第18話:一命を取り留めました
「う~ん」
瞼をあげると、目の前には見覚えのある天井が。昨日までの激痛と燃える様な熱さが嘘のように、痛みも熱さも引いている。
ただ、体中から魔力が溢れる様な、そんな感覚に襲われた。どうやら私の体は、魔力を無事受け入れる事が出来た様だ。とはいえ、魔力を受け入れるまでに、1週間もかかってしまったが…
「お嬢様、おはようございます。もう体調はよろしいのですか?すぐに旦那様たちを、お呼びいたしますね」
涙を浮かべて喜んでいる使用人たちが、お父様たちを呼びに行った。そっと手に力を入れる。すると、炎が沸き上がる。
「アイリーン、使用人たちから聞いたぞ。もう体調は問題ないのか?」
お父様とお母様、お兄様が血相を変えてやってきたのだ。
「おはようございます。はい、もうすっかり良くなりましたわ。ただ、まだ少し頭がボーっとするので、もう少し屋敷で休んでいてよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。アイリーンは1週間もの間、高熱と激痛にうなされていたんだ。しばらくは貴族学院は休んで、家でゆっくりしなさい。最低でも1ヶ月は、ゆっくりするといい。とにかく、アイリーンが一命を取り留めて本当によかった」
「アイリーン、辛かったわね。どうかこれからは、我が家でゆっくり過ごすといいわ。あなたが倒れたことは、貴族中に知られているし。このままずっと、屋敷にいたらいいの。もう二度と、あなたが苦しむ姿は見たくないから。いい、分かったわね。屋敷から出てはいけないわよ」
お母様が涙を流しながら、私を抱きしめてくれた。お父様やお兄様も、涙を浮かべながら頷いている。また家族を悲しませてしまったわ…
「アイリーン、ジルバード殿下から聞いたよ。あの日、海に向かって歩いていたそうだね。私達はアイリーンが生きているだけで、幸せなんだ。だからどうか、もう二度とそんな馬鹿な真似をしないでくれ。もしアイリーンの身に何かあったら、私は…」
お父様が涙を流している。お父様がこんな風に泣くだなんて。私は本当に親不孝ね。
「お父様、ごめんなさい。もう二度とあんな愚かな事はしませんわ。生きたくても生きられなかった人たちもいるのに…私はなんて愚かな事を…」
私がいなくなれば、皆が幸せになると思っていた。でも、残された人間が、どれほど悲しい思いをするのか、私が一番よく知っているのに…
ジャンティーヌの兄も、魔王軍との戦いで命を落とした。それもジャンティーヌを庇って亡くなったのだ。その時の辛さを、今でも鮮明に覚えている。
この1週間で、私は完全に前世の記憶を取り戻したのだ。目の前でたくさんの仲間が魔物たちにやられていく。その絶望と悲しみ、自分の無力さ、無念さは今でもはっきりと心に刻まれているのだ。
「アイリーン、まだ顔色があまり良くはないね。どうか屋敷でゆっくり過ごしてくれ。君たち、アイリーンが勝手に外に出ない様に、見張っていてくれるかい?」
「「「「はい、承知いたしました」」」」
「お父様、私は勝手に外に出たりはしませんわ。いくら体調が戻ったからといっても、すぐに動けるほど体力も回復しておりませんので」
そう言って笑顔を向けた。
「そうだな。だが、心配で…」
「アイリーン、今日はお母様がずっと傍にいてあげるわ。あなた、湯あみもずっとできていなかったでしょう。湯あみ後は、一緒に食事をしましょう。その後は、美味しいお菓子を食べながら、お茶をしましょう」
「ええ、そうさせていただけると嬉しいですわ」
「それでは早速湯あみを行いましょう。お嬢様、どうぞこちらです」
嬉しそうに使用人が湯あみをさせてくれた。1週間ぶりに体中をきれいに磨いてもらい、さっぱりした。
湯あみ後は、1週間ぶりに食事を摂る。お母様も気を使ってくれ、ずっと傍にいてくれる。まるで私を、1人にしない様に…




