第26話:激励会へ
「アイリーン、ごめんなさい。今日は急遽、王宮に呼ばれていて。どうか1人でお留守番をしていてくれるかしら?」
「ええ、分かりましたわ。私は1人でも平気ですので、どうか気を付けて行ってらっしゃい」
翌朝、両親とお兄様が馬車に乗り込んでいくのを、笑顔で見送った。きっと激励会に参加するために、3人で出かけたのだろう。お兄様ったら、本来は騎士の格好で行かなければいけないのに、いつも通りタキシードで行くだなんて。
きっと途中で着替えるのだろう。
「お嬢様、今日もとてもいい天気ですよ。訓練場で魔力を放出いたしますか?それとも、中庭でお茶にいたしますか?」
使用人たちが話しかけてきたのだ。
「そうね、ちょっと出かけたいから、準備を手伝ってくれるかしら?」
「いけません!今日は旦那様も奥様もお坊ちゃまも、お出掛けになられているのです。旦那様からも、絶対にお嬢様を外に出すなと言われておりますし」
「そう、それじゃあ、歩いていくわ」
「お嬢様!」
自室に戻ると、昨日着たドレスを取り出した。
「お嬢様、そのドレスを着られるのですか?」
「ええ、そうよ。私はこれから、公爵令嬢として生きるの。だから、ドレスを着るのは当然でしょう?このドレス、着せてくれるかしら?それから、目いっぱいおしゃれをさせて」
「承知いたしました。すぐにお着替えをさせていただきますね」
使用人たちが、次々と私を着飾っていった。
「それじゃあ、向かいましょうか。お父様たちがいらっしゃる、広場へ」
「お嬢様、どうしてそれを…」
「昨日偶然聞いたのよ。酷いわよね、最後の挨拶位、私にもさせてくれてもいいと思わない?」
「確かにそうですが…」
「少し様子を見たら、帰って来るわ。だからお願い」
「…承知いたしました。様子をご覧になったら、すぐにお帰りになられるのですよね」
「ええ、もちろんよ」
そう笑顔で伝えると、しぶしぶ馬車の手配をしてくれた使用人たち。そして馬車に乗り込み、今日の会場へと向かった。
既にたくさんの貴族や平民たちが、押し寄せていた。そろそろ始まるのだろう。
「お嬢様、ここにはたくさんの貴族の方たちがいらっしゃいます。本当に向かわれるのですか?」
「ええ、もちろんよ。それじゃあ、行ってくるわね」
馬車を降りると、真っすぐ歩く。皆が私の姿を見て、ヒソヒソしているのが分かった。
「あら、誰かと思えば、出来損ないの英雄様ではありませんか。よくこの場に、顔を出されましたわね」
「本当ですわ、あなたのせいで、ジルバード殿下はこれから命を懸けて戦わないといけないというのに。本当に、どんな神経をしているのかしら?」
いつも私に暴言を吐いてくる令嬢たちが、ここぞとばかりに集まって来たのだ。
彼女たちをギロリと睨みつけた。
「えっ…なんなの、その目は…」
「高熱で頭がおかしくなったのではなくって…行きましょう」
すっと私の元から去っていく令嬢たち。どうしてあんな奴らに、私は怯えていたのかしら。
「アイリーン、どうしてあなたがここにいるの?」
お母様が血相を変えて、私の元にやって来たのだ。
「お母様ったら、水臭いですわ。激励会があるのなら、私にも教えて下さればよろしかったのに」
「何を呑気な事を言っているの?今すぐ帰りなさい。ここはあなたがいる場所では…」
「皆の者、今日は急遽集まってもらってすまない」
ちょうどそのタイミングで、陛下の挨拶が始まったのだ。皆が一斉に陛下の方を見る。陛下の隣には、悲しそうな顔の王妃殿下。涼しい顔のレドルフ殿下と彼にベッタリくっ付いているレア様。
さらにはジルバード殿下の姿もある。ジルバード殿下…
「皆の者も気が付いているとは思うが、数週間前から、急激に魔物たちが現れ出したのだ。きっと魔王復活の時も近い。ただ、安心してくれ。我々には、500年前命を懸けて魔王を封印した英雄、ジャンティーヌ嬢の生まれ変わりでもある、レア嬢がいてくれるのだ。
彼女は今回の戦いも、快く引き受けてくれた。彼女がいる限り、我が国も安泰だ。彼女の体力温存の為に、今はまだ戦いには参加していないが、魔王が復活した暁にはきっと、立派なに魔王を封印してくれると信じている」
高らかにそう宣言する陛下に、周りの者たちも大きな拍手が沸き上がる。




