう私は思ったのだ。
「ああ、その件に関しては、ここにいる貴族たちも同意している。令嬢たちも、一緒に戦うと言ってくれているし」
「「「もちろんですわ!」」」」
あの子たち、いつも私に酷い事をしていて本当に大っ嫌いだけれど…それでも有事の時に逃げなかった事だけは、立派ね…
それに比べて、レア様は…
そういえば、レア様は一体どうなったのかしら?て、あの人の事は、もうどうでもいい。考えるだけ、時間の無駄だ。
「それでは私は、稽古がありますので。それから一度討伐に参加する方たちを集めて、合同練習を行いましょう。ばらばらに戦って、勝てる相手ではございませんから。とにかく一丸となって、死に物狂いで戦わないといけない相手です」
「アイリーン嬢の言う通りだ。騎士団以外からも参加者を募り、早速合同練習を行おう。ジルバード、騎士団員たちが中心になり、貴族たちをまとめ上げてくれ。
幸か不幸か、魔王は我々に1日という期間を与えてくれた。この1日、無駄にするわけにはいかないからな」
「承知しました…ですが、やはりアイリーン嬢が討伐に参加するのは…」
「ジルバード、アイリーン嬢が決めたことだ。お前がこれ以上とやかく言えることはないよ。それにしても、お前は幸せ者だな…」
ぽつりと呟いた陛下。言っている意味が分からず、ジルバード殿下は首をかしげている。それがなんだかおかしくて、笑いがこみ上げてくるのを、必死に耐えた。
さて、話しは終わった。
「それでは今度こそ、私は失礼いたします」
令嬢らしくカーテシーを決め、その場を後にしたのだった。




